ほんとうのこと
里花さんの歌が、とても好きだ。
へっころ谷のイベントのライブで歌ってくれます!と、店長のケンゴさんが載せていた動画で声を聴いたら涙が出てきて、これは生で聴きに行かなくちゃ、と思った。
へっころ谷のすごく気の良い店内で、目の前で聴く里花さんの歌は、動画と同じように、でももっと優しくて透きとおっていた。常に発酵の良い菌がたくさんいて、しかも麻炭のワークショップのあとだったからすでにものすごく浄化されていたにちがいない店の中の空気に、こまかい光の粒子がぱあっと散って、ますますあかるくなっていくようだった。
ライブのあとにCDにサインをしてもらいに行って、ちょっとだけお話しした時、里花さんは猫みたいに目を細めてにっこりしながら、「歌は授かりものだから。なるべく邪魔をしないように、損なわないように、って、つくってるんです」と言った。
最初に書いた動画の中で里花さんがレナード・コーエンの「Hallelujah」を歌っている。
それを聴いた時に私は、「Hallelujahってこんな歌だったんだ!」と思ったのだ。
レナード・コーエンのあのめちゃくちゃ渋い声で歌われているオリジナルももちろん好きだし、他にも結構いろんな人のバージョンを聴いたことがあるけれど、はじめて、素の状態のこの歌に出会ったような気がした。
いつもがっちりお化粧している人が、パジャマですっぴんでいるところを見たような。
あ、この歌ってこういう顔をしてたんだ、という感じ。
なんだかうれしかった。
それは里花さんが、自分がつくる歌のことを「授かりもの」と心からさらりと言えるくらい、歌のもとのままの姿を尊重することができる人だからだったんだなあ、と思った。
自分の手のなかにやってきたものを、新鮮なうちに、思考やためらいや恐れで邪魔をせずにただそのまますっと差し出すことは、簡単なようで簡単じゃない。
私は、しょっちゅう余計なエゴが入って、ずるずる先延ばしてしまったり、何かがずれたりする。
里花さんのきれいな心に降りてきたきれいなものを、こわさないように、大切に、まっすぐ届けてくれてほんとうにありがとう、と心から思った。
* * *
最近は家事をしながら、よく里花さんの曲をかけているのだけれど、石川さゆりさんに提供したという「ほんとうのこと」という歌が流れるたびに、なんだか今の状況を思う。
あいつは嫌な奴だと ぼくらは言う
ぼくらをおびやかす悪い奴だと
でも ほんとうのことは誰にもわからない
里花さんの濁りのない声は、とてもこわいはずのウイルスですら素の顔にしてくれるような気がする。