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人間国宝が作った漆器でラーメンを食べる間違い

第1 はじめに

 このお話は、価値を置くポイントについて思うところを書いてみたものです。売り手の立場では重要と思っていたことが買い手の立場でも重要なのか、案外そうじゃないんじゃないか、そういうお話です。商品を一生懸命売っている方に読んでいただきたいと思います。

第2 マルタイラーメン

 マルタイラーメン、関西のスーパーでは大抵売っていると思います。私がこのラーメンを知ったのは学生時代のアルバイト先でのことでした。美味しいからと強く勧められたのですが、本当に美味しいと思います。ごま油の風味が効いていて、九州ラーメンぽい細麺によく合います。

第3 人間国宝が作った漆器にマルタイラーメンを入れて食べたら

 人間国宝が作った漆器にこのマルタイラーメンを入れて食べたら、このラーメンの味は変わるものでしょうか。やはり人間国宝が作るような漆器ですから、有難みもあって食べるという体験が際立つものになると思うのです。ただ、そういう体験をしたい人はどれほどいるものでしょうか。

 米UXPRESSのCEO 井出健太郎氏は以下のように述べています。

そもそも海外では、企業がビジネスをする上で現在最も重視するポイントはカスタマーエクスペリエンス(CX)です。CXはUXよりさらに広い意味合いで、顧客体験全般を指します。

出典【日本企業はなぜ、心に刺さる商品を届けられないか】企業に必須のUX視点、ガラパゴス大国・日本の殻を破れ

 人間国宝が作った漆器でマルタイラーメンを食べるということは、果たして高価値のCXとなるのでしょうか。

 ちなみに今の私なら、マルタイラーメンで高いCXを提供したいと思ったら、寒い季節に山歩きをするイベントと組み合わせます。身体が冷えたところにゴマ油の効いたラーメンをすすったら、それこそ美味さが引き立つと思うのです。

第4 人間国宝が作った漆器で高いCXを提供するなら

 今度は人間国宝が作った漆器で高いCXを提供するならどうするかを考えてみます。多分誰でも考えつくのは、日本庭園を見ながら和食だと思います。でも、その「日本庭園を見ながら和食」という発想がクセモノだと今の私は思っています。

 上で引用した井手氏のインタビューには、こんな言葉が出てきます。

そもそも日本人の好みに合わせて開発した製品をそのまま売り出したり、日本の顧客に刺さったメッセージをそのまま翻訳したりしても、成功する可能性は高まりません。大切なのは海外のユーザーに〝最適化〟すること。

出典:前掲

 「日本庭園を見ながら漆器で食事」というのはまさに「日本人の好みに合わせて開発した商品をそのまま」だと思うのです。なので、もし外国の方に「日本庭園を見ながら漆器で食事」という体験をしていただいたとすれば、「良いですね!」という反応は返って来るでしょうけれどもリピートはあまり望めないんじゃないかと思うのです。下手をすると日本人にとって嫌悪感を覚えるようなやり方が正しいのかも知れません。

第5 ニーズ指向

 ニーズ指向は良く言われることなのですが、そのニーズの把握が難しいというかクセモノというかとにかく一筋縄でいかないと感じています。

 ユーザが口で言っていることが真のニーズとは限りません。潜在的なニーズとしてインサイトという概念がありますが少し違います。インサイトは潜在意識の中にあって顕在化していない願望・ニーズを意味しますが、ここで言う「真のニーズ」はユーザが口にするニーズの手前の話です。そのニーズがニーズになる前の事情とでも言いましょうか。

 「日本庭園を見ながら漆器で食事」の例えで言えば、外国の生活の中で漆器が映える場面がどこで具体的には漆器をどう使うことがそこに住む人の琴線に触れるのかというのがここで言う「真のニーズ」です。

 そこまで踏み込んで初めてニーズに合わせることができるんじゃないか、そう思いました。

第6 まとめ

 表層的なニーズを真のニーズと勘違いしてるんじゃないか、真のニーズを掴むには努力が必要なんじゃないか、そして真のニーズは表層的なニーズに隠されているんじゃないか、今回の文章をまとめたらこんな風になると思います。

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