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雨降って地固まる
お盆の期間、泊りがけで祖父母の家にいった。祖父母の家は、自宅から車で1時間ほどの山村にある。昨年は訳あって遊びに行くことはできなかったが、初めてお盆に泊まりにいった中学1年の頃から数えると、2年振り通算7度目。僕にとって、この期間の「祖父母の家への宿泊」は、もはや恒例行事と化している。
泊まって必ずすることといえば、遠方からやって来る親戚を迎える準備だ。オードブルを買ったり、来客用の大きめのテーブルを用意したりと、みんなで忙しなく動く。今年は13日に祖父の兄弟の娘夫婦が、翌日14日には祖父の弟とその孫がやってきた。どちらとも会うのは2年振りなわけで、なんともいえない懐かしい感覚があった。
テンプレートをなぞるようなお盆の中でイレギュラーだったのは、祖父の娘も泊まっていたことだ。あえて「祖父の娘」といっているのは、それはまあ複雑な事情があるわけで。祖父母の子どもではなく、正確には「祖父の」子どもなのである。
宿泊の前日、祖母との電話口で「彼女も遊びに来ている」と聞かされていた。が、まさか泊りがけだとは思ってもみなかった。祖父母の自宅で分かったのだが、彼女は僕が泊まる前の晩から宿泊していて、自分と同じ日に自宅に帰るのだという。
宿泊した最初の晩。4人での夕食を済ませた居間に「太平洋戦争」に関するドキュメンタリー番組が流れ始めた。番組の途中、ある島で戦いに臨んだ日本兵の話題が出たところで、祖父が口を開いた。
「これはある人から聞いた話だとも、戦争が長期戦になると食糧に困るでしょう。アメリカは、戦地に食糧を積んだ戦闘機を飛ばして、空から食糧をばらまいたんだと。例えば、カップラーメンとか上から落として、それでアメリカの兵隊方は、お湯を入れて食べたんだと」
「へえ、そうなんですね」と、さも初めて聞いたように頷いてみせたが、2年振り通算5度目くらいだ、この話。祖父の次の言葉を話そうとするのと同じくらいのタイミングで、娘さんが「父さん、それは違うで」と言った。これが結構強い口調で、場が少しピリッとした。
「カップラーメンは、戦後、日本人が発明して、国内で発売されたものなの。それが戦時中に、しかもアメリカ兵が配ったなんて、そんなわけないでしょ」
「だとも、俺の弟がカクカクシカジカ・・・」
「だから、あり得ない話なんだって。なして、嘘つくの父さん」
嘘つき呼ばわりされた祖父は、それから明らかに口数が減った。まあ、そこまで責められたのだから無理もない。祖父は、皆の前で「疲れたから早めに寝る」と宣言して、誰よりも先に床に就いたのだった。
翌朝、眠い目を擦りながら居間に入ると、祖父と娘が楽しげに話をしていた。昨日の甲子園の結果を流す朝のニュースを見ながら、昨日の試合を振り返っているらしかった。
「雨降って地固まる」ということわざがあるが、前日のけんかが2人の絆をより強固にしたように感じた。前日のひと悶着なんて無かったかのように振る舞う父と娘が、なんとも愛おしくみえた。
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