「しょうがない」という言葉で前に進む
蜷川実花監督映画『さくらん』は2007年に公開されました。
その少し後のときのお話をします。
映画は、企画→開発→撮影→編集→完成→宣伝→公開となるのですが、
10本企画して1〜2本公開されたらすごく良いかな、というものなんです。
撮影直前になくなる、完成したのに公開されない(劇場配給されない)、公開がきまっても、例えばコロナウイルスの影響でしっかり公開されない、など。
本当に成立が厳しいものです。
そして公開されても黒字になるのはほとんどない(10本中1〜2本ぐらい)、という世界です。
ビジネスとしてはマトモな神経ではやれないんです笑
それだけ魅力的で中毒性があるということでもあります。
『さくらん』の後『ヘルター・スケルター』(2012年公開)の間に、実はもう一本映画の開発が進んでいました。
脚本もほぼ完成、キャスティングも進んでいたところで企画がなくなりました。
2年ぐらいにわたって時間も労力も思いを費やしたものでしたがなくなりました。ある日突然。
その事を蜷川に伝えました。
蜷川は少しだけ間を開けて、
「しょうがない、よね」と。
僕は「しょうがない、です、ね」と。
しょうがない、で済ませられるものなのだろうか、という思いはありながら言葉はそれ以上でませんでした。
その打ち合わせのあと、各々自分の机に戻りました。
30分ぐらい過ぎた後だったと思います。
用があって声をかけに行くと、彼女は何か資料を読んでいました。
次の映画の原作になるものが何かないだろうかと探していたんです。
そんなすぐに前に進めるものなんだろうか、しょうがない、その一言で前にすすめるものなんだろうかと、その時は驚きました。
今ならわかります。蜷川は自分でやれる事は全てやりきった、だからその結果として自分の力でどうしようもない事が起きたことを受け止められる、と。
蜷川は自分でやれる事をやりきった後、大成功とよばれる事になってもそれすら振り返りません。
前だけをみています。
成功したらさらに先へ、だめだったら「しょうがない」という言葉で前に進む。
大事なことはその時その瞬間、自分の全てを出し切るということだと思います。
今日も「しょうがない」、という言葉で前に進む。蜷川実花とはたらくということ。
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