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食害を逆手にPR!?クマも食べにくるブドウで作った「Danger」なワイン
本日11月16日は2023年のボージョレ・ヌーボー解禁日だ。
先月あたりからスーパーや酒店の店頭ではワインやそれに合うおつまみの広告が張り出されており、ちょっとしたお祭りの様相を呈している。
さて、ワインの中でも国産ワインといえば山梨県や長野県が有名だが、北東北でも様々なワインが作られている。
有名なところでは山ぶどうを使用した岩手くずまきワインや、国産ワインの草分け的存在であるシャトー・メルシャンの産地の1つ秋田県横手市あたりだろうか。
中でも最近私が非常に気になっていたのは、青森県むつ市にあるサンマモルワイナリーで作られている下北ワイン Danger(デンジャー)だ。
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盗んだやつの顔がわかるワインは
自分が知る限りこれしかない
下北半島にあるこちらのワイナリーのぶどう畑は、ブルゴーニュ地方に近い気候にある。
しかし数年前からある母子のツキノワグマによるぶどう被害に悩まされており、爆竹や光による威嚇などの対策を行っているにもかかわらず毎年のように多大な被害が出ているのが現状だ。
また、下北半島に生息するツキノワグマの個体群は環境省が作成しているレッドデータブックでは「絶滅のおそれのある 地域個体群 (LP)」として登録されており、多大な農作物被害が出ている一方で駆除が難しいという背景もある。
そんなこちらのワイナリーでは「食べられたブドウの分は働いてもらおう」ということで被害を逆手に取り、ブドウの中でもクマが積極的に食べる品種である「シュロンブルガー」と「ライヒェンシュタイナー」を使用したワインの製造を数年前から始めた。
更にエチケット (ラベル) には現れたクマをモデルにしたイラストを採用している。
今回手に入ったのは2021年のヴィンテージのものだったが、2020年のヴィンテージのものは、裏にあるQRコードをスマホで読み込むことで実際にクマがブドウ畑に侵入した際の映像を見ることができる。
クマはその知能の高さと優れた嗅覚の為か、ブドウの中でも完熟したものを的確に食べ尽くす上に、狙っている品種も栽培しているブドウの中でも特に甘みの強い品種ばかりだという。
そのためDangerも甘味の強い仕上がりになっている。
おつまみについては「肉料理やスパイシーなタイ料理、エスニック料理がおすすめ」公式サイトにある他、ワイナリーの方曰く「一般的に白ワインに合わせるものの中でも、特に軽食やサラダがおすすめ」との事だ。
さて、前情報はこの辺りにして早速飲んでみよう。
なお、それらしく色々書いているが、調べたり話を聞いたりしてそれっぽく書いているだけであり、私の舌は普段100円前後の缶チューハイで満足するレベルだ。
ここからの具体的な味のレビューは著しくレベルが下がることが予想される。あらかじめご了承いただきたい。
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カラーコードで言うと#f5f5dcあたりか
瓶を開けると注ぐ前から強いフルーツの香りが漂う。パイナップルやバナナのような南国系ではなく、慣れ親しんだぶどうやりんごのような類のフルーティさだ。
ワインの香りがそのままブドウの香りではないことは理解しているが「初めてこの香りを嗅いだ野生のクマでも『多分これは美味しい果物の匂いだ』と思ってやってくるだろうな」と思ってしまう。
そしてそして口に入れるなり、まず甘さが舌に来る。貴腐ワインのようなドライフルーツチックな舌に残る類の甘さではなく、フレッシュジュースのような後に残らないさっぱりとした甘さなのだが、その甘さが強いのだ。少なくとも山のきぶどうより甘い。
これはしっかりと冷やしたほうが美味しいかもしれない。
砂糖などを入れずに、しかも発酵で相当の糖分がアルコールになっているのにこれである。ワイン用ブドウ品種の糖度は生食用ブドウ品種の糖度よりも高いという話は聞いたことがあるが、それが改めてよく分かる。
対して酸味は強くなく、酸味を楽しむというよりも強い甘さがしつこくならない為にあると言う印象を覚えた。
総合すると、単体でも非常に飲みやすい。特に自分のような普段からワインを飲んでいるわけでもない人間でも抵抗なく飲める。いい意味で「子供の頃に児童文学で読んだぶどう酒」のような印象だ。
ただ、フルーティな香りと甘みの強さからするに、合わせるおつまみは少し考えたほうがいいかもしれない。少なくとも食中酒には向かなさそうだ。
ワインには詳しくないが、こういった特殊なコンセプトがなければあまり作られないタイプの尖った味なのだろうな、とも思った。
しかしワインといえば欠かせないのは、食事とワインを合わせる行為、即ちペアリングだ。
せっかくなので北東北の様々な食材を使ったおつまみとペアリングさせてみよう。
秋田県産イチジクジャムと岩手県産チーズのカナッペ
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超お手軽おつまみ
イチジクといえば南方の植物のイメージが強いが、実は秋田県でもイチジク栽培が盛んだ。
特に栽培が盛んなのは山形県との県境にある秋田県最南端の街にかほ市。最近はチェンソーマンの作者の出身地で、とある印象的なシーンの舞台となった街として有名になった。
現在は行われなくなったが、2020年まではいちじくいちというイチジクをPRするイベントも行われていた。
日本国内で栽培されているイチジクの品種のほとんどは桝井 (ますい) ドーフィンという品種だが、秋田県内で主に栽培されているのは、ホワイトゼノアというやや小振りで固めの品種だ。
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左が桝井ドーフィンで右がホワイトゼノア。
国内で生産されるイチジクの8割は桝井ドーフィンらしい
ホワイトゼノアは完熟したものは生食もできるが、基本的には加工用として販売されることが多い。シーズンは9月から10月の終わりまでなのでこの時期はまず見かけないが、甘露煮やジャムといった加工品が道の駅などでよく販売されている。
今回使ったジャムもおそらくホワイトゼノアを使ったもので、粗めに切られたイチジクの食感と香りがよく残った手作りジャムだ。
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そして使うチーズは岩手県にあるくずまき高原牧場のゴーダチーズ。
岩手県は畜産が盛んな県だ。
中でも酪農に関しては小岩井農場を有する八幡平 (はちまんたい) 市や元々馬産地として有名だった一戸 (いちのへ) 町や洋野 (ひろの) 町など県北部で盛んだ。
そんな県北部にある葛巻町は岩手県でも初期に乳牛であるホルスタインを導入した町であり、現在もくずまき高原牧場の牛乳や乳製品が北東北ではスーパーなどで売られている。
これだけで食べてみると口に入れた瞬間の味わいは控えめだが、直後にふくよかな旨味とわずかな苦味が広がり、まろやかなミルクの風味が通り抜けた後、最後微かにに心地よい草の香りが残る。
そんな2つを組み合わせてみると、イチジクの独特の香りのなかにある青さがチーズの乳の香りに包み込まれて穏やかになる。
口に入れた瞬間に香りと甘さを感じさせるジャムと時間差で旨みと塩気が広がるチーズ。これ以上ない組み合わせだ。
どうしよう、ワイン関係なく既にめちゃくちゃ美味い。
とはいえ、これで終わってしまっては本末転倒だ、というわけでワインをここで飲む。
するとまあ、すごい。
ワインで特徴的だった強い果実香と甘味はそこまで強く感じられないが、負けてしまったというよりもカナッペの味に滑らかに溶け込んでいるという方が正しい気がする。
ワインの酸味と単体ではあまり感じなかった苦味が、イチジクとチーズの濃厚な後味を引き締めてくれる。脳内の指揮者が手をくるっと回してキュッとする動きをしている。
そして口の中がさっぱりしたところで、思わず次の1枚に手が伸びる。
ワインを口にして初めて分かった。
そうか、この組み合わせに足りないのはキレだったのか。すごいぞ、これがマリアージュか。
岩手県産鶏もも肉のガイヤーン
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混ぜて漬けて焼くだけの料理だ。
スパイシーな肉料理、ということでタイの肉料理ガイヤーンを作ってみた。
畜産の盛んな岩手県ではブロイラーの生産も多数行われており、鹿児島県、宮崎県に次いで全国3位の出荷数を誇っている。
秋田県の比内地鶏や青森シャモロックのような味が濃く詰まった地鶏もいいが、ブロイラーの柔らかさとジューシーさはまた違った魅力がある。
味付けはナンプラーと醤油とオイスターソースと砂糖、それにニンニクと生姜をパクチーとカイエンペッパー、さらに業務スーパーにあったレモングラスペーストなるものを混ぜた液体に1時間ほど漬け込んだものをフライパンで焼いたものだ。
字で書くと手間がかかっているように見えるが、パクチーとレモングラスペースト以外はどこのスーパーでも普通に売っているような調味料であり、混ぜて漬けて焼くだけなので作ってみるとかなりシンプルだ。
なおナンプラーではなくしょっつるを使うべきだったと完成した後に思った。
ナンプラーとパクチーとレモングラスの香りが混じり合い、東南アジアの屋台の香りを思い出させるかなり本格的な香りがするこちらの料理だが、味はクセが少なくマイルド。材料を見れば分かるかもしれないが、現地のものと同様にスパイスの香りを感じつつも日本の照り焼きに通じる慣れ親しんだ美味しさだ。
そんなこちらをワインと共にいただくと、今度は酸味に加えて甘さとフルーティさが引き立つ。これがまたスパイシーさの棘のある部分をまろやかにしつつも打ち消さない、絶妙なバランスだ。
昔ガイヤーンをシンガポールで食べた際にライムが添えられており、それを絞って食べると本当に美味しかったのを思い出した。レモンのようなキレのある酸味ではなくライムの丸みのある酸味なのがミソであり、まさにあの役割をこのワインが果たしていると感じた。
また、食中酒には向いてなさそうと書いたものの、タイでよく食べられる香りの強いもち米には合うかもしれないな、と食べていて思った。
青森県産帆立のカルパッチョサラダ
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白ワインといえばやはり海鮮だろう
そして大本命。
ペアリングの基本の中には「ワインと料理の産地を合わせる」というものがあるらしい。陸奥湾に接する下北半島、陸奥湾といえばホタテだ。
こちらを線維と垂直に薄く切って、最近ハマっているライム塩をかけて少し冷蔵庫に入れておき、レタスとドレッシングとたっぷりのオリーブオイル、そしてベーコンチップをかけてカルパッチョサラダ風に仕上げた。
今回のホタテは刺身用とはいえ冷凍物であり、剥きたてのようなサックリとした食感はない。しかしとろけるように柔らかな食感で、ねっとりとした濃厚な甘さが引き立っている。
同じホタテの生食でも、寿司や刺身であれば身が活きているかそれに近い状態のを方が美味しく感じるかもしれないが、カルパッチョサラダについてはこういった身が死んでから少し時間が経ったもののほうがサラダの食感とメリハリがついて美味しいかもしれない。
やはりこれだけでも十分美味しいが、ワインと合わせてみると驚いた。
今回はこれまで2つとはかなり毛色が違う。
これまではワインが料理を引き立てているという印象だったが、今度はサラダがワインを引き立てている。まさに酒のつまみだ。
ワイン自体が後にさっぱりとした甘さが残るタイプだからこそ、酸味でリセットされると共にサラダのシャキシャキと食感とホタテのコクのある甘味、さらにオリーブオイルの風味のおかげでまるで濃厚な果物を食べているような感覚を覚える。
同時にワインの個性である甘味とフルーティさも強調され、単体で飲んだ時はある種のクセのとも取れる強い個性が非常に好ましい形で着飾られているとも感じた。
今回はワインをオススメに則って選定した3種のおつまみと合わせて食べてみたが、同一のワインでそれぞれ確かに「合う」食べ物ながらその相性の良さの方向性は実に多様だった。
マリアージュには結婚という意味もあるらしいが、一言に幸福な結婚と言っても様々な形があるのだ。これが料理漫画だったら、自分の信じる家族像とは違う形の結婚をしようとしている家族に反対していたところで主人公にこれを食べさせられて、結婚を認める展開になっていたと思う。
普段なかなか飲む機会のないワインだが、Dangerのような特殊なコンセプトに則って作られた個性の強いワインを飲むことで、その面白さの一端にほんの少し触れることができた気がする。
サンマモルワイナリー
住所:青森県むつ市川内町川代1番地6
電話番号:0175-42-3870
見学時間:4月~12月 10:00〜17:00
1月~3月 10:00〜16:00
休業日:4月~12月 無休
1月~3月 不定休