400字で分かる落語:「穴泥」2
64:穴泥(あなどろ):全2回の2
明治の三遊亭円遊(1:鼻の、ステテコの)の速記では、歳末の金の工面に困った主人公が両国橋から回向院、本所、百本杭、厩橋、吾妻橋、奥山階、観音、吉原……とあてどなくさまよい、最後に盗みを決意する。みごとに明治の風物を描き、上野公園のブランコでさびしく揺れる姿で主人公の心情描写までしている。漱石は『坊っちゃん』の登場人物を円遊から取ったが、『三四郎』では円遊よりも小さんを評価している。これは読めば分かるが、滑稽噺より人情噺を評価したものであって、円遊は明治の珍芸四人衆の中では最も実力があり、東京落語はこの人の型で完成されている。
桂文楽(8)は落ちで泣き声になる。3両に喜び勇んで上がって行くのが絶対に正解だが、「ああ、文楽だなあ」と納得してしまう。春風亭柳好(3)はラジオ東京(現・TBS)のために、上野鈴本でこの噺を録音して倒れ、そのまま楽屋で帰らぬ人となった。