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時間切れ!倫理 92 ウパニシャッド哲学(つづき)

つぎに、宇宙の根本原理のことをブラフマン・梵(ぼん)といいます。僕たちはこの世界に生まれて死んで、また生まれ、という循環を繰り返しているけれども、この世界全体を包んでいる、または貫いている根本原理がブラフマン・梵です。生死、生死を繰り返す我々の命の根本であるアートマンも、宇宙の中に存在するので、アートマンも実はブラフマンの一部だと考えることができます。一部なのだけども、我々は自分というものにこだわっているので、死んでもまた生まれ変わる。
 しかし、アートマンはブラフマンの一部に過ぎないのだと悟ったら、アートマンはブラフマンに吸収されて消えてしまう。塩が水に溶けていくように溶けてしまう。そうなると、アートマンはもう消えてしまっているので、死後生まれ変わることはないのです。これが、ウパニシャッド哲学がめざす目標です。アートマンがブラフマンと一体化すること、これが解脱(げだつ)です。仏教用語では梵我一如(ぼんがいちにょ)という。これが悟りの境地であり、バラモン教が生み出したウパニシャッド哲学の一番の肝です。
 インドでは現在に至るまで様々な宗教が生まれ、今も様々な修行者がいますが、その根本は全てこれです。くるくる回る輪廻から抜け出るためにブラフマンと一体化しよう、我(が)を捨てようというのが、すべてのインド生まれの宗教の基本的な考え方です。どうやって輪廻から抜け出すのかという方法や考え方が、宗教によって違うだけなのです。
 例えばどんなものがあるかというと、ヨーガ、断食、このような苦行が多いですね。このような修行によってアートマンを捨てる。捨てるということはブラフマンと一体化して輪廻から抜け出るということです。
 ヨーガというのは、現在は健康法のようになっていて女性に人気ですが、これは元来、不自然な姿勢をとって肉体を苦しめる行為です。肉体を痛めて痛めて痛めつけ、思考は痛いという感覚一点に集中し、様々な欲望や雑念がなくなる。自分の思考を痛いという感覚のみに追い詰め、最後にはその痛いという感覚を捨てる。こうすることでアートマンを捨てることができる。そのような発想のようです。断食も同じようなもので、肉体を追い詰める。
 逆のやり方もあります。例えば麻薬を使い、忘我の境地に至ることによって、我を捨てるというやり方があります。あまり表には出てきませんが、こういう手法は今でもやられているのだと思います。また、詳しくは言えませんが、男女の性の交わりの快楽の頂点でアートマンを捨てるとか、色々なやり方があります。日本では密教の立川流というのはこの系統です。

(オ) 前6世紀頃社会の変化
 歴史に戻ります。紀元前6世紀頃から、部族社会であったアーリヤ人社会に徐々に国が生まれてきます。また商業も発展してきます。国が生まれるということは、王様や貴族たちが力を持ってくる。彼らは身分でいえばクシャトリヤでしたね。また、商業が発展するということは、商人たちヴァイシャ身分の者が実力を持ち始めるということです。
 クシャトリヤやヴァイシャが力を持ってくるのに、相変わらず僧侶身分であるバラモンたちが、宗教を独占することによって威張っているわけです。クシャトリヤやヴァイシャは、バラモンの下であることに不満を持つようになる。そういう中でバラモン教を批判し、身分制度に反対しつつ、解脱を説く宗教家たちが現れます。

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