瀬戸内の「動く素材」が魅せる絶景 中編
「絶景」という体験
「絶景」という言葉は、「景色」、すなわち視覚情報による言葉。しかし、本当の絶景は視覚情報にとどまらない感動の体験である。生で見た風景とその写真。同じ感動を味わえるだろうか。絶景は、全身で体感する感動。『瀬戸内の「動く素材」が魅せる絶景』は、全身で地球を感じられる体験だった。
『三分一博志 瀬戸内の建築』を片手に
中国地方を一周し、再び瀬戸内に帰ってきた。今回は「瀬戸内の「動く素材」が魅せる絶景 前編」の続編である。ぜひ前編からご覧ください。
『三分一博志 瀬戸内の建築』と5つのプロジェクト
本書には、建築家三分一博志が「動く素材」をテーマに設計した5つのプロジェクトが掲載さえている。
宮島|宮島弥山展望台六甲|六甲枝垂れ
犬島|犬島精煉所美術館
直島|直島プラン/
直島の家またべえ/直島ホール広島|おりづるタワー
今日の舞台は犬島と直島。「犬島精煉所美術館」と「直島ホール」へ。
*「宮島弥山展望台」「おりづるタワー」は前編をご覧ください。また「直島の家またべえ」は個人宅のため見学は控えることにした。
犬島精煉所美術館
犬島
瀬戸内に浮かぶ小さな島。遠くからでも島から突き出る数本の煙突が今も残る。1909年に建設された銅の精煉所の跡で、当時日本の近代化を担った。しかし、わずか10年。銅の暴落で精煉所は閉鎖された過去をもつ。
犬島精煉所美術館
精煉所につくと最初に目に入るの黒い煉瓦である。精煉の副産物であるその煉瓦は「カラミ煉瓦」といい、海岸に廃棄されていたという。
目に見えない瀬戸内の絶景
入館すると間も無く、真っ暗な通路へ案内される。何もない真っ暗な閉じた道、はるか先に一点の光が見える。閉鎖された鉄板のダクトになぜか大自然の絶景を感じた。一筋の光に心を奪われる。それ以上に、身体は多くの情報をキャッチしているのがわかる。肌に触れる風の流れ、地球の呼吸音、潮の香り。目を瞑ってもなおそこには瀬戸内の絶景が見えていた。
近代化産業遺産ツアー
犬島精錬所美術館では、毎週月、金、土、日の11:40と14:40に近代化産業遺産ツアーを実施している。ガイドさんと共に島を巡り生の現場を見るこのツアーは、犬島精煉所美術館のチケットがあれば無料で楽しめる。美術館の再入場も自由なのでガイドを受け、もう一度美術館に行くコースがおすすめ!
直島ホール
直島
アートの島として世界中から観光客が訪れる直島。この島にも三分一氏の「動く素材」を体感できる建築が存在する。
直島ホールは2棟の大屋根で、ホール、集会場、庭園で構成される。
直島ホール
ホール
ホールは柔らかく包まれた一室の大空間。照明は窓の上等にスポットライトが仕組まれ、流線形の天井を照らす。足元から瀬戸内の空気が流れ込み、ゆっくりとホールを流れ天井から抜けていく。
*ホールに入る日は事前の申請が要必要
集会場
集会場は大屋根の下が半外部空間になっており、自然光が差し込む。ルーバー屋根は雨から守り、空気を通す。四隅に部屋が設けられ畳の部屋やキッチンを貸し出している(要申請)。
犬島・直島の「動く素材」
瀬戸内の「動く素材」が魅せる絶景体験は、太陽からはじまる。生命は太陽のエネルギーを源に生きているが、瀬戸内もまた太陽が昇ることで気温が上昇することで風を生み、沈むことで気温が下がり、方向を変えて風を生む。
精錬の副産物であるカラミ煉瓦。土に返らないその塊は、負の遺産の如く、島に散乱していた。その塊すらも、太陽の熱を集め蓄えるという性質を活かし、我々が瀬戸内を感じる味方にしてしまう。
屋根をかけ、壁まで密閉し、機械で温度を調整している現代人に直島ホールの屋根はいずれも衝撃的である。建築は、自然を切り取り制御する行為という認識が広くある。三分一氏の建築は自然と共にあり、見落としていた大自然の絶景を思い出させてくれる。
さて、次はいよいよ瀬戸内の「動く素材」が魅せる絶景の後編!
兵庫県は六甲。山頂の六甲枝垂れへ行ってきます!