ヘルタースケルター、1人じゃ見る事のできない景色
映画ホリック xxxHOLiCから遡る事、ちょうど10年前の2012年、ヘルタースケルターが公開された。
蜷川実花に出会った時、
「私についてきたらひとりじゃ見られない景色をみせるよ、一緒に世界にいこう」
と言われた。
なんかおもしろい事言う人だな、と思った。
個展、写真の撮影、映画の撮影、映画祭で海外にもたくさん行った。
20年近く前、初めて行ったニューヨーク、僕は窓のない狭いホテルに泊まって、近くのピザ屋さんでお昼ごはんを食べていた。
昨年パリに行ったときは、素敵なホテルに泊まり、お昼ごはんはミシュランの三ツ星レストランだった。
帰国後は隔離でアパホテルの小さな部屋に泊まった。実花さんふたつ隣の同じような部屋に泊まった。
三ツ星レストランの食事、アパホテルのお弁当、実花さんは両方を愉快に楽しんでいた。
出会った頃にくらべて随分と色々なことが変わった。
普通に生活していたら、きっとみることのない景色はたくさん見た気がするんだけど、
強烈に覚えている景色は、飛行機で遠くに行った、その先にあるところじゃなかった。
映画『ヘルター・スケルター』公開日、主演沢尻エリカは、体調不良で一切の宣伝活動を辞退、
公開日に初めてその姿をメディアの前に表すことになった。
映画の内容とリンクする世界。
劇場へ向かうワンボックスカーの中、
真ん中の座席に監督と主演がすわっていた。
これから暴力的なフラッシュを浴びるに違いな場所にむけて、車は虚構と現実の間のトンネルを走る。
その間、監督蜷川実花は、主演沢尻エリカの手をずっと握っていた。
車を降りて、劇場へと二人は歩く。
手を握ったまま、握られたまま。
それを僕は後ろからみていた、
「これがひとりじゃ見られない景色なんだろうな」
僕はそう思った。
ひとりじゃ見られない、見たことのない景色、それは逆光でシルエットになった二人が劇場へと歩いていく場所と時間だった。
昨日の『ホリック xxxHOLiC』を劇場で見た帰りにそんな事を思いだした。
(オンラインコミュニティ蜷川組に投稿している記事を再編して掲載しています)