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自分の言葉で(連作50首)

第7回笹井宏之賞最終選考候補作


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自分の言葉で

いぇにちぇりと二月の泥土を踏みながら僕ら新居の相談をした
予備校の駐輪場の自転車が少なくなるのが合図だ 春の
同棲と打ち込んでから急激にブラウザは重く、ファンは素早く
めちゃくちゃに飛び跳ねた夜を覚えてる同い年のベッドを捨てる
五月まで炬燵は出てる 雛、自分、兜、炬燵の順に消えてく
家を出てからの方がいい家族 同じ理屈で親友がいない
妹が生まれた年に庭に来た桜はたぶん今年も咲いた
ひらがなで名前をコップに書いてみる そういうウケも取り入れてみる
この街の名前が別の意味になるピジンを四年かけて作ろう
楽団の求人とかも貼ってあるホームの隅から今目を離す
あえて駅で待ち合わせてみる 二人ともおんなじお茶を手に持って来る
止血用とも知らないでズボンから紐がぶらぶら 追って歩いた
閉塞の暗喩だねって水槽を見上げて笑う僕らの知性
同じ場所を家という僕 部屋という君 それぞれの家族や生家
多分もう離さないから映画には一人で行けて、一人で帰れる
同一でなかった時間を取り返す合意 例えば米の固さの
臓器にも臓器言葉を考えてときには都合良く知らんぷり
城跡に大学があり城攻めを通学ということにしている
伏線にまみれた暮らし 明らかに違うと分かるインカのめざめ
これは知っておくだけでもいいですと講師は環世界論の話を
まだ意識ありますだからまだやれる明日の天気を告げる音声
砂浜も君の生家もない街の終電は低く息を荒げて
恐らくは花火だ 音から肉じゃがに向き直るまでのほんの数秒
アルバイト ぼくアルバイト あなたにはしたことのない敬意の見せ方
着姿は見たことがないデパ地下の惣菜屋さんの制服を干す
一族の滅びのたとえに頻出の光線が部屋に差し込んで (キス)
考える 僕が楽器でこの部屋がマウスピースである可能性
昔楽器をしていた人に特有の目つきがあって、それをやりたい
ちんちんのないマネキンが性愛を歌うバンドのTシャツを着る
全員が期待していた程よくはなかっただけどいい後夜祭
燃えてゆく線香を見るときの目で未成年飲酒をじっと見ている
世には言葉がたくさんあって適切に選べばそれで会話は続く
三月に買ったきりまだやってないナンジャモンジャのフィルムに埃
「ブーバとかキキとかアンとかサリーとかそういう名前しかつけないね」
この街の秋は曖昧 大家族みたいな鍋でお湯を沸かそう
Twitter for iPhone 大体は同じ意味になる多くの言葉
電話では言えないことが増えていきケースティファイはより頑丈に
カニバリストもサラダを食べはするだろう 君は謝罪がとても上手だ
雪が降る たくさん降っても言葉ではないから子どもしか拾わない
でも微笑だって分かったモナリザの蓮コラが踊る五秒の動画
ダンボール 名前が付いてない星をあなたは星と認めていない
変わってくあなたもきっと美しく西日でひどく焼けた背表紙
裏切りで始まる恋は裏切りで終わる 祖父母は稲作をする
全自動卵割り機が示唆しえた素朴な進歩を重ねたかった
キャラ化する/されるぼくたち 同棲は言い出しっぺが終わらせるべき
多分もう話さないから北極星みたいに自分の言葉を探す
それなりをどこかで重ねているだろう 一食毎に米を炊く君
残雪を追い越すように君がいた痕跡は消え 田にはセキレイ
キスをまた期待している 唇に 緑青の浮くマウスピースに
桜 多くは複製で、入学と卒業の間に何回も散る



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