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ボイスドラマシナリオ:「返しますから」

【前書き】

皆様、お疲れ様です。
カナモノさんです。

今回は今年の夏に出したボイスドラマシリーズ「カナモノ堂 這イ寄リシ者」の第六弾、嬉読屋しおんさん主演の「返しますから」のシナリオです。

楽しんで頂けると幸いです。

※コチラを聴きながら楽しむことも出来ます。
 是非、合わせてお楽しみください


【返しますから】

作:カナモノユウキ


〔登場人物〕
・男 
・貴方
※語りは男のみで、貴方のセリフはありません。

大雨の中で雷鳴が轟く。襖を開け男が入ってくる。気配を感じて貴方は起きる。
周囲を見渡すと広い和室が広がり、明かりは無く薄暗い。傍で貴方を見る男、その表情からは感情が感じられない。

お、気が付かれましたか。
貴方ねぇ、ここに来て急に倒れたんですよ。いやぁ~、心配したんですからぁ。
「記憶にない」って、そりゃ参りましたねぇ。
ん?「ここは何処」かって?私が管理する寺ですよ。
え、「貴方は何ですか?」って、随分藪から棒ですねぇ。
私は…まぁこの寺の住職みたいな者です。
…随分質問が多いですねぇ。
「自分がここに来た理由を知っているか?」…ですか、何なんでしょうね。
おやおや、まだ顔色が悪いみたいだ。まだぁ横になっていたほうがいい。
どうしましたか?何、寝れそうにない?
あーそしたら、私が面白い話をして暇を潰してあげましょう。
そんな遠慮なんてしたら勿体ないですよ。こんな話ねぇ、滅多に聞けないんですから。

少し笑ったように見えた男は、静かに語り始めた。

――これは母から聞いた話でね。江戸時代の初期、今は福島に当たる地域にあった村から始まりました。
そこには立派なお寺があり、神に仕える巫女とその家族が居たんです。
そりゃーもう美しい巫女様でね、各国々でも有名で他方から婚約を言い寄られる程だったそうです。
まぁ…有名になった理由は美しさだけじゃあ無かったんですがね。
ある日その巫女の元へ、若い男が訪ねてきました。
良い召し物を着てね、如何にも位の高い身分だと分かる男は巫女へこう言ったそうです。
「私と結婚をしろ。さもなくば、この寺ごと亡き者にする。」と。
相当切羽詰まった様子の男の誘いを、巫女は断り追い返しました。
その男の目的をしっかりと分かっていた。
だからこそ、その誘いは巫女にとって無礼だったんですね。
…ただ、男が欲しがる理由も分かる。
巫女はその地域でも有名な「呪詛師」でもありました。
呪詛師一人いれば、国造りが円滑になるとも言われていたもんでね。
男は有名な名家の人間だったが、騙され落ちぶれ、家柄は地に落ちる寸前だった。
そこで立て直すために、巫女を利用したいと考えた。
巫女はその思惑を見透かしていて、だから男を追い返したんです。
男は自分の家族に啖呵を切って寺へ来た手前、手ぶらで帰れないと焦った。
その夜、男は寺へ忍び込み女をさらい寺に火をつけた。
ゴオゴオと燃え盛る寺の中には、巫女の家族も住んでいましたからね。
巫女は男にさらわれながら、ずーっと何かを唱えていたそうです。

「へまだいろのをことおのこ、よみか。」
「へまだいろのをことおのこ、よみか。」
「へまだいろのをことおのこ、よみか。」


不思議な言葉を放ち続ける巫女を担いだまま、男は家へ辿り着きまして。
その後、男の家は巫女の呪詛と犠牲で栄えていきましてね。
だが繁栄の反面、男は病に蝕まれていったそうです。
…そしてね、話はここからなんです。
なんと寺の生き残りが居たんですね、それも巫女と同じ力を持った妹が。
長い歳月を掛けて、姉より強い力を身に着けた妹は。
齢四十半ばで老人の様に弱った男の前に現れたんです。
そして、巫女が連れ去られた時と同じような呪詛を唱え始めるんです。

「へまだいろのをくぞちいのこ、よみか。」
「へまだいろのをくぞちいのこ、よみか。」
「へまだいろのをくぞちいのこ、よみか。」


男はそれを聞き届けたのち、半年間苦しんで他界しました。
血反吐を吐き、藻掻き足掻き、それはそれは醜く亡くなったそうです。
男を看取った巫女は、高笑いをして全てを見届けたそうですよ。
更にその後、今度は巫女とその妹が男と同じように苦しんで亡くなります。
おかしいですねぇ、何故巫女が男と同じように亡くなったのでしょう。
答えは簡単、巫女も妹も呪われたんです。
巫女は男の家で散々呪詛師として呪いを掛け続けさせられた。
そして、その姿を巫女と男の娘が見続けて来た。
娘は立派な呪詛師に成りましてね。
愛する父上が呪い殺されたのを恨み、自分の母親に父の「忌み返し」をしたんですね。
いやぁ~怖いですねぇ~、呪い呪われの醜い話ですからねぇ。
「その話の何処が面白いんですか?」って。
まぁ話には続きがあるんですよ。
…巫女の呪いも、娘の呪いも、実はまだ続いているんです。
「忌み返し」が脈々とね。
巫女の血筋、男の血筋はまだと絶えずこの時代まで続いていて。
死に方は、皆同じだそうです。
血反吐を吐き、藻掻き足掻き、それはそれは醜く亡くなる。

男の話を聞いているうちに、貴方は徐々に苦しさを感じ始める。

「何故そんな話を聞かせるのか?」って…察しが悪いんですね。
次は、貴方の番なんですから。
さっき私に聞きましたよね?「自分がここに来た理由を知っているか?」って。
死にに来たんです、呪いに導かれてね。
そして、私を殺しに来たんですよ。
「なんで自分が」って、何を被害者ぶっているんですか貴方。
知らないだけで、貴方たちも私たちも続けて来たんです。…もしかしたら、みんなそうかも…。
まぁただ、それだけなんですから。

更に咳き込みが広くなり、直後に吐血が始まり、経験したことのない苦しみが貴方を襲う。

男はそれを見て、ニタリと笑ったように感じた。
あぁ…始まりましたね、さぁ横になっていてください。
「家族の元に帰りたい」ですか?大丈夫ですよ。
私が、ちゃんと…返しますから。

―おしまい―


【あとがき】

最後まで読んでくださった方々、
誠にありがとうございます。

これをnoteに乗せるにあたり、ト書きを追加しましたが実際のシナリオにはト書き追加はせず助六さんの表現のみで仕上がっています。
単純に、ト書きを書かない方が語りやすいかなとも思ってそう書いた経緯があるんですが。

なのでボイスドラマは助六さんの表現力や役者としての力を、遺憾なく発揮して頂けた作品になっていると思います。

個人的には、「どこかで本当に起こっているんではないか?」というヒトコワな感じに読んで頂けたら嬉しく思います。

明日の作品もこの【カナモノ堂 這イ寄リシ者】から、「カナモノユウキ」主演の作品を公開いたします。

では次も楽しんで頂けることを祈ります。
お疲れ様でした。

カナモノユウキ


【おまけ】

横書きが正直苦手な方、僕もです。
宜しければ縦書きのデータご用意したので、そちらもどうぞ。


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