『このラノ』式、ライトノベル400字レビューの書き方
進捗どうですか。
マイストリート岡田です。
このnoteは、編プロ所属の編集者である岡田が、そのときそのときの思ったことを書き連ねていくやつです。
夏休み。夏休みといえば読書感想文……
ではなく、『このライトノベルがすごい!』の準備が始まる時期ですね!!
『このラノ』という言葉が出てくると、その年の終盤にさしかかっていると感じられ、さながら季語のような趣があります。
ということで今回は、タイトルにも書いている通り『このラノ』の作品ガイドとして載っているレビュー原稿が、どのように書かれているのかを解説していきます。
400字の中に、どんな要素が入れ、どんなことを説明すれば作品の魅力を伝えることができるのか。それを詳らかにしていこうと思います。
■400字に作品の魅力を圧縮せよ
『このラノ』は昨年刊行された「2021」からリニューアルして、作品ガイドレビューの文字数が400字になりました。これまでは、あらすじ+見所を一言、くらいの内容だったのですが、400字にボリュームアップしたことで、より情報を入れ込めるようになりました。
とはいえ、400字は原稿用紙1枚の文字数。
いろいろ書けるようで、「このレビューを読んだ人が“面白そう”と思ってもらえるか」「あらすじ以上の情報を盛り込めるか」となると、難度が上がってきます。
本のあらすじ(文庫の裏側に書かれているやつ)はだいたい200字程度で書くことが多いのですが、その中に作品を「買うきっかけ」になりそうな要素をなるべく詰め込むようにしています。
レビューでも同じです。
短い文章の中に、作品のアピールポイントをまとめるのもいろいろやり方はあるのですが、レビューの場合は「見出しで掴み、本文でしっかりアピール要素を伝える」のが鉄板です。
今回の記事では、『このラノ』に載せる記事で意識している要素を、実際の原稿のやり取りを例に出して説明していきます。
■レビュー原稿のやりとり 実践編
『このラノ』では各ライターさんに作品リストを見てもらい、なるべく既読作、レビュー希望作に合わせて原稿を発注していきます。
届いた原稿をチェックして気になる部分を指摘し、改稿してもらいます。
要素はふたつ。
●見出し → 作品のキャッチコピーのようなものなので、作品の特徴やアピールポイントが書けているか。
●本文 → 基本的な流れは「あらすじ」&「見所」+作品の周辺状況(賞受賞、メディアミックスなど)となります。
あらすじは、新作であれば長めにとりますが、長く続く人気作であればあらすじはそこそこに、作品の周辺状況や、近刊ではどんな感じなのかを書いていきます。
下記の例は、殿堂入りとなった『りゅうおうのおしごと!』のレビューです。昨年ライターとして初参加した綾城しの。さんとのやり取りを掲載します。
こちらが最初に届いた原稿です。
●見出し 15~18字×2行
ちいさな竜は、もう負けない。
人生を捧げた棋士の熱い魂がここに!
●本文 14字×29行(最大400字)
史上最年少・16歳にして将棋界の最強タイトル保持者『竜王』となった九頭竜八一。その重圧から八一を救ったのは、家族でライバルで仲間で敵、そして女子小学生との同居生活……?勝負師としての駆け引きや、戦場を命懸けで生き抜く棋士の人生が垣間見える熱い作品だ。
原作者・白鳥士郎は、リアル将棋星人とも言える藤井聡太を擁する『現実』に負けそうだと、嬉しくも嘆いている。そんな現実世界との関係も見どころの一つだ。また序盤、中盤、終盤、隙がない物語の展開や、実在の棋士を模したキャラクター、エピソードのパロディにも注目したい。ラノベファンも将棋ファンも没頭できる、まっすぐな情熱のぶつかり合いに笑いと涙。そして熱い盤上に引き込まれること必至!
ラノベ初の将棋ペンクラブ大賞優秀賞に、テレビアニメ化。関西若手棋士「西遊棋」の監修と、綿密な取材により構築された、ガチ将棋ラノベがいま熱い!(綾城)
↓岡田からの修正案
最年少『竜王』が挑む、負けられない闘い
人生を捧げた棋士の熱い魂がここに!
①史上最年少・16歳で将棋界の最強タイトル保持者『竜王』となった九頭竜八一。彼は押しかけてきた女子小学生の弟子や、負けず嫌いの姉弟子と共に、厳しい将棋の世界での闘いに挑む。勝負師としての駆け引きや戦場を命懸けで生き抜く棋士の人生が垣間見える熱い作品だ。
②関西若手棋士「西遊棋」の監修と綿密な取材によって構成される、リアルな対局の様子や、実在の棋士を模したキャラクター、エピソードのパロディにも注目したい。ラノベファンも将棋ファンも没頭できる、まっすぐな情熱のぶつかり合いに笑いと涙。そして熱い盤上に引き込まれること必至!
③ラノベ初の将棋ペンクラブ大賞優秀賞に、テレビアニメ化。さらに昨今は、リアル将棋星人とも言える藤井聡太が最年少で二冠達成・八段昇格と、物語を超える勢いでの躍進を続けている。著者の白鳥士郎も、『現実』に負けそうだと、嬉しくも嘆いている。そんな現実世界との関係も見どころの一つだ。
このように、②は物語的な見どころとアピールポイントをまとめ、③は最近の作品外部でもりあがっている部分の解説を入れるとわかりやすくなると考え、原稿の表現は残しつつ、入れ込む場所を変えました。
太字部分は書き換えを行った部分です。見出しは隠喩的でわかりにくかったものを、いくらかわかりやすいように変えています。
これを受けて、綾城さんが改稿したのが以下の原稿。
史上最年少・16歳で将棋界の最強タイトル保持者『竜王』となった九頭竜八一。押しかけ弟子の女子小学生や、負けず嫌いの姉弟子、家族同然の仲間やライバルと共に厳しい将棋界に挑む。勝負師としての駆け引きや戦場を命懸けで生き抜く棋士の人生が垣間見える熱い作品だ。
関西若手棋士「西遊棋」の監修と綿密な取材により構築される、「序盤中盤終盤隙がない」物語の展開や、実在の棋士を模したキャラクター、エピソードのパロディにも注目したい。ラノベファンも将棋ファンも没頭できる、まっすぐな情熱のぶつかり合いに笑いと涙。そして熱い盤上に引き込まれること必至!
ラノベ初の将棋ペンクラブ大賞優秀賞に、テレビアニメ化。さらに昨今、リアル将棋星人とも言える藤井聡太が最年少二冠を達成するなど、作家泣かせの躍進を続けている。著者の白鳥士郎も、『現実』に負けそうだと、嬉しくも嘆いている。そんな現実世界との関係も見どころのひとつだ。
太字部分が改稿で変更された部分。
作品の要素として「家族同然の仲間やライバル」を加えて、将棋用語である「序盤中盤終盤隙がない」という言い回しを、元の原稿から入れ込んでいます。
この原稿をチェックし、作品ガイドの枠内に収まるように調整していきます。『りゅうおうのおしごと!』は「殿堂入り」の枠だったので若干フォーマットが異なっていたので、入稿時にもうすこし調整が入っています。
■レビューでも「情報の出し方」が大事
文章というのは言葉を用いた情報伝達手段なので、「ぱっと見て理解」がしにくいものです。文の始まりから終わりまでを読んでもらい、そこにある“情報”を正しく伝える必要があります。
「見出し」では紹介する作品のジャンルや、メインとなる設定のキーワードなどを入れ込んで、興味を惹くように言葉を考えます。作品によってはタイトルで表しているものを補足したり、より具体化するだけでも、見出しとして成立する場合があります。
本文では、作品のアピールポイントを抽出していきます。
『りゅうおうのおしごと!』だったら、「将棋」「最強タイトルの竜王」「女子高生の押しかけ弟子」「人生を捧げた勝負」などがキーワードとして上がってきます。シリーズの初期こそ「将棋」という馴染みのない(?)題材をライトノベルで打ち出すためには、最年少『竜王』タイトルホルダー&押しかけロリ弟子をアピール必要がありましたが、いまとなっては「現実の将棋がヤバイ」「取材に基づいた対局シーンが熱い」などがメインで言いたいことになるでしょう。
それらを、作品の「さわり」になる部分からだんだん周辺の情報になるように配置をすると、わかりやすくなると考えています。
例で出した変更案も、情報の出し方を意識していることがわかります。
ブログや読書記録サービス、ネット書店のレビュー欄でも、おおよそ400字くらいが書きやすい範囲ではないでしょうか。
あらすじは書誌情報から引用できるので省いてもよいですが、それでも作品のストーリーやキャラクター、設定などを、自分がどのようにあらすじとして解釈したか、書き出してみるのは感想を書く上でも大事な情報整理になると思います。
というわけで、『このラノ』式レビューの書き方でした。
■今年の『このラノ2022』の準備がスタート
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