『デトロイト美術館の奇跡』という御伽噺。
デトロイト美術館の奇跡 原田マハ
面白かったです。そもそも原田マハさんの作品が面白くなかったことが一度もないので、わざわざ書く必要もないのですが。
この物語は、アメリカのラストベルト、ミシガン州のデトロイト美術館で2013年に起こった、デトロイト市の財政破綻に端を発する閉館の危機、そしてその危機を救った素敵な人々と素敵なアイデアを、フィクションとして綴った物語です。
本書は、いわゆる中編作品です。中編の中でも、短編よりの作品です。4章からなる物語の総ページ数は、100ページとちょっと。途中ふんだんに挿絵として写真が挟まれていますから、実際は90ページ弱といったところです。
私は、原田マハさんの美術史にちなんだ作品群が大好きなのですが、個人的には、「美術ミステリー」と形容することに、少し抵抗があります。
なぜなら、ミステリーとしては、トリックがあまりに稚拙だからです。陰謀論に近いとすら思っています。ですが、私はその陰謀論のような、やもすればとても独りよがりにも思える、圧倒的に熱量のあるアーティストに対するリスペクト、そして美術作品を愛する登場人物がとにかく大好きです。
今回、デトロイト美術館の奇跡という、短編よりの中編作品を読んで、そのことを大きく確信しました。
そして、あくまで個人的にですが、私は原田マハさんの一連の美術史をとりあげた作品群を、説話、つまり御伽噺(おとぎばなし)と捉えているようなのです。
お伽話の「伽」は、話相手となって退屈を慰めたり機嫌をとったりすることを意味する。
現代でこそ、「お伽話」は大人が子供に語って聞かせる昔話や伝説などを指すものだが、元々は大人に聞かせるもので、貴人の身近に仕えて話をし慰めることを「おとぎ」といい、子供に聞かせる話を意味するようになったのは明治以降のことである。
狭義のおとぎ話(御伽話)は、太閤秀吉が抱えた御伽衆の語った面白話に起源があるとされる。御伽という風習そのものは別名・夜伽(=通夜)にもあるように、古くからある徹夜で語り明かす伝統に基づいている(庚申待)。その晩に話される話を夜伽話、転じて御伽話とされるに至った。
つまり、原田マハさんの作品は、美術を使った面白話で、私をお殿様のように扱ってくれる。
美術に対する教養も興味のない私にも、わかりやすく、あきずに、たのしく、読み終えると夢心地の気分にさせてくれ、そして、かしこくなった「ゆうえつかん」を もたせてくれる。自分の劣等感をやさしく塞いでくれる。
そんな、現代の御伽噺なのだと思います。