「桜は下を向いて咲く」から一句
これは第16代桜守の言葉で、メモ魔の私の青い手帳に長らく眠っていたものです。
第16代桜守とは、京都の造園業「植藤」の16代当主、佐野藤右衛門さんで、今しがた「第16代桜守」で検索して確認しました。
メモの日付はずいぶん以前の4月28日。
日本人が桜を愛する理由として、「桜は下に向いて咲く」――だから、桜の木の下に立つと、包まれたような気持ちになる。
記していたのは、たったそれだけの二行です。
メモ書きの最後に、≪とあるTV番組より 第16代桜守さんの弁≫と、短いながらも情報源を残していたおかげで、こうして、佐野藤右衛門さんの名前に辿りつけました。
そして、桜を守る桜守。
その名のとおりの仕事があることを、初めて知った「その日」の状況が色濃く蘇ってきます。
「どうして日本人はこんなにも桜の花を愛するのでしょう?」
リポーターの質問が私の興味をそそり、私は身構えるようにして藤右衛門さんの答えを待ちました。
もちろん、私の記憶に質問の一言一句は残っておらず、質問の中の「こんなにも」は、私の想像である可能性が多分に高いと思われます。
「桜は下を向いて咲く」
――思いがけず短い答えに、私は驚きました。
桜が下を向いて咲くなんて、それまで一度も思ったことがなく、「桜は下を向いて咲くこと」にまずは驚き、「思いがけず短い答え」にじわじわ驚き、それから深く感銘しました。
「桜は下を向いて咲く」の後に続く「だから、桜の木の下に立つと、包まれたような気持ちになる」については私の記憶が曖昧で、その直後の言葉なのか話されたままの言葉なのか定かではなく残念です。
思い入れがあるぶん前置きが長くなりましたが、それでは、「桜は下を向いて咲く」から一句。
こちら見て小さくゆれる桜かな
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「こちら見て」の「こちら」と「こっち」、「こちら」と「わたし」で迷いましたが、北野恒富が描いた夜桜を思い浮かべて「こちら」にしました。
北野恒富の夜桜は、私が20代のときに大阪市立美術館で出会ってからずっと心に残っている大好きな絵です。
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以上、春分の日に桜の句を詠んでみたくて一句。詠んでみました。