言葉の海を渡る舟
この春までNHKでやってたプレミアムドラマ「舟を編む」をずっと見ている。
すでに最終回まで見終わっているけれど、それを繰り返し何度も何度も見て、何度も何度もこころ揺さぶられ、何度も何度も泣いている。
あぁ『舟を編む』か…、確か映画だったっけ、見た気もする、辞書をつくる長い長い作業を淡々と描いていた、そういう物語だったような…
そんな感じで三週間ほどためて、ざっと見るかな…どうかな…程度の感覚で見始めたら、一話目の終盤でもうこころを鷲掴みにされてしまったのだった。
まず第一に、辞書をつくるとはなんと尊い仕事だろうか。
そして、次に、私たちが当然のように使っている言葉というものがいかに素晴らしいものか。
はるか古代まで遡ってみても、人とは一人では生きてゆけぬと想いを馳せる…というところまで行き着いてしまったわけだ。
これは『浪漫』以外の何者でもないじゃないか、と激しく感動してしまったのだった。
毎週末を楽しみに楽しみに生きていたと言っても過言ではなかった。
しかし、それだけにはとどまらず、だ。
まずは、いてもたってもいられなくなり、まずは原作本を買い求め、読む。新幹線の2時間半を寝ないで読んだ。それはもう夢中で読んだ。
それでだいたいのことを私は把握した(笑)
余談だが、私はこの原作をオーディブルに探した。それが一番手っ取り早いと思ったからだ。でも、なかった。
「なかったよぉ〜」と息子に嘆くと「だいたい、紙の辞書をつくるという崇高な物語を文字で読まんと、耳で聞き流そうとすること自体、かあさん…終わってんで」と言われた。
いや、確かにな、その通りやな、スミマセン。
次に、どうしても辞書が欲しくてたまらなくなった。
私は、言葉の意味をよくググる。よく調べる方だと思う。スマホは物知りな友達だと思っている。
でも、紙の辞書が欲しくなった。頁をくる、文字の羅列の中から探す、ということを再びしてみたくなった。
そこで、大きな書店に行くと辞書売り場へ。あまりの種類の多さに戸惑ってしまって出直す。家でYoutubeで辞書と検索して、何を買うべきか調べて、再び本屋さんへ。
しかし、ここで思わぬ壁にぶち当たってしまった(涙)
手にとって頁をめくってみたところ、字が…字が小さすぎて読めない、てか見えない、まったくぼやけてなにもかもが滲んでいる…あぁ…老眼。
打ちのめされ、ものすごい敗北感とともに、また本屋さんを後にする。
それでも諦めきれない私は、本屋さんに行くたびに、辞書売り場に立ち寄るのだった。
そんなある日、とうとうみつけた!みつけてしまった!
『大きな活字の新明解国語辞典』
『大きな活字の三省堂国語辞典』
うぉーっ!!!と雄叫びをあげそうになった(笑)
辞書自体もかなり大きいし、値段も普通のものより割高ではあるが、背に腹はかえられぬ、私は欲しいのだ、欲しかったのだ、買うしかないではないか!
そんなこんな日々の中で、とうとうドラマは最終回までひた走り、そして、私はロスに喘ぎ悶え苦しみ、いまだ録画したものを飽きもせず、何度も何度も何度も見ているのである。
さて、ここで終わったわけではなかった。
その次に私がしたことは、物語のエピソードにも出てきた、夏目漱石『こころ』をちゃんと読んでみよう…ということだった。
娘は、夏目漱石『こころ』は何度も読んだ素晴らしい小説!と絶賛していたが、私は流し読み程度の挫折組、今度こそちゃんと読んでみよう。そして、読了。
さらに、とうとう恋心が募ってしまって、映画『帰ってきたあぶない刑事』を見に行ってしまった。
なぜか…そう、私は物語の中にいる松本先生に恋してしまった。穏やかでうつくしい語り口の優しい眼差しをした松本先生に恋をしたのだ。そして、それと真逆のあの懐かしいセクシー大下ユージのアクティブな走りや軽快な声や何よりもあの笑顔に会いたくなってしまったのだ。
私はもとから柴田恭兵氏が好きなのだ。それがまさに再びの恋心で、勝手に燃え上がってしまった(笑)
そして映画『あぶない刑事』はとても楽しめた。ユージだけは白髪のおじいちゃんになってもとてもかっこよかった。とても素敵だった。
そして、最後に、一番後回しにしてはいけない、映画『舟を編む』をちゃんと見た。
ふふふ、『帰ってきたあぶない刑事』よりかは先に見ろよって話だけれども(笑)
これもとてもよかった。
でも、私はNHKプレミアムドラマ「舟を編む」がよかったな。
たぶん二時間の映画では伝えきれない細かい辞書にまつわるエトセトラをゆっくり味わえるのが、ドラマ版の方なのだと思う。
誰かと繋がりたくて人は言葉の海を渡る。
私のこの数ヶ月の、言葉の海を渡る舟に乗船した長い船旅は、ようやっと港に帰ってきた。そして、旅のアルバムを繰るようにまだずっとプレミアムドラマ「舟を編む」をずっと見ているのである。
そして、やはり何度見てもこころを揺さぶられている、いまだに。