400字で分かる落語「厩火事」
「う」の78:厩火事(うまやかじ)
【粗筋】 髪結の亭主を決め込んでいる夫の愛情に不安を感じたお崎さん、仲人の旦那に相談に行って二つの逸話を聞かされる。「唐土(もろこし)の話だがね」「私目がないの……焼いたのもいいけど、ふかしたのもおいしいのよ」「それはトウモロコシだろう」……孔子が留守の間に、大切にしていた馬が火事で焼け死んだが、帰って来た孔子は、馬のことは一言も触れず人間を心配した。
「反対の話もある。麹町にさる旦那がいて、そこへ珍客到来だ」「まあ、旦那が猿だから、狆が客に来るんですねえ」……こちらの旦那は、皿を持って転んだ女房を心配せず、皿は大丈夫かとだけ尋ねて離縁された。
そこで提案、家に帰って亭主が大事にしている丼を割って、体を心配するなら愛情があるが、丼を心配するなら別れた方がいい……
「どうでしょうねえ……うっかり丼って言うかもしれないから、先に行ってうちの人に、嘘でもいいから体を心配しろって言ってやって下さい」……と、家に帰り、丼を割ると、亭主は丼に目もくれずに体を心配する。
「うれしいよ。そんなに私の体が心配かい」
「当たり前じゃねえか。お前が患ってみねえ、遊んで酒が飲めなくならあ」
【成立】 文化4(1807)年の喜久亭壽暁のネタ帳『滑稽集』に「唐の火事」とある。生粋の江戸落語。古い本には「厩焼けたり」というタイトルも見える。今の形にまとめたのが桂文楽(8)、大正時代におしゃべりの女中が大勢いたという記憶から主人公を創作。35歳くらいで、亭主は7つ年下と設定した。生で見たのは十人くらい、「お前さん、唐土だよ」「もう麹町の猿になっちまう」などは誰でも演るが、三遊亭円楽(5)は洒落満載で丼を割る前に踊りまで登場、「唐土」に「トウモロコシ」が3度も登場するなど、くどくて疲れた(二度目も同じだった)。明るく演ると大笑い、女房の気持ちを描写するとしんみりして、モーパッサンの心理劇のようだ。どちらでも面白い。