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座席を決めて、乗車する
新幹線の指定席券は、その名の通り、座りたい座席を私たちが自由に「指定」できる切符だ。
何両目がいいか。
何号車がいいか。
そして、何列目がいいか。
もちろん「完全に自由」な訳ではなく、予約時点で「空いている座席」の中から選ぶことになる。といっても、かなり早めに予約をすれば全然埋まっていないので、タイミング次第では選び放題。
新幹線に乗ったことがない方は、映画館をイメージしてみるといい。座席数全体のうち、埋められた部分を引いた残り。ここから各々が、自分の中の基準に従って座りたい場所を選択をする。いかに自分の、あるいは一緒にいる家族・友人・同僚を含めた「私たち」の満足度を高められるかのゲームだ。
最近、仕事の関係で新幹線に乗ることが多い。昨年は、平均して2ヶ月に1度のペースだったが、今年はすでに2回目。この文章を書いているのも、まさに東京に向かう新幹線の中である。
つい1年前までは、東京に向かうと言えば「夜行バス」だった。だって、安いんだもの。圧倒的にお財布に優しいんですもの。それに、夜間に乗車して、寝て目が覚めれば目的地に着くもんだから、乗車時間が長くても、別に気にならない。
転機が訪れたのは、2023年12月のこと。僕が横浜に行くタイミングで、ちょうど大雪の影響による交通網の大幅な乱れが発生したのだった。当日参加予定のイベントには遅れ、周りにも心配をかけ、疲れだけが残る。その次の旅行から、僕は新幹線に文字通り「乗り換え」た。正直お金のこともあるから、新幹線一本とまではいかない。が、少なくとも地元・東京間は新幹線で行き来するようになり、現在に至る。
一人の遠出の回数に比例するように、徐々に計画性が欠如してきた。最初のうちは不安でたまらなくて、スプレッドシートに細かい旅程を全部書き出して、ついでに予算額も決めて、準備に準備を重ねた上で自宅を出たものだ。それがどうだ。もうスプシを作ることも無くなり、パッキングも家を発つ直前になった。
ああ、人って変わるんだな。昔の丁寧な自分が消え失せてしまったようで、切ない気持ちになる。
今の大胆で大雑把な僕は、新幹線を予約するのだって旅行ギリギリだ。今回は、予定の1週間前くらいになってようやく席をとろうと思い立った。
さすがにそろそろ取らないと。席が空いてなくて、別の手段を考えないといけなくなると、かえって面倒だし。
そんな後ろ向きな気持ちで、切符が購入できるサイトを開いた。乗車予定の日時で検索をかけると、候補に沿う新幹線が提示される。僕は迷わず、1番上に表示された「始発列車」を選択した。乗り慣れている時間帯ゆえに安心感があったから。それに、何かあった時のためにも、できるだけ早く目的地を目指したかった。
次に、出てくるのが座席の選択だ。いくつかボタンがあって、完全にランダムに選んでもらったり、こちらがピックアップした条件に最適なシートを提示してもらったりすることができる。僕はそのどちらも使わず、いつも自分で選ぶことにしている。その方が、なんとなく楽しいからだ。画面に表示される「〇」や「×」をみながら、どこに座るのが自分にとってベストなのか。じっくりと考える。
写真撮るためには、窓側がいいな。前後に他の人がいない方が、落ち着けるよな。って考えると2択か。じゃあ、あとは数字の好みでこっちにしよう。
今座っている席(15号車 16番A席)は、そうやって僕が決めた席だ。自分で選んだ思うと、隣の空席よりも、家族が楽しそうに会話している斜め後ろの席よりも、なんだか特別な席に思えてくる。
到着予定時刻より少し遅れて、新幹線は東京駅に入線した。席を立つ前に、忘れ物がないかをしっかり確認する。よし。大丈夫。問題ない。
リュックを背負い、キャリーケースを押し、出口に向かう。あの席には、次に誰が乗るのだろう。どんな思いで、その席を選択するのだろう。未来の乗客に思いを馳せながら、特別な席のある新幹線の外へと、僕は足を踏み出した。
※サムネイル画像はイメージです
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