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「トンと喚けばカラの体がトンと啼く」#03

【前書き】

皆様、お疲れ様です。
カナモノさんです。

ふつふつと書いていた短編小説のお披露目です。

少しの間でも、お楽しみ頂けていることを願います。


【トンと喚けばカラの体がトンと啼く】

作:カナモノユウキ


登場人物紹介
◆ 西林(にしばやし) ― フリーライター、都市伝説「トンカラトン」を追う。
◆ 東和田(とうわだ) ― 怪談専門の記者、西林と共に調査を進める。
◆ 北海(きたうみ) ― 民俗学者、「トンカラトン」の噂を独自に調査していた。
◆ 南森(みなみもり) ― 地元の警官、製薬会社と関わりを持つ。
◆ 秋月製薬(あきづきせいやく) ― 頓殻病を極秘研究している製薬会社。
◆ 榊(さかき) ― 元・秋月製薬の研究員、過去の実験を知る。
◆ 北海の母親 ― 息子を探し続ける。
◆ 篠崎(しのざき) ― 村の住人、「トンカラトン」の噂に詳しい。
◆ 松浦武三郎(まつうらたけさぶろう) ― アイヌの伝承を記録した歴史上の人物。


【第二部:囀る骨、蠢く影】

――――夜の帳がすっかり下り、時計の針は午後11時を指していた。
東和田と別れた俺はスマホを握りしめ、篠崎の連絡先を眺めていた。
――篠崎に連絡を取るべきか?
商店街での妙な感覚が、まだ頭の中でくすぶっている。
何かがいる――そう確信しつつある自分が怖かった。
ため息をつきながら、通話ボタンを押した。
コール音が数回鳴った後、電話が繋がった。
「……もしもし。」
篠崎の声が聞こえた瞬間、俺は眉をひそめた。
「久しぶり篠崎…何かお前、大丈夫か? 声、変じゃないか?」
篠崎は少し間を置いてから答えた。
「……ああ、ちょっと疲れてるだけだ。」
篠崎の声は、妙にかすれていた。
喉の奥から搾り出すような、普段とは違う響きだった。
「本当に疲れてるだけか?」
「……いや、何か体が重いんだよな。」
篠崎の言葉に、胸がざわつく。
「それ、いつからだ?」
「……数日前から。」
その答えに、俺は背筋が寒くなった。
電話越しの篠崎の息が、微かに乱れる。
「……それだけじゃないんだ。」
「何かあったのか?」
「最近さ、変な夢を見るんだよ。」
その一言に、俺の指が無意識に強くスマホを握った。
「変な夢?」
「……よく覚えてない。でも、誰かが耳元で囁いてるんだ。」
篠崎の言葉に、妙な胸騒ぎがした。
「何を囁かれてるんだ?」
「……わからない。でも……聞いたらダメな気がする。」
篠崎の声がかすれ、そこで一瞬、雑音が混じった。
――カラ……カラ……
俺は息を飲んだ。
「おい、今の音……何だ?」
篠崎は沈黙したまま、低く呟いた。
「……俺の部屋の中で、さっきからこの音が鳴ってる。」
背筋が凍る感覚。
「ふざけるなよ。お前、誰かいるのか?」
「……わからない。でも、"いる"気がする。」
篠崎の呼吸が荒くなるのがわかった。
「今、どこにいる?」
「……自分の部屋。でも……変なんだ。」
「何が?」
「……壁の隙間から、"目"が見える。」
その瞬間、"カラ……カラ……"という音が、はっきりと聞こえた。
「おい、何だ?どうした篠崎!」
俺が叫んだ次の瞬間、篠崎が震える声で言った。
「……トンカラトンが、いる。」
バチッ。
通話が突然、切れた。
画面を見つめたまま、冷たい汗が流れる。
もう一度かけ直す。しかし――
「現在、この電話番号は――」
無機質な音声が耳を刺した。
"篠崎が、消えた?"
頭の中で考えがぐるぐると回る。
東和田に相談すべきか?
だが、通話を試みても――
「電源が入っていないか、電波の届かない場所にあるため――」
東和田のスマホは、繋がらなかった。
そういえば、別れる時に言っていた。
「俺は駅前で聞き込みする。余計な連絡が入らないように、しばらくスマホの電源を切っておくわ。」
普段の取材時、彼は集中するためにスマホを切ることがある。
今、それが仇になった。
俺はしばらくスマホを睨んでいたが、その時――
ブルルル……
スマホが振動した。
画面を見ると、差出人の名前に目を疑った。
「北海 淳司」
……北海?
彼は、俺の大学時代の恩師。
民俗学とオカルト研究の権威で、日本各地の怪異伝承を追いかけていた人物。
しかし、数週間前から消息を絶っていた。
そんな彼から、今、メッセージが届いた。
「助けてくれ。俺を回収してくれ。」
その短い文を見た瞬間、背筋が凍る。
篠崎だけじゃない。
北海にも、何かが起こっている。
震える指で返信を打つ。
「どこにいる?」
数秒後、既読がついた。
だが、返事はない。
スマホの通知音が鳴った。
新しいメッセージ――
「場所:〇〇の山の入り口」
山の入り口。
そこは、"トンカラトンの目撃場所"のひとつだった。
その時、スマホが再び震えた。
画面を見ると――東和田からの着信。
「おい、西林。どうした? 着信すげぇ残ってるけど。」
「やっと繋がったか!」
「すまん、聞き込みしてたから電源落としてた。」
「そんな場合じゃねぇ。北海からメッセージが来た。」
「……は?」
東和田の声のトーンが変わる。
「助けてくれ、回収してくれって書いてある。場所は、あの山の入り口だ。」
東和田が沈黙する。
大学時代、北海は俺にこう言ったことがある。
「伝承というのは、時に実体を持つ。人が語り継ぎ、信じることで、それは"現実"になるんだ。」
「もし、その伝承が"間違った形"で受け継がれたら?」
「……"何か"が生まれるかもしれないな。」
まるで、今起きていることを予言していたかのような言葉だった。
「……どうする?」
東和田が低い声で聞く。
「決まってる。行くしかない。」
「でもよ……篠崎のこともあるし、これはヤバいって。」
「だからこそだ。」
俺はスマホの画面を見つめる。
北海が本当にそこにいるのか。
それとも――すでに"何か"になっているのか。
確かめなければならない。
俺たちは、北海が指定した「山の入り口」に向かっていた。
足元の枯葉が微かに鳴る。しかし、それ以外の音は何もない。
 ――静かすぎる。
この時間帯なら、山の中から虫の声や鳥の羽ばたく音が聞こえるはずだ。
だが、今は何もない。風すら吹いていない。
まるで、"何か"に見られているような気がする。
東和田が小声で呟く。
「……おい、これ、ヤバくないか?」
俺も頷く。何かがおかしい。
その時だった。
遠くから、微かに聞こえた。
「カラ……カラ……」
不規則に、乾いた音が響く。
俺たちは顔を見合わせた。
その音が、少しずつ、少しずつ近づいてくる。
木々の間に"何か"が揺れている。
……人影?
だが、シルエットが不自然だ。
足が揃っていない。片方の腕が異様に長い。
そして、歩くたびに"カラカラ"と鳴る音。
俺の背筋が凍る。
東和田が震える声で呟く。
「……北海、なのか?」
俺は恐る恐る声をかける。
「北海……?」
しかし、返事はない。
"それ"は、ゆっくりと、カクカクとした動きでこちらへ向かってくる。
まるで、操られているかのような――いや、"壊れかけた人形"のような動きだ。
心臓が嫌な音を立てる。
俺は東和田の腕を掴んだ。
「逃げるぞ。」
東和田が息を呑む。
だが、その時――
"それ"が、一歩、大きく踏み出した。
その瞬間、"ガシャン"と音が鳴り響く。
俺たちは、凍りついた。
"それ"の身体から、何かの破片がこぼれ落ちた。


続く


【あとがき】

最後まで読んでくださった方々、
誠にありがとうございます。

昔見た、「トイレの花子さん」というアニメに出てきた〝トンカラトン〟が忘れられず書き始めました。
最後まで楽しんで頂けたら幸いです。

では次の作品も楽しんで頂けることを、祈ります。
お疲れ様でした。

カナモノユウキ


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