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京急の街「京急東神奈川」|父よ、なんとなくわかったさ
※2023/12/17 写真をリニューアルしました。
父が若い頃に見た風景が知りたくなった。
そう思い立って「京急東神奈川」を散歩してきた。
京急東神奈川は京急本線の駅でKK35。2020年3月14日に「仲木戸」という名前から現駅名に変わっている。横浜から少し北、湾岸に位置する駅で、品川からだと各停で46分かかる。
京浜東北線の東神奈川駅と隣接しているから、正直品川からなら京浜東北線のほうが便利だ。
駅名についてはwikipediaに説明がある。
旧駅名の「仲木戸」は、江戸時代この近辺に「神奈川御殿」と呼ばれていた将軍の宿泊施設があり、木の門を設けて警護していた。そのためこの一帯が「仲木戸」と呼ばれていたことに由来している。
改称にあたっては、東日本旅客鉄道の東神奈川駅と隣接していながら、駅名が異なることで乗り換え可能な駅として旅客から十分に認知されていないことから、「京急」を冠したうえで同駅名とし、乗り間違いを防ぎつつ利便性を高めたものとされている。
これぞ「京急の街」。水と油のように異質なものが混じることなく共存する。
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これまで海に近い街といえば、横須賀中央や京急田浦、追浜などの駅を歩いてきた。
そこで感じた印象を雑にまとめると、「戦前から続く海軍とアメリカ軍の関係や京浜工業地帯としての繁栄とその衰退の爪痕をそのままに残して、そのすぐとなりにちょっとした今風のものが存在している街」だと思った。
京急の多くの駅とその周辺の街は、それらの一部を内包しながら、それぞれの街のキャラクターを見せてくれるからおもしろい。
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ただ、京急東神奈川にはそのすべてが存在していた。
それはまるで「水と油」。古いほうが壊されることなく残っているので、新旧どちらが異質かわからないまま、お互いが混ざり合わずに存在する。この妙な感じに、僕は共感に似た感情を感じている。
「自分の世界」と「母の世界」、この違和感が自分の中にあるからこそ、京急の「水と油」感は僕にとって共感なのだ。詳しくはこちらのnoteに書いているのでぜひ読んでみてほしい。
駅前の京浜東北線とのつなぎの歩道はとてもきれいに整備されていて、近くには新しめのマンションもある。駅から横浜側を見るとその奥にみなとみらいのビル群がそびえ立っており、僕が行ったときはそれが夕日に照らされて立派に見えた。
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京急の駅舎そのものは古いように見える。土を盛って線路を敷いてあることもあり、見晴らしがいい。駅員さんと思われる方がその景色を眺めていた。
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父が写真学校時代を過ごした街
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父は写真家で、昨年71歳で亡くなった。
僕を育てるにあたっては父は放任主義的なところがあったが、僕自身の「自分の世界」は父の影響が多分に受けている思っている。そういう意味で完全に「自分」の歩いてきた世界ではないのかもしれない。でも「母の世界」に感じる異質さがないから、父の影響は「自分の世界」に含まれているように思う。
中国地方出身の父は、大阪ですこし働いたあと東京に出てきて写真学校に行きはじめた。そのときに暮らしていたのが、この東神奈川周辺である。1960年代後半~70年代という激動の時代だったこともあり、どうやらその時期にこの場所で様々なものを感じ写真の中でも取り組んでいたようだった。
京急の街ではそのくらい昔のものでも多くが残っているだろうと想像した僕は、その風景が見てみたくなった。
駅を降りて、海側へ歩く。
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国道を越えると印象的なのが、ゴルフの打ちっぱなし練習場。
違和感。
周りは古い工場や、新旧入り交じった庶民的な住宅が並んでいるが、この練習場に停まっている車は高級車が多く、金持ちそうな人たちが優雅にゴルフボールを打ちまくっている。
施設自体は古くて歴史を感じるのだけれど、この「関係ない」感はなんだろう。
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さらに海側に進むとかなり昔に立てられただろう倉庫が並ぶ。
昔の建物というのはどこか可愛げがあるものが多いと思う。これをデザインした人は何を思っていたのだろうか。
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違う時間が同時に存在している街
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今回は以下の地点、海側の☆のところまで歩いた。海側の☆の部分には頑丈な橋がかかっている。しかしそのすぐ横には、廃線となった線路の橋が野ざらしな状態でそのまま残っている。
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実はこの先、「横浜ノース・ドック」と呼ばれる米軍の港湾施設となっている。多くの人が遊びに来る横浜やみなとみらいのすぐ横にそんな施設があるなんて、知らない人も多いのではないだろうか。
上の地図で☆をつけているところには、アメリカ海軍のものと思われる船が止まっているし、この橋からは「関係者以外立ち入り禁止」海沿いに道路が続いていて進めはするが、道路の横には長い長いフェンスが続き、これ以上中に入ることはできない。
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一方、☆をつけているところから横浜側に橋を一本渡るとタワーマンションがある。たぶん、新しくこの地域に移り住んできた人が多くいるのだと思う。
この雑多感、「水と油」感、伝わるだろうか。
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最後に駅に戻る途中、たぶん廃業してしまったのであろう小さな工場?のようなものを見つけた。中はがらんとしているが、もちろん建物はそのままだ。
廃墟のようなこの空間で、水道、電気のスイッチ、ちょっとしたものに人がそれを使っていた痕跡を感じつつ振り返ると、タワーマンションがそびえ立っていた。なんだか自分は今いつの時代にいるのか、よくわからない気持ちになった。
でも、それで、いい。たぶんこの感覚こそ、父から影響された世界観なのだろうから。
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