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小企業は特許事務所と付き合うべきか
第1 どなたのための文章か
社員数50名未満の小さなものづくり企業の経営者の方々にこの文章を読んでいただきたいと思います。
あるいはそんな企業のコンサルティングをされる方々にも読んでいただきたいと思います。
この文章は、そういう企業が特許事務所と付き合うべきか否か、そしてその理由を述べるものです。
第2 知財ドラマとは違う
「それってパクリじゃないですか?」という知財ドラマが放送されていましたが、これには元になる小説があります。
弁理士の監修を受けているだけあって法的·実務的にも現実にも起こり得る問題を扱っています。まぁお話なので若干の現実離れはありますがそこは気にせずということで…
ただ、ご存知のことと思いますが小企業でこの作品のような展開となる可能性はそんなに高くないと思います。
第3 小企業の知財業務
一般的には、小企業の知財業務は受注や製品の最適化と並行して進むものです。つまりそれらを進めるなかで問題が浮かんでは消えていくのが小企業の知財業務です。問題の中身は例えば特許侵害の有無やノウハウの漏洩やその他モロモロです。もっとも問題が顕在化しないままで終わることも珍しくありません。また、顧客側にしっかりした知財部があったりすると問題を未然に防いでくれることもあります。
つまり、「それってパクリじゃないですか?」みたいなことになる可能性も知財の問題に直面する可能性もあまり高くないので、小企業では知財部を設ける必要は高くありません。特許事務所とつきあう必要もないと言って良いでしょう。特許事務所との付き合いがあれば確かに問題発生を抑えることができますが、コストパフォーマンスをプラスにできないような気がします。知財部門を持たない小企業も特許事務所との付き合いがない小企業も珍しくないのはこういった点が一因ではないかと私は考えています。
第4 知財力が必要な場合
しかしながら、どの小企業でもそれで良い訳ではありません。独自の技術を前面に押し出して受注を狙うような企業は早々に特許事務所との顧問契約を結ぶなどして知財に関する実力を身に付けると良いでしょう。発明の実用化を目指して設立されたベンチャーはそういった企業の典型例となります。
独自の技術を前面に押し出して受注を狙うような企業であれば、知財に関する実力を必要する事態がより多くなると予測されます。例えば、知財上の問題として「他者知財を侵害していないか?」というものがあります。この文章で想定しているような小企業なら、他者知財を万が一にも侵害していた場合には会社の屋台骨が揺らぎます。ところが、他者知財を侵害しているかどうかの判断がとんでもなく難しい。弊所ではクライアント向け勉強会(有料…)を開催していますが、それによって侵害を的確に判断できるレベルに達するには半年程度かかります。
弁理士に判断を依頼すれば比較的早期に一応の回答は得られます。しかしながら、弁理士が「非侵害」と言えばそれで済むものではないのです。少なくない場合において、侵害非侵害の判断は玉虫色のものとなっています。
玉虫色の判断だからといって企業は事業を止める訳にはいきません。そんな実情下で事業を円滑に勧め得るようにする力こそ、ここで言う知財の実力です。だからこそ、独自の技術を前面に押し出して受注を狙うような企業は知財に関する実力を早々に身に付ける必要があるのです。
第5 知財力を身に付けるときの注意点
小企業が知財に関する実力を身に付けるにあたっては、社長自らが知財業務を担当する必要があると思います。何故なら、経営判断と連動する知財判断が頻発するからです。
例えば、他者知財を侵害しているか否かの判断にあたっては過去の出願を探し出し検討することが必要になる例が多々ありますが、そのコストは安いものではありません。別に資格に胡座をかいてぼったくっている訳ではなく、判断のための情報集め·各種作業に長時間拘束されるからなのです。
コストは製品の原価に反映されるので、もしそのコストが高額ならば製品の価格は跳ね上がることになります。それを避けようとすると自ずと仕事の幅が狭まり、独自技術が世に受け入れられる可能性が低下することになります。
そんな問題に対処するために知財コストをいくら載せるか、コストの載った商品を買ってくれるのはどこの誰か、そんなことを考えるのはまさに経営判断なのです。
第6 まとめ
以上をまとめますと次のようになります。
1.独自の技術を前面に押し出して受注を狙うような企業であれば、知財に関する実力が必要
2.知財力は経営判断と影響しあうので、小企業では経営者が知財業務を担当した方が良い