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クラシックカーが細密に描かれた1972年のカレンダー
資料を整理していたら、クラシックカーが描かれた1972年の大きなカレンダーが出てきました。「1972 Kygnus Calender」「キグナス・ガソリン・スーパー」と題されていますから、当時のキグナス石油が製作したものですね。
1972年といったら、今から52年も前のことです。僕はまだ小学生だったので、クラシックカーはおろかクルマにもそれほど興味を抱いていませんでした。両親もクルマは運転していなかったので、なぜこれが我が家にあったのかまったくわからないのです。
当時は、今とは較べものにならないほどたくさんのカレンダーが製作され、販売促進や宣伝などに利用されていました。営業パーソンが丸めたカレンダーを何本も持っている姿を眼にすると年末を実感するのは今も変わりありませんが、昔はもっとたくさんが流通していました。家や会社でも多くのカレンダーが壁に張られ、小型のものは卓上に置かれていました。
手渡しだけでなく、さまざまな会社からカレンダーは送られてもきていました。だから、おそらく親が誰かからもらったのでしょう。
しかし、カレンダーというものは1年間使われたら、あとかたなく残っていないものですよね?
このカレンダーは1ページに2か月を印刷してありますから、2か月ごとにページは破り捨てられ、最後も捨てられて終わりです。仮に、各ページが破り捨てられずに使われたとしても、このように保存されるのは月日と曜日の表示の他に印刷されているものによほどの魅力でもないと捨てられてしまいます。
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でも、このカレンダーには、その「よほどの魅力」があるのです。中心部分に描かれているクラシックカーの細密画が見事なのです。一瞬、写真を印刷したものに見えましたが、よく見ると描かれたものでした。
ほぼ真横から見たクルマの外観の他に、そのクルマの特徴となっている部分や部品などをそれぞれ5点を画にしているところも、このカレンダーの特徴となっています。
どこを取り上げるか、クラシックカーに通じていなければできないし、画にした場合を想像できなければ多くの人に配って使ってもらう普遍性も与えることができなくなります。
描いた画家が素晴らしいのと同時に、何をどう描くのか画家に指示できた編集者なりディレクター役の人物もプロ中のプロであることは間違いありません。
取り上げられているクルマは、以下の通り。
1913年 ランチェスター 38馬力 トルピードツアラー
1927年 ブガッティ タイプ35B グランプリ
1928年 メルセデス・ベンツ 27/140/200 SS
1930年 ベントレー ブロワー4½リッター
1933年 アルファロメオ 8C2300 コルトスパイダー
1933年 パッカード トゥエルブ・スポーツセダン ディートリッヒ
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外観だけでなくブガッティのフレームを描いている画は分解中に立ち合わないと描けません。写真を模写したのだとしても、入手だって簡単ではなかったでしょう。
素材の質感も巧みに描き分けられています。ブロワー・ベントレーのダッシュボードに用いられているエンジンターンド加工された金属パネル、ステアリングホイールのウッド、メーターのガラスと樹脂製の枠、ベルトの革、ボディの塗装など見事に再現されています。
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不思議な点が、もうひとつあります。このカレンダーには、画家やアートディレクターなどのクレジットが入っていないのです、キグナス石油については最終ページにカレンダーとは別に記されています。解説文やキャプションなどに高島鎮雄氏の名前が入っている他は誰のものもありません。
もしかして、このカレンダーはカレンダー製作会社が作ったもので、その契約で画家その他のクレジットは入れないことがあらかじめ決められていたのかもしれません。
これが2024年版だったら今からでも部屋に飾りたくなるぐらいの素晴らしい出来栄えなのですが、入手の経緯と保存された理由などがまだ思い出せないのです
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