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大壹神楽闇夜 2章 卑 3賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) 8

         黒い人

 さて、実儺瀨(みなせ)達が八重国でアレヤコレとしている頃、ハナ国周辺では奇妙な事が起こっていた。夜な夜な黒い影がウヨウヨと蠢いているらしいのだ。此の噂は瞬く間に広がり皆を恐怖させた。
 賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) は直ぐに捜索隊を派遣するのだが、闇夜の中で黒い影がウヨウヨしていても見つける事はかなり困難である。だから、捜査は非常に難航を極めていたのだ。
「まだ見つかりよらんか。」
 部屋の隅にチョコンと座り賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) が問うた。
「まだじゃ…。」
 葉月(はつき)が答えた。
「どうでもええんじゃが…。何故其の様な場所に座っておる ?」
 賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) を見やり葉月(はつき)が言った。
「我はいつも此処に座っておる。」
「いつもは部屋の真ん中に座っておるではないか。」
「其れは気の所為じゃ。」
「まったく…。何をビビっておるじゃか。」
「ビ…。ビビって等おらぬ。」
「ただの噂話じゃかよ。」
「噂で影は現れぬじゃか。」
「フフフ…。」
「な、何がおかしいじゃか。」
「其方にも怖い物がありよったか。」
 と、葉月(はつき)は更にクスクスと笑った。
「し、失礼な。我に怖い物など…。」
 と、話していると何やら外が騒がしい。賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) と葉月(はつき)はソッと耳を外に傾けた。
「な、なんじゃ…。」
「敵襲か ?」
 と、葉月(はつき)はパタパタと外に出て行き騒ぎの方を見やった。
「は、葉月(はつき)大変じゃ !」
 葉月(はつき)を見やるなり娘が言った。
「何事じゃ。敵襲じゃか ?」
「く、黒い影が襲って来よったんじゃ !」
「く、黒い影 ?」
 と、怯えながら言う娘を見やり葉月(はつき)は眉を顰めた。
「じゃよ。黒い影じゃ…。」
「今は昼じゃぞ。」
「じゃよ。」
「何故昼に黒い影が襲って来よるんじゃ ?」
「分かりよらん。」
「其れで敵の軍勢は如何程じゃ ?」
「二人じゃ。」
「ふ…。」
「二人じゃ。」
「二人じゃか。」
「二人じゃ。」
「じゃかぁ…。」
 と、葉月(はつき)は娘を見やる。
「と、兎に角危険じゃ。」
「な、何が危険なんじゃ ? 相手は二人じゃかよ。其れで其の黒い影は何をしておるんじゃ ?」
「集落の外で立っておる?」
「立って…。武器は ?」
「持っておらん。」
「極めてセーフティと言う事じゃな。ちと、待っておれ。夏夜蘭(かやら)を呼んで来よる。」
 と、葉月(はつき)は中に入って行った。中に入ると既に賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) は膝を抱えて小さくなっていた。
「な、何をしておる。」
「隠れておる。」
「丸見えじゃ。其れより黒い影が来ておるみたいじゃ。」
「知っておる。」
「なら、見に行こうぞ。」
「行かぬ。」
「何故 ?」
「怖いからじゃ。」
「まったく…。其方が行かねば話にならんじゃかよ。」
 と、葉月(はつき)は無理矢理賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) を引っ張る。
「これ、止めるのじゃ。我は行かぬ。話は葉月(はつき)に任せよる。」
「まったく…。昼にお化けは出んじゃかよ。あれは間違い無く人じゃ。」
「ひ、人じゃか ?」
「じゃよ。」
「く、黒い人じゃか ?」
「恐らく…。」
「ひ、人じゃったら我が行かねばいけんか。」
 と、渋々賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) は皆が集まる場所に歩いて行った。
 娘集(むすだか)りが増えて来ると賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) は背筋を伸ばし顎を引いた。ビビっている事をバレない様にする為である。
「皆よ何を騒いでおる。」
 賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) が言った。
「く、黒い影じゃ。黒い影が来ておるんじゃ。」
 と、娘達が口々に言う。
「まったく…。何を怯えておるんじゃ。昼間にお化けは出んじゃかよ。」
 と、ビビリまくっていた賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) が嗜めた。そしてテクテクと門にに向かい賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) と葉月(はつき)はビビった。其処には噂以上に真黒な人が立っていたからだ。
「な、何じゃあれは…。」
 賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) が言った。
「ま、真黒じゃ。」
「炭じゃか ?」
「あ、あれは悪魔かも知れんじゃかよ。」
 葉月(はつき)が言う。
「矢張りお化けじゃか…。」
 と、賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) は石を拾いギュッと握りしめ言った。
「我は安倍晴明を此の石に召喚しよる。悪霊退散じゃ。ウリャァァァァ !」
 と、石を黒い人に投げつけた。其れを見やった娘達も一斉に石を投げつけ始め黒い人は慌てて走り去って行った。此れにより賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) の武勇伝が一つ増える事になったのだが、黒い人は次の日もやって来た。だが、既に石を投げつければ逃げて行く事を知っている娘達は臆する事なく石を投げつけ黒い人を撃退した。
 そんな事が七日続くと流石に娘達も飽きたのか気にも止めなくなった。其れから更に十日が経つと無害であっても邪魔である。だから、賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) は黒い人とコンタクトを試みる事にした。
 黒い人を改めて良く見やると自分達とはまったく違う事が良く分かる。肌は炭の様に黒く、頭の上に更に頭がある。目はギョロッとしており唇が矢鱈に分厚かった。
「何故頭の上に頭がありよるんじゃ ?」
 黒い人の大きなアフロを見やり賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) が問うた。どうやら、肌が黒いよりもアフロの方が気になったようだ。
「コレハアタマデハアリマセン。カミノケデス。」
 と、黒い人は髪を触りながら言った。
「髪じゃったか…。其れで、其方らは何用じゃ ?」
 賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) は更に問うた。
「ワタシタチハ、イスラエルコクカラキタカミノコデス。」
「イスカンダル国 ? 初めて聞きよる国じゃな。」
「イスラエルデス。ウミノムコウカラキマシタ。」
「海の ? 其れはご苦労じゃった。気をつけて帰られよ。」
 と、賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) は門を閉めた。
「チョ…。チョットマッテクダサイ。」
「何じゃ ?」
「アナタハカミヲシンジマスカ ?」
「カミ ? 何じゃ其れは ?」
「ワタシタチヲオツクリニナッタカタデス。」
「私達 ? 我を作りよったんは母上じゃ。カミでは無い。」
「チガイマスワタシタチハカミノコナノデス。」
「違いよる。我は母上の子じゃ。」
「チガイマス。ワタシタチハカミノコナノデス。」
「違いよる。我等にはちゃんと母上がおる。我等は母上のお股から産まれて来よったんじゃ。」
「チガイマス。」
「違わぬ。」
「チガウノデス。」
「モゥ良い。帰られよ。」
 と、賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) は手をピッピと振った。
「マッテクダサイ。プレゼントガアリマス。」
「プレゼント !」
 と、賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) はチロリと黒い人を見やる。
「ハイ。ワタシタチノクニノオサケデス。」
「お酒じゃと…。」
「ハイ。ワイントイイマス。」
「アイン…じゃと。ちと、気になりよる。まぁ、良い。入られよ。」
 と、賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) は二人を集落の中に入れてやると中央の広場に案内した。賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) はプレゼントに目が無い。
 二人を中に入れた賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) は二人を中央広場に案内した。此の中央の広場には大きな焚き火をする場所がある。夜はこれを囲って宴会をするのだが、まだ、昼にもなっていないお日さん今日はの時間帯なので火はもやされていない。其処に二人を座らせ賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) も腰を下ろした。其処に興味深々の娘達がワサワサと集まって来る。そして、取り敢えず賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) は二人の話を聞いてやる事にした。
 その話は長く自分達の始まりから今に至る迄の話が長々と続いた。話を聞きながら賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) 達は貰ったワインをガブガブと飲みツチノコをパクパクと食べた。皆は話よりワインに興味深々である。だから、話を真面目に聞いていたのは極小数である。
 結局二人の話と言うのは自分達の神を受け入れ神の意思の下共に戦って欲しいと言う物であった。
「ふ〜。つまり、其方らと共に歩めと。」
 賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) が言った。
「はい。私達の神は全ての人の神なのです。」
 黒い人が言った。長々と話を聞いている内に片言の言葉が分かるようになった。
「フム…。言いたい事は分かりよった。じゃが、残念なんじゃが、其方らの神は我等の神では無い。」
「否、あなた方は気づいていないだけなのです。」
「気づいておらぬのは其方らの方じゃ。良いか。其方らの神は土から初めの人を作りよった。じゃから、其方らは黒いんじゃ。我が神であって土から人を作るとしよっても、矢張り此の様に栄養の無い白土では無く、栄養満点の黒土から作りよる。」
 と、賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) は足で土を何回か突き、畑を指差した。
「はい。其の通りです。」
「じゃが、我等は違いよる。つまり、我等は土から出来ておらんと言う事じゃ。其れに其方らの話には矛盾がありよる。」
「矛盾ですか ?」
「じゃよ…。其方等神が作りよったサダムとフセインじゃが…。」
「アダムとエバです。」
「そう言いよった。」
「言いましたか ?」
「言うた。まぁ良い。其れでじゃ。サダムとフセインの間に出来た沢山の子と一緒に集落を作りよる訳じゃが、アインは色々あって集落をでて行きよる。つまり、家出じゃ。」
「カインです。カインは神に認めて貰えなかったのが…。」
「そんな事はどうでも良い。大事な事は其の後じゃ。アインは其の先で出会った娘と契りを交わしておる…。」
「はい。」
「何故、其の先に人がおる ? 世界にはサダムとフセイン、其の子供達しかおらぬ筈じゃ。じゃが、アインは人と出会っておる。如何に自分達都合に考え様と事実は変わらぬ。つまり、サダムとフセインが人類初の人と言うのは嘘と言う事になりよる。仮にサダムとフセインの子供の何人かが別の集落を作る為に先に旅立っておったとしてもじゃ。長男であるアインを見て気付かぬはずは無いであろう。」
 と、賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) はツチノコをパクりと食べ続けた。
「要するに神がサダムを作ったと言うのは創作に過ぎぬ。真実は其方らの王国を作りよった初めの王じゃ。其の国は農耕を主体とした国であり、サダムは農耕の知識が豊富にありよった。しかも、服を作ったり中々の文明と文化を構築したと我は推測しよる。知恵の林檎を食べたと言うのはそう言う事であろう。アインが追い出されよったんは狩を主体にしようとしたからじゃ。其の後に出て来よる洪水の話は鼻で笑ってしまいよる。全ての大地を飲み込んだと言いよるが、其れはあの山も其の山もぜ〜んぶ水の下と言う事じゃ。其方らは知らぬかも知れよらんが山は上に行きよったら寒くなりよるんじゃ。雲を越えよったら更に寒くなりよる。其方らの其の服では三日持たずに此れじゃ。」
 と、賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) は首を掻っ切る仕草をして見せる。
「つまり…。洪水で其方らの国は崩壊し、其の時の王であったジョワと数名が船で難を逃れたと言うのが真実であろう。我がジョワを王と言いよったんはジョワが神に祝福されておるからじゃ。その後、新たに王国を作ろうとしよったんじゃが、既に多くの人が洪水で死んでしまいよった。如何に強大な国であっても既に国力の無い国は餌に過ぎぬ。じゃから、他国に滅ぼされ皆は散り散りになり、他の国やら部族に溶け込んで行きよった。言葉がバラバラになったと言うのはそう言う事であろう…。その後、タンコブじゃったか何じゃったかじゃが…。」
「ヤコブです。」
「そうじゃ…。タンコブじゃ。タンコブのパパ上が神に祝福されておる。つまり、其れは正当なる王位継承者であると言う事を言うておる。じゃが、既に王国は無く細々とした部族として残っておるに過ぎず。あげくタンコブは奴隷として売られてしまいよる。その後ナンヤカンヤデタンコブはイスラエルに改名しよって、出世迄してケチャップ王国の偉いさんになりよる訳じゃ。」
「エジプト王国です。」
「いちいち正さんで良い。其れでじゃ…。其の子孫がケチャップ王国で大量繁殖してしまいよる。で、其れが邪魔じゃから皆が奴隷にされたと言いよったんじゃが…。そもそもタンコブの話は無かったと我は思いよる。普通にケチャップ王国に襲われてタンコブの部族は奴隷としてお持ち帰りされよったと我は思いよる。」
「何故です ?」
「カッコ悪いからに決まっておる。まぁ、真実は分かりよらんが、何にしよっても功績は残りよるし、歴代のケチャップ王国の王の名前が出て来よらんのはそう言う事じゃ。」
「え ?」
 と、黒い人は首を傾げた。
「良いか。功績は年月が経とうと忘れ去られる事はないんじゃ。しかも、国を救った英雄じゃかよ。真でありよるなら既にケチャップ王国を奪っておっても不思議ではない。其れに普通の人として過ごしておったなら王の名前を知らぬはずは無いであろう。つまり、奴隷にされる迄の歴代の王の名前は伝わっておるはずなんじゃ。其れが伝わっておらぬは王の名前を知る事さへ許されぬ奴隷であっあからじゃ。」
 と、賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) はワインが入っていた樽を見やる。既に中は空であった。
「無いなっておる…。まったく。」
 と、賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) はションボリさんである。
「まぁ、良い。其れでじゃ。其の後ケチャップ王国を脱走しよる訳じゃが、此の脱走には多くの疑問がありよる。」
「疑問ですか ?」
「じゃよ…。先ずは脱走した人の数じゃ。其方等は四十万人と言いよったが、そもそも其の様な数で移動するなど不可能じゃ。良いか。此の国は四十の集落で構成されておる。一つの集落には四百から五百人の人がおる訳なんじゃが、何故一つの大きな集落にしよらんか分かりよるか ?」
 と、賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) が問うた。黒い人は首を横に振った。賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) は其れを見やりニンマリと笑みを浮かべ言う。
「我も分かりよらん。じゃが、此の国には二万の人がいよる。その二万の人が集まり移動するとなりよると色々な用意が必要になりよる。其の大半はご飯じゃ。てんこ盛りのご飯を持って移動しよっても現地調達は必須じゃ。分かりよるか…。二万人分のご飯を現地調達じゃ…。ほぼ無理なんじゃよ。其れが四十万人分じゃぞ。大国が移動しよるみたいなもんじゃかよ。しかも、命からがらの大脱走じゃ。ほぼ手ぶら状態じゃ。草も残りよらん。」
「賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) …。矢張り貴方は理解していない。ご飯の心配は無いのです。其れ等は全て神によってもたらされるのです。」
「違いよる…。違いよるから十戒がありよるんじゃ。」
「どう言う事ですか ?」
「其方らは其の全てお告げと言いよるが…。モンケが人を部族単位で分けよったんは何も神のお告げがあったからでは無い。ただ単に必要だったからじゃ。良く考えよ。一人が四十万の人に指示をどの様に伝えよる ? 一人一人に言いに行きよるか ? 十人単位で人を集め伝えよるか ? 百人単位で集めて…。と、そんな阿保はおらぬ。部族単位に分け其の長に伝えよる。長は部族の更に班長達に伝えて班長が班の人に其れを伝えよる。神が教えぬでも分かる事であろう。…十戒は其の延長線上にありよる。主が唯一の神としよったんは四十万人の人が好き勝手な神を崇めよったら統率が取れん様になりよるからじゃ。偶像を作ってはいけん言うのも同じじゃ。神は一つ。それ即ち考えを同じにする為じゃ。神の名前をみだりに唱えるなと言いよるんは好き勝手にお願いされたら困るからじゃ。神の名前を唱える者は神のお告げが聞こえたとか言い出しよるからのぅ…。此処はあくまでもモンケしかお告げが聞けぬと言う事にしておかねば統率が乱れてやがては分裂してしまいよる。安息日を守ると言いよるんは…。毎日毎日休む事なく歩き続けよったら死んでしまいよるからじゃ。恐らく方々からクレームが入ったんじゃ。父母を敬うと言うのは基本を家族単位で行動させる為。人を殺してはいけんと言うのはご飯の奪い合いで多くの人が死んだからであろう。姦淫をするなは、ご飯がありよらんのに矢鱈めったらパコパコからのポコポコと子供を産まれたら困るからじゃ。エロを夫婦限定にしよっらエロの数は必然的に減りよるからの。盗んではいけんは、他人のご飯を平気で盗むからじゃ。偽証するなは、其れが殺し合いに発展するからじゃ。隣人の家や財産を貪るなは、家や財産のある人を妬ましく思うなと言う事じゃ。何故なら皆家無き子じゃからじゃ。此れを咎めねばリタイアする者が出て来よる。」
「つまり…。賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) は神は存在しないと ?」
「其れは分からぬ。じゃが、其方らが言う話は神による物では無い。何故ならカナンを奪う為に虐殺しておる。神は殺すなと言いよった。其の神が何故殺せと言いよるか ? イスラエルではないからじゃか ? じゃが良く考えよ。ジョワの話から…。否、サダムの話から全ては一つなんじゃ。つまり、皆がイスラエルと言う事になりよる。じゃから、其方らの話が正しいならイスラエルでは無いは通らぬし、そうなれば十戒そのものが神による…が、嘘になりよる。そもそも、何故神を崇めるのに祭壇がいりよる ? しかも、自分達の祭壇である事がわかる様に作り方迄決まっておる。其れは、其れを道標にする為じゃ。話を聞くにカナン迄は一月もあれば到着する距離じゃ。其れが六十年も掛かりよった。つまり、モンケはビックリするぐらいの方向音痴じゃったんじゃ。じゃから、祭壇を作りグルグル回っておらぬかを確かめておったんじゃ。じゃから、神の信仰がたらぬとかは言い訳じゃ。神の所為にしよったら皆が納得しよるからのぅ。」
 と、賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) はコップを置きグイッと背伸びをした。
「虐殺され全滅させられた部族は神を裏切ったからです。」
「違いよる。其の部族に神の何たるかは無かった筈じゃ。何故なら其方らは絶滅しておらぬ。如何に神を裏切ろうと神は絶滅は望まぬ。其の証拠に其方等先人も幾度と無く神を裏切っておる。
が今も存在しておる。其れに、其方等の神が真でありよるなら、其方等が此処に来た理由が既に不純であろう。其方等の神を受け入れイスラエル人となり、イスラエル国の為に戦えじゃか…。汝殺すなかれ…。既に其方等の道は決まっておるみたいじゃ。」
 と、賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) が言うと黒い人はショボンと俯いてしまった。
「これこれ…。そうガッカリするで無い。今日はゆっくり休んでいくと良い。男子禁制なんじゃが今日は特別じゃ…。」
 と、賈具矢羅乃姫(かぐやらのひ) が言うと二人の黒い人はシクシクと泣き出し言った。
「私達は女です…。」
 

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