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No.5 ついに大企業での量産採用決定!

はじめまして、C-INKの金原正幸と申します。
C-INKはこのたび、2度目の株式投資型クラウドファンディングによる資金調達への挑戦を決めました。

このnoteでは事業の裏話についてお伝えしていければと思います。今回は、遂に念願の大企業での採用までの物語をお伝えします。

※C-INKのクラウドファンディングは2024年1月25日(木)19:30から開始します。募集ページは以下のURLからご覧いただけます。


この記事を書いているのが2024年1月18日です。つい3ヶ月ほど前の2023年10月に、GPS機器大手のNASDAQ上場GarminによるC-INK製銀ナノインクを用いた量産が始まりました。Garminは、航空機コントロールシステムのタッチパネルにC-INKを採用しました。

Garminについて

Garminは、1989年に電気技師であった米国人ゲイリー・バレル(Gary Burrell)と台湾人ミン・H・カオ(Min H. Kao)により共同で設立されました。この二人は、以前の雇用者の元で米国国防総省のプロジェクトに取り組みながら、当時極秘であった衛星測位技術に接していました。「GPSを普及させて世界を変える」ことが彼らの理想でしたが、当時の雇用主と意見が異なり、研究開発の予算は削減されました。このため、彼ら自身の事業を立ち上げることにしたのです。この会社は、創業者のゲイリー(Gary)とミン(Min)の二人の名前を取り、Garminと名付けられました。Garminは、パイロットのGPSナビゲーションをオールインワンで機器に組み込むことから開始し、非常に高い人気を得ました。その後、GPS技術は徐々に拡大。最終的には現在のウェアラブル製品へと組み込まれ、その市場は航空、海洋、自動車、アウトドア、フィットネス分野へと拡大しています。

C-INKはGarminの航空機制御システムに採用

現在の航空機では、昔の映画に出てくるようなスイッチだらけのコクピットから、タッチパネルをUI(ユーザーインターフェイス)とするシステムに変わってきています。C-INKは、Garminの原点とも言える現代の航空機コントロールシステムに採用されたのです。航空機への応用ですから、極めて高い信頼性が要求されます。たった5名のスタートアップの製品が、工業生産材料として用いられるのは割と異例ではないでしょうか。今回はなぜC-INKがGarminに採用されることができたのか、その裏側をお伝えする必見の回ですよ!(笑)

レーザーとの出会い

少し時間を遡ります。Garmin採用の7年前、2016年にある重要な出会いがありました。東京ビッグサイトでC-INKが展示会に出展していました。C-INKブースにふらっと立ち寄ってくれたのが、その後ずっとお付き合いすることになる、浜松ホトニクス(浜ホト)のレーザー技術者の松本さんでした。レーザーと言えばファミコンで懐かしいグラディウスの兵器を思い出しますが、簡単に説明するとまっすぐ届く強い光です。レーザー光は、照射した箇所を局所的に熱する熱源として利用できます。松本さんは、新しい熱源としてレーザーを展開していました。当時は携帯電話の筐体をレーザーで溶かして接着させる応用などで、信頼性のあるプロセスとして大手企業に続々と採用されていた時期でした。

そんな中、松本さんは新しい応用として、レーザーで効果的に処理できる導電材料を探していました。C-INKが供給するような印刷用の導電材料は、印刷しただけでは電気は通常流れません。150℃ほどの温度で熱処理を行なって初めて導電性が発現します。この際に、これまでは電力を大量に消費する産業用のオーブンで処理を行っていました。もし、この際の熱処理をレーザーで行えれば、その部分だけを温めることができるため、大幅に消費電力を抑えることができるようになります。ところが、銀ペーストに代表される従来の印刷用の導電材料は、レーザーには全く適合しない材料だったのです。なぜなら、レーザー処理では素早く温度を上げることが売りのひとつなのですが、従来の材料はオーブンでじっくり焼くのを前提に作られていたため、急激な温度上昇にはついていくことができない設計になっていました。

そんな状況でC-INKブースを訪れた松本さんは、私の発した言葉「たぶん大丈夫じゃないっすかね?ウチの材料なら」そんな言葉に、社長のくせにこんな軽そうなヤツが言うことは多分間違ってるけど、でもまあサンプルをくれるって言ってるしダメ元でやってみるか、ぐらいの気持ちだったに違いありません。その、ダメ元でやってみた実験動画が、今でも浜ホトのwebページでも公開されているナノインクのレーザー焼結の動画になるわけですから、重要な出会いはどこに転がってるかわからないものです。

レーザー + C-INK = オンリーワンかつナンバーワンの価値提供へ!

せっかくの機会ですので、浜ホトの公開動画を紹介します。圧倒的なスピードで熱処理が終了する驚くべき結果を是非ご覧ください。

C-INK製の銀ナノインクを印刷して乾かした状態から、この短時間で抵抗値が約1/500になっています。実は、このレーザー焼結では、従来のオーブン処理ではどうしても到達できなかった領域にすら到達できます。この動画ではC-INK製銀ナノインクをPETフィルムという、皆さんお馴染みのPETボトルと同じ素材に印刷しています。ここで使っているPETフィルムは、120℃以上の熱をかけるとダメージを受けてゆがんでしまいます。ナノインクは、熱処理温度が高くなればなるほど抵抗が低くなる性質があります。レーザー焼結では、従来のオーブンでは到達できなかった温度帯に相当する熱処理を、PETフィルムにダメージを与えることなく実現できるのです。つまり、圧倒的に高速かつ省エネルギーで、より良い導電性が得られる魔法のような手法といえます。実は、このような高速レーザー焼結ができるのは今でもC-INKのみで、大きな強みとなっています。

さて、C-INKから見るとレーザーが魔法だったように、浜ホト側からも同様にC-INKは魔法だったのです。何度かサンプルをテストして、これは行けると判断できました。浜ホトはレーザーを売りたい、C-INKはインクを売りたい。利害が一致するとビジネスは加速するのだと後で実感するタッグが産まれました。早速、浜ホトはC-INKのナノインクとセットで、レーザーを導入しそうな顧客に営業展開してくれました。その際にコンタクトした1社がGarminだったのです。

Garminがなぜナノインクに興味を持ったか

Garminは「垂直統合」という独自の企業理念をもっています。彼らは、基本的には外注をせず、研究開発から製品製造までを自社で完結させる文化があります。そんな中で、タッチパネルは例外的に外注をしていたパーツでした。C-INKとインクジェットプロセスの導入によって内製化が実現できること、加えて1台の製造装置で複数品番の製造が可能となることが決め手となりました。つまり、GarminはC-INKの導入によって、はじめてタッチパネルの内製化が実現できたのです。これは、0から1への極めて大きな一歩となる決断でした。

Garminへのインクジェット環境の提案

C-INKはインクジェット印刷が前提です。ところが、インクジェットは新しい方法で、Garminのような大企業でも自社で印刷することはできませんでした。それに、試験的に印刷したところで、量産用の機械がなければ意味がありません。奇遇なことに、C-INK本社と同じ岡山に、素晴らしいインクジェット製造装置を作っている会社があります。それがマイクロクラフトで、Garminは当初より量産を視野に入れて、マイクロクラフトとC-INKの3社で評価を進めました。これが功を奏し、Garminが要求するテストサンプルをスムーズに作成して届けることができました。

最大の難関、大企業に対応する品質保証体制の構築

サンプル評価は順調に進み、C-INK製銀ナノインクは航空機用途での環境耐久性も問題なし、との結論が出ます。この評価と同時並行で進めなければならなかったのが、インク供給の品質保証体制づくりでした。以前に、とある米国の大企業より渡された事前チェックリストは膨大な枚数でした。小学校の卒業文集くらいの厚さが全てチェックリスト。なんじゃこりゃ、と思いました。例えば、従業員はガードマンに監視された箇所を通って仕事場に入るかなど、事細かな質問事項にウンザリした過去がありました。C-INKは確かに良いインクジェット用のナノインクを製造できている、そうした自負はありましたが、いざ本当に大企業に製品供給するとなると、細かい手順は皆目見当がつかない、そんな状態でした。

そんな中、C-INKは半導体製造用の化学材料で世界大手のJSRと事業提携を結ぶことができました。最大の目的は、しっかりした品質保証体制の構築です。この事業提携に至るまで、JSRとの法務的な交渉では弁護士費用が数100万円かかるほど念入りに詰めていきました。資金が限られる中、この出費は相当痛かったのですが、必要な経費でした。無事に契約を終えて、いざ品質保証体制を作るとなったとき、その会議の時間は膨大で、それこそインク製造からパッケージ、梱包発送に至るまであらゆる点を精査し細かく条件を決めていく、その過程は非常に勉強になるものでした。途中からGarminとのやり取りにもJSRに入っていただき、土壇場でインク変更などのイレギュラーを乗り越えて、ようやくGarminと納入仕様書という、この条件で製品を納めてくださいね、といった内容の契約書に合意することができました。通常はこの段階で量産採用はOKと考えて良いのですが、いかんせんC-INKにとっては初めての大手企業での採用案件です。実際に量産開始の知らせを受けるまで、私自身全く安心はできませんでした。その後、台湾の商社から量産開始の連絡を受けたとき、ようやく安堵することができました。実際にC-INKのナノインクが使われた、飛行機に載るんだ!メンバー全員が大きな喜びに包まれた瞬間でした。

C-INKは新たなフェーズへ

C-INKは、これ以上ない実績を作ることができました。それに、実際のGarminの採用過程では、ナノインクのインクジェット製造は彼らとしても初めて自社導入となるにも関わらず、大きな問題はなくスムーズに生産に持っていくことができました。この点でも、インクジェットでの新しい製造プロセスに確信を持つに至りました。

今、イークラウドで2度目のクラファン募集をしています。募集ページの中で、EPSONのC-INKに対するコメントがあります。「自信を持って顧客に紹介できるインクは唯一C-INKのみ」そう評価されています。第三者による評価を重ね、我々が考えるC-INKの位置付けは、インクジェット生産を行える導電性ナノインクを供給できるのはC-INKのみである、というものです。驚くべきことだと考えています。博士課程3年のときに遊びで作った材料がここまで来るなんて。Garminの採用、浜ホトやEPSONからの評価。これによって、明らかに顧客の温度感が変わってきています。Garminに続く採用は間違いなく後に続くでしょう。ゲームに例えるなら、今が最も面白くて、熱いところにいるような気がします。ドラクエ3なら転職ができるようになったとき、ドラクエ5ならモンスターを仲間にできるようになったとき。つまり、まだまだ先は長い、だけど、一気にラクに、面白くなってくる、今がまさにそんな時期かもしれません。さあ、この冒険も起業10年でようやく序盤終了!これからどうなっていくか、皆さんと存分に楽しみます!

https://ecrowd.co.jp/projects/31




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