南富良野の美しさは、いつだって無防備だ①
南富良野に到着
新千歳空港からクルマに乗って2時間弱。南富良野の駅についたら、あれ?と気が付く。「ぽっぽやだ!」と知らずに来てしまったことと、つい口に出してしまったことを恥じながら、クルマから降りて展示されているあれこれを眺めた。1995年にベストセラー小説「鉄道員(ぽっぽや)」を原作として映画化され、高倉健さんが、しぶくて恰好良かったあの映画。
舞台はここだったのか。無知で本当ごめんなさい、と思いながら駅構内に残されたセットなどに感動し、駅を後にする。道の駅に向かっていたら、左手に可愛いカフェが見えた。
思わず左折してそちらへ。明るい店内に入ると、そこは薪窯を使ったピザ屋さん。メニューを覗くと美味しそうなラインナップ!本来なら、ハラペーニョと大ジョッキの生!といきたいところだが、運転があるからそうもいかない。心の中で大号泣し、自家製ソーセージのピザとオレンジジュースを頼んだ。
1枚で結構ボリュームがあったが、焼きたてのもちもち加減にぺろり完食。ああ、満足。お店のご夫婦にお礼を言って店を出るとクルマがあった。
お前のせいでわたしはオレンジジュースだったんだぞ!と叫んでみるが特に反応はない。アルコールは夜まで我慢だ。せっかくだからクルマで南富良野を思い切り堪能してやろう。
天気もいいので、こんな日こそドライブ。日本新八景のひとつと言われている「狩勝峠」を目指した。南富良野町と、新得町の境にありなんと標高644メートルだという。む、さ、し、のスカイツリーよりも少し高い。この西側と東側で「日本海側」と「太平洋側」として川が分かれているらしい。そんなスケールの大きい分岐点を目指す。
町の中心部を離れると、あっという間にクルマも人も減って自然が迎えてくれた。久しぶりに運転するわたしにも、優しい街だ。見通しもよく、渋滞もない。緑の木々と時々ほっとさせてくれる古い建物がまたいい。
いくつかカーブでアクセルを踏んでいるうちに、峠に到着。クルマを停めて柵の向こうを覗いてみると、それは美しい光景だった。町の90パーセントが森林だという南富良野が、目の前に広がる。いや、これもほんの一部だろうけど。感動するわたしの後ろで、他のクルマから出てきた人の声がした。「展望台に行こう!」3人組の賑やかさに思わず振り返ると、道路の向こう側に大きく「狩勝峠展望台」と書かれている。
あっちなの!?
3人組に習って展望台から眺める。十勝に広がる雄大な岳を背にどこまでも続く山並み。確かにさっきとは違う。北海道のスケールを鳥瞰図のように見られる貴重な場所。
さっきうっかり?感動していた景色とこちらを比べるのも面白い。北海道の地形を目で感じられる壮大さ。新日本八景を体感すべし。
来た道を戻る。そろそろ丁度良い時間だ、と目的地に向かう。今日はカーリング体験を予約しているのだ。ひゃっほう。テンションが上がる。「カーリング」と聞くと北海道では北見市が有名だけど、なんと南富良野町出身のオリンピアンは3名もいるらしい。ここで今回の旅の仲間がようやく合流し、3人で体験をすることになった。
カーリングに挑戦!
指導してくれるのは、この町の小学生たちに教えている先生。左と右、滑る滑らない設計になっている特殊な靴を履くだけでちょっと緊張する。氷の上に乗ってみると、変に力が入っているのが自分でわかる。「腰をもっと落として!」と叱咤激励されながら、言われるままに練習するが、ちっともうまくいかない。
他の2人は、思いのほか格好よく出来ている。くそう、これが運動神経の差なのか?何なのか?先生が遠くで「ここに向かって!」とゴールを示してくれる場所に、ストーンを運ぶ。うまいうまい、と褒めてくれるが、自分でもそうでもないことくらいわかる。もう大人だからな。
とはいえ、カーリングの点数の付け方や、ストーンの話を聞いていると、今までテレビで観ていたカーリングがもっと身近に感じた。今度誰かに解説してやりたい。ちょっと知識が増えて、実際に体験してみると全然見方が違ってくる!もうわたしは経験者だからね、そこんとこよろしく。
心地良い疲労感のまま、3人で道の駅に向かった。
今夜の夕飯の買い出しだ。何をテイクアウトしようか?などと飲食店を見ていたら、なんと肉そのものが売っているではないか!泊まるコテージにはキッチンもあるし、これを買えばいいじゃん、と3人で意見が揃う。
ジンギスカン、鶏肉、豚肉、と楽しく購入。わくわく。合わせて「肉に合う南富良野ビール」も手にする。ああ、完璧すぎる。お土産屋さんにも立ち寄り、南ふらのもち米バスタとパスタソースも購入した。そこで気が付く。野菜がない。肉だけ焼くのもどうかと思い、結局スーパーにも行くことに。タマネギ、もやし、ニンジン、トマトにチーズ。あ、忘れてはいけないビールも購入。よしよし。これで準備はOK。
南富良野の美味しいものをクルマに詰めて、かなやま湖へと走らせた。あ、湖が見えるなぁと思っていたら、途中で駐車場があったので立ち寄ってみることに。仲間の2人は別のクルマで移動しているので、わたし1人。
クルマを降りててくてく歩くと、静かな湖と緑が迎えてくれた。なんて気持ちがいいんだろう。あまりにも静かで怖いほどだが、水の音がする方へそっと向かってみる。
小川だ。水音と、笹の葉がさらさらと風に揺れる音だけが世界を占めている。ぼうっとその音を聞いていたら、何だか「行けっちゃガサガサ」のように聞こえた気がした。日本昔話の「山ナシとり」だ。※知らん人ゴメン
笹が「行くなっちゃガサガサ」と道を教えてくれているのに、行ってしまった兄さんは妖怪に食べられ、末っ子は素直に「行け」と言われた方の道を進み、無事にナシをとって妖怪退治し、兄さんたちも助けたとかそんな感じ。わたしは正直者だから妖怪のいる沼に到着できるとは思うが、妖怪には会いたくもない上、この先に進むと帰りが遅くなりそうだ。仲間たちに「あいつ帰ってこない」と言われるだろうし、別にナシもいらないし、寧ろクルマに戻った方が肉がある。
昔話から今に戻り、クルマを走らせると、今度は湖の反対側に工場らしいものが見えた。ちらりちらりと見えるそれに、興奮する。自分には「萌え」しかない。気になるが、さすがに今は我慢する。探索は明日にしよう。
コテージでジンギスカン!
チェックインをして荷物を広げ、仲間たちと再び合流。「いいね、広いね!」とリビングや寝室を探検しているうちに、さっさと買ってきたビールを開けた。「何よりも、これが先」と、2人の分もグラスに入れる。自分だけ勝手に飲むことはしなかったあたり、結構優しい方だ。さあ、宴を始めようではないか!と買ってきた南富良野の恵みたちを、どさーっとキッチンに並べる。
自らキッチン担当してくれた1名が、わっしゃわっしゃと野菜を切り、ホットプレートを準備。わたしはそれに甘え、やったぁ!とビールを開栓し「乾杯!」スタート。買ってきた肉は柔らかくて、野菜とも合ってすごく美味しい。味がついているから、コテージでの料理に最適だったなぁと自らの選択に満足グルメ
ガツガツと食べながら、ぐびぐび飲む。気心知れた仲間たちとこうして一緒にご飯を作りながら食べ、飲んで泊まるのは最高だ。
それぞれ自分のタイミングで風呂に入り、ビールを飲み、だらだらとリビングで過ごした。まるで自分の家か?友人の家なのか?というくらい思い切り寛げる空気感。そのうち1人は「もう駄目。眠い」と先に寝室に行き、もう1人は「ここで寝そう…」とソファに横になりだした。おいおい、ホントに好き勝手だな。そろそろ自分も寝ることにする。
………
朝が近づくと同時に、カラダが痛いような気がしてきた。あれ?変な寝方したかな?とベッドを降りて気が付く。
筋肉痛だ。あ!カーリングだ!
2人に「筋肉痛なんだけど!」と階段を上りながら報告すると、「へえ?何で?」と言っている。なんてことだ。普段からろくに運動をしないこのわたしだけが筋肉痛なのか。ああ、なるほど。そういうことね。最初に寝ていた1名は、朝シャワーまでして非常に爽やかだ。なんだこの差は。