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水瀬神奈
2022年12月5日 17:40
鏡を覗く。そこに毛のない猿がいた。ギョッとして身体が反射的に硬直する。心臓に痛みが走った。全身が凍りつくというありふれた表現はこういう場合に使うのだろう。猿は背中を丸めて真っ白な冷たい皮膚を晒していた。そして暗く落ち窪んだ眼窩からのぞく虚ろで大きな眼球が、じっとこちらを捉えたまま様子を伺っている。それが自分だと気づくまでに時間はそれほどかからなかった。十二畳の広さの和室の隅に置かれた古い三面
2022年12月23日 23:49
「あまりネット上でマウント取らないほうが良くないっすか?李涼姐(ねえ)さん。」某デパートの前で涼やかな顔をして人を待っていると背後から声をかけられた。「すいません、お待たせしちゃって。」と軽く会釈したこの男は、待ち合わせをしていた当人である安治郎。通称は銀次で通っていて銀さん、と呼ばれている。名前がいくつもあるとややこしいが、夜の商売では本名を勿体ぶって明かさない人が多い。安治郎という本名は