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「発売日」と「発行日」の謎 【改めて出版業界の知識を学ぶ】


 こんにちは、マイストリート岡田です。

 お手元にある『異世界居酒屋「のぶ」』を文庫でも単行本でもいいので開いてみてください。(ドラマに併せて重版されて特装オビになりますので、ぜひご購入ください! 電子書籍版もあります!)(唐突な宣伝)。

 書籍の後ろの方、自社広告と呼ばれる本の紹介と本文の間に、「奥付」があります。

 タイトルの下には「発行日」として日付が入っています。
 例えば宝島社文庫『異世界居酒屋「のぶ」六杯目』にはこう書かれています。

 2020年4月21日 第1刷発行

 ……おやおかしい。宝島社のTwitterアカウントではこう告知しているぞ。

 そしてネット書店の発売日も【4月7日】になっています。

 そう。実際に書店の店頭に並ぶのは7日からなのですが、奥付に記載されている発行日は21日となっており、14日の差があるのです。

 この「発行日」と「発売日」の違いは、宝島社文庫だけでなく、様々な書籍や雑誌に適用されています。

 ではなぜ、実際の発売日と発行日が異なっているのでしょうか。

■「発行日」が未来の日付なのはなぜ

 結論を言ってしまえば、「ちょっとでも本を新鮮なものだと見せるため」です。

 まず本には大きく分けて「雑誌」と「書籍」という分類があります。ざっくり言ってしまえば「雑誌」は“雑誌コード”で管理された定期刊行物で、それ以外の本が「書籍」となります。

(雑誌と書籍の間になる「ムック」や、雑誌っぽいのに「書籍」とかいろいろややこしいのでこちらも後々解説します)

 定期刊行物である雑誌が良い例なのですが、実際の発売日よりも先の日付を表記しておけば、ある程度店頭に置かれていても、「新しいもの」としてお客さんの目には映ります。

 週刊雑誌でも2週間先の日付で発行されています。
 月刊誌・隔月誌では「○月号」は次の発売月が書かれています。

雑誌(定期誌)については、日本雑誌協会の「雑誌作成上の留意事項」2001年改訂版で月号表示(発行月日と同義)について以下のように定められている(自主基準)。
・[週刊誌]:発売日から15日先までの月日
・[旬刊誌][隔週刊誌][月2回刊誌]:発売日から1ヶ月先までの月
・[月刊誌][隔月刊誌]:16日発売日以降は2ヶ月先までの月(45日先まで)
(発売日が7月16日以降であれば、「9月号」と表示できる)

 雑誌に関してはこのように決まりがあるようです。

https://www.ajpea.or.jp/column/data/20070710.html

 しかし書籍は雑誌と違って定期的な刊行が決まっているわけではありません。なので書籍の「発行日」に関しては明確な取り決めがないのです。

 場合によっては発売日と発行日が一致していたり、2週間後~1ヶ月後だったりします。

 Amazonは「取次搬入日の翌日」を発売日としているようなので、それと比べてみると、発売日と発行日の開きがおおよそわかります。

■あいまいな「発売日」のワケ

 書籍・雑誌は印刷後は取次という出版物を書店に配本するハブとなる卸問屋に搬入され、そこから順次日本全国に行き渡ります。そういった流通の都合から、東京都での搬入~書店店頭販売開始と、地方での店頭販売開始がズレてしまいます。

 なので実は、書籍には明確な発売日というものは存在せず、公式のアナウンスとしての発売日を提示しているだけなんですよね。

 都内では取次搬入日の午後辺りから書店に並び始めることもあり、そうなると地方とは2~4営業日くらいの差が出ます。週末を挟むとさらにズレてしまうので、厄介な問題です。


「でもマンガの単行本って発売日が揃ってない? ジャンプコミックスとか」と思った方はよく書店に通っているのでしょう。

 実は雑誌コードがついている「コミックス」(マンガの単行本)は、流通が雑誌と同じルートなので、「同一地区同時発売」という取り決めがあるのです。

67年に講談社が創刊した講談社コミックス(KC)は、画期的な手法で登場した。雑誌扱いで配本したのである。この雑誌ルートによって、書籍を取り扱わない小さな雑誌専門の本屋や書店以外の小売業まで販路が広がり、発行部数は飛躍的に伸びたという。

 コミック雑誌に連載され、それをまとめたマンガ単行本も雑誌コードを付けて雑誌の流通網に乗せてしまおう、という戦略なのですね。

 都内の書店だとだいたい前日には搬入されていて、それを荷解きしてシュリンクを掛けて積んでおき、翌日の発売日に合わせて店頭に出す、というような方法が取られています。

 もちろん書籍として流通しているマンガ単行本もあります。KADOKAWAのコミックスは書籍だし、雑誌を持たない小規模な出版社のマンガも書籍。A5判のマンガも書籍扱いですね。

 こんな理由で告知されている発売日ぴったりに出るものと、なぜか早めに店頭に出ているものがあるのですが、見た目としてはほぼ変わりないのでとてもややこしいです。


■「発売協定」という取り決め

 書籍は前述のとおり発売日が曖昧で、書店に届いて荷解きをすればそのまま店頭に出ます。

 しかしコミックスやライトノベルは「発売協定」を定め、協定品として発売日を揃える場合があります。簡単に言えば「フライングゲット」できないように、販売開始時期を揃えるようルールが決められている、ということです。

 特にいまは電子書籍での販売も発売日に合わせて行われていますね。発売日に日付が変わった0時から電子書籍はダウンロードできるようになり、紙の書籍はその日に書店がオープンしたら並んでいる、というような具合です。

 発売協定には大きく分けて2種類あります。全国的に発売日を統一するよう出荷調整される「積込型」と、出荷日を都内は協定日(おおよそ搬入日の翌日)からにし、そこから全国は届き次第順次発売するようにする「東京出荷協定型」です。

 発売日を合わせることで全国どこでも格差がなくなりますが、かなり手間のかかる方法ですよね。体力がないとできません。

 出版流通についても雑誌が減ってきたことで危機的状況にあるようですし、なんとも難しいですね……。


■「発行日」は出版社のさじ加減次第

 個人的な意見を言えば、発行日がズレていることで、発行日で表記されていることと実際の発売時期に齟齬が生じるので、あとになって資料として参考にしたり、データを調べる際に困るのでやめてほしいです。

「雑誌は発売日と表示されている○月号はひと月ずれる」くらいなら良いのですが、「5月下旬に発売した書籍」の発行日が2週間ズレているので、文庫化されたときは「○年6月に刊行された単行本に加筆修正し、文庫化したものです」というように書かれていると、とても厄介。

 日本の出版物の書誌データはこの発行日を基準としているみたいなのですが、実際とズレてしまっていると参照するには難ありですよね。


■まとめ

 今回は出版物の不思議な「発売日」と「発行日」のお話でした。

・「発行日」は出版物によってまちまち。だいたい書店に並ぶ日(店頭発売日より2週間先の日付になっている。中には1ヶ月先のものも。

・「発行日」を先にしておくことで、ちょっとでも書店に置いてもらう期間を延ばそうとしている。

・雑誌は「同一地区同時発売」が取り決められているので、多くは発売日にズレがない。

・書籍の多くは「発売日」の取り決めがないので、書店に届いて店頭に置かれたときが発売日。

・書籍の中には「協定品」があり、店頭発売日を揃えるよう取り決められているものもある。


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