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口笛を吹く人

あ、今日はバレンタインデーか!

と、気がついたので、メアリー・オリバーというアメリカの詩人が生涯のパートナーだったモリーという女性について書いた愛の詩をひとつ、勝手に日本語訳もつけて紹介します。

オリバーの詩は、「意識を向ける」ことを思い出させてくれます。
クラニオの施術にも、とても通ずる感覚だなあと思います。

自然や、近くにいる人たちや、日常の瞬間。
オリバーは、見慣れた存在に、はじめて見るような研ぎ澄まされた視線を向け、発見し、気づき続けます。

「知っている」と思って見ることを怠れば、簡単に見過ごしてしまうような小さなきらめき。それに気づいた瞬間の、ぱっと世界が鮮やかさを増すような感覚。

きっとオリバーは詩を書きながら、世界に、生に、何度も恋をし続けていたのではないかと思います。

そんなふうに意識を向けることを、忘れずにいたいなと思うのです。


The Whistler by Mary Oliver

All of a sudden she began to whistle. By all of a sudden
I mean that for more than thirty years she had not
whistled. It was thrilling. At first I wondered, who was
in the house, what stranger? I was upstairs reading, and
she was downstairs. As from the throat of a wild and
cheerful bird, not caught but visiting, the sounds war-
bled and slid and doubled back and larked and soared.

Finally I said, Is that you? Is that you whistling? Yes, she
said. I used to whistle, a long time ago. Now I see I can
still whistle. And cadence after cadence she strolled
through the house, whistling.

I know her so well, I think. I thought. Elbow and ankle-
Mood and desire. Anguish and frolic. Anger too.
And the devotions. And for all that, do we even begin
to know each other? Who is this I’ve been living with
for thirty years?

This clear, dark, lovely whistler?

口笛を吹く人

まったく突然に、彼女は口笛を吹きはじめた。突然にとは
つまり、三十年以上の間、彼女は一度たりとも口笛を吹いた
ことがないということ。ぞくぞくした。最初に思ったのは、だれ?
家に入ってきたのは、知らない人? 私は二階で本を読み、
彼女は階下にいた。とらわれたのではなく、遊びにきているだけの、
朗らかな野鳥が喉の奥から奏でるような、その調べはさえずり、
急降下し、ふわりと浮いては戯れ、高く舞い上がった。

とうとう、私はいった。あなたなの?口笛を吹いているのは。そう、
と、彼女はいった。口笛を吹いていたの、ずっと昔に。どうやら
まだ吹けるみたい。そうして、いつまでも、いつまでも、彼女は
家の中を歩き回り、口笛を吹いた。

彼女のことはよく知っている、と、私はおもう。肘から足首。
気分や欲望。苦悩やはしゃぐ姿。怒りも。
そして、情熱も。それでも私たちは、お互いをすこし
でも知っているなんていえるだろうか? 三十年、ともに
暮らしてきたこの人は、いったい、だれなのか?

この、明朗で、浅黒く、愛らしい、口笛を吹く人は?

オリバー(右)とモリ―(左)。かわいい二人!


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