和訳のストラテジー#4 詩を鑑賞してみよう
書いていて小学生みたいなタイトルだな、と思いましたが、実際その通りなのでいいのです。そして、今回に限って言えば、「和訳」を超えます。なぜならこの詩には隠されたものがたくさんあると考えられるからです。それをゆっくり紐解きながら訳していきましょう。少し、翻訳の世界に入るのかもしれません。
部分解説
今回は部分解説ごとに訳を載せることはしません。解説をよく読んで後の全訳例を見てみてください。わかりやすくするために意味の区切れるところに区切り線を入れてみました。
Tell all the truth but tell it slant —
butの前は簡単ですね。では後ろを見ましょう。"slant"を「ななめ」とそのまま書いていいかが論点です。私の考えを入れると、真実はそのまま伝えられると「とげ」があるため痛みを伴うものになります。ですから、「オブラートに包む」わけですね。文学を論じる時によく言われることです。真実を語りなさい、しかし嘘で固めてね、と。それが創作の面白さでもありますね。
では、これをどう書けばよいのでしょう。「ゆがめる」とかも使えそうですね。しかし「事実をゆがめて」というのはマイナスイメージがありますよね。あとは「アレンジ」という風に解説されている辞書も。工夫しなさい、ということなんでしょうね。さあ、みなさんはどう訳しますか?私なりの答えは全訳で。少しやりすぎたかもしれませんが後悔はしていません。
Success in Circuit lies
SuccessがS、liesがVですね。成功はあるよ、"Circuit"のなかに。というのですが、これが困りましたね。「周囲」とか「サーキット」というものは納得できませんね。私は「まわりまわって」と訳そうと思います。この語の語源からして、回っていくことをさすだろうと考えられるからです。一応「まわり道」という訳も辞書によってはありそうなのでこのくらいでいいかなと。あと「まわりまわって成功がある」というのはおかしいので、Success liesを名詞構文っぽくして「成功する」としておきます。ちなみに、「伝えることが成功する」という意味なので「うまくいく」などとされてもいいですね!
Too bright for our infirm Delight
ここは特に問題ないですかね。名詞構文で何かできるかと思いましたが、複雑になるのでそのままで構いません。一応確認ですが、forは方向を表します。なので、「私たちの少しの喜び」に向かって"bright"が刺さるわけですね。ちなみにtoは到達。意味が変わってきます。
The Truth's superb surprise
"superb"と"surprise”は"su"が頭韻ですかね。ちょっと違うのかな。でもまあそういうことです。それを反映させて、日本語では脚韻にしましょう。「すばらしき驚き」とすれば「き」で韻が踏める。驚きというのは正確には「驚かせるもの」なんでしょうが。意が通るのでいいかな。
この部分で言いたかったことは、先ほど私が言った「真実をそのまま受け入れるのは難しい」ということです。真実を知ることは喜びですが、強すぎるんですね。ヤマアラシのジレンマとは少し違いますが、そんな感じでしょうか?
As Lightning to the Children eased
LightningがS、easedがVですね。to the ChildrenがSを修飾していると考えます。ここで先ほどのtoの概念が使えます。子供たちに到達する雷、すなわち啓蒙思想は和らいでいるべきなのです。asの用法からすると様態でいいのかなぁ……
With explanation kind
これは和らげさせる手段。丁寧な説明をすることで和らげさすのですね。ということで、全訳では挑戦をしてみました。「・・・をして~せしむ」と、使役を使ってみたのです。これが吉と出るか凶と出るか。
The Truth must dazzle gradually
dazzleは難関大でも出てくる重要単語。「目をくらます」とか「まぶしくする」とか。「だんだん」とあるので、これは急にまぶしくなるのではなくて慣らしながら明るくなるんだなと理解すればOKです。
Or every man be blind —
"man"は「人々」の意です。「男性」という意は対比がないところであえて用いられることはないでしょう。
"blind"について深めねばなりません。ここで、あるアフリカの国だったかの話をしましょう。どこかで読んだか聞いたかした話なので、ディテールの間違いがあるかもしれませんがご了承ください。
所謂「発展途上国」だった国で、教育をしていた人がいた。その部屋はとても暗かった。灯りはあるが、日本の和ろうそくほどの光とでもいえば良いだろうか、とにかく明るくないのだ。そこでその国の人々は読み書きを学んでいた。ある日、先進国の金持ちがやってきて、その暗さに驚いた。そして、明るいランタンを差し上げよう、と支援を申し出た。しかし、運営者は断った。教室が明るくなってしまうと、暗い夜道では何も見えなくなってしまうから、と……
すなわち、一度明るすぎるものに触れると、人間の眼はそれに順応してしまうんですね。そうなると暗いところが見えなくなる。それを"blind"と表しています。
まとめ
啓蒙思想 ── "enlightenment" は、真理を人々に伝えてしまうこと。暗闇に明かりを、いや稲妻を降り注ぐことで皆を明るく照らそうとした。そう、それはとてもまぶしいものだったんです。そんなものがいきなり現れると、みんな混乱してしまう。そういったことなのかなと考えました。
だから、真実は謙虚に語らねばならない。すべて伝えるにしても、オブラートで包まねばならない。ねぇ、ディキンソンさん。あなたは「詩」という形式を使ってこのことを伝えたんですね。私は、それを少しだけかもしれないけど、受け取らせてもらいました。ここまで解説したことがよかったのかはわからないけど、出会えてよかった。
今回は構文解析は省略します。
しかし、最後に一つだけ。──「罫線」をどうしたか、ということだけ。これにはおそらく相当な意味が込められているのだと思います。残念ながら私はその意味にたどり着けませんでした。もしかすると、罫線の部分は教訓なのでは。一行目と最終行。その部分の記憶をありありと残すために……もしかしたら罫線を入れたのかもしれない。確かではないのでここはごめんなさい。
全訳例
真実をすべて伝えよ、しかし創って語れ
そうすれば、まわりまわって成功する
私たちの聊かな喜びにとっては明るすぎる
真実のすばらしき驚き
子どもたちに降る稲妻を和らげせしむるように
親切な説明をして
真理はだんだんと眩くもの
さもなければ、みんな何も見えなくなってしまう
内容以外で伝えたいこと(ポイントまとめ)
詩などの韻文は、言いたいことをしっかり理解したうえで伝えることを厳選する!訳文で書きすぎるのはよくない。
原文の文体を意識しながら、訳出する感覚を養う。まずは感じることから。
とにかく詩の美しさを原文で楽しみましょう。そういうひとときがあると心の栄養になります。
ぜひ、音読を!!!
ご連絡
中間テストが6月の初旬にあるため、和訳のストラテジーは当分の間お休みさせていただきます。(というかテスト前にこれを書いている自分もどうかしているような気が……)次回の課題はそれが終わって一段落ついてから公開します。その後解説もします。少し待っててくださいね!!