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短編小説:「山茶花が向かう先は白い椿」
【前書き】
皆様、お疲れ様です。
カナモノさんです。
大分お久し振りです。
お久しぶりなので、久々にいい話でも!…と思ったのですが。
中々に暗く陰鬱な話が出来上がりました。
自分なりのサイバーパンクを書いてみたら、予想以上に重く、出すの迷うぐらいでした。
内容は重いですが、楽しんで頂けると幸いです。
【山茶花が向かう先は白い椿】
作:カナモノユウキ
《続いてのニュースです。現在我が国全土で起きている自爆テロ事件の続報です…》
…街の街頭に流れる物騒なニュース、それなのに気にも留めることもないんだな…ここの人間は。
くだらない祭りごとにうつつを抜かして、想像力まで無くなり始めたか…。
開国記念日で賑わいを見せるメトロポリスの中心地。
恐らく五十万人以上の来場者が居るであろうシンボルタワーへ、俺は向かっている。
武装警備ドローンや監視カメラ、あらゆるモノの間を掻い潜り、ジャケットのフードを深くかぶり目的地へ急ぐ。
登録番号AT56623…全身義体兵と呼ばれる存在になってもう十年。
この体になった真価が、今問われる時が来たんだ。
高層ビルの間を抜けてタワーへ潜入。
メインフロアから離れた非常口付近で待機しながら、俺は本部へ連絡を入れる。
「こちらイーグル、現地に到着した。」
【確認した、支持あるまでそこで待機せよ。】
「了解、作戦実行まで戦闘モードを一時解除、セーブモードに移行する。」
…人工筋肉の圧力が緩み、全身の電気信号が先ほどより微弱になっていくのを感じる。
きっと人間で言う〝落ち着く〟と言う状態に近いのだろうか…。
生身の部分は脳のみで、顔も肉体も今は失っているから、感覚が無いに等しい。
顔なんてロボットそのもので、人間の頃の名残なんて一切ない。
唯一、何故か肌身離さず持っているネックレス以外は。
俺は全てを失い、今は反政府組織の兵士として活動している。
この国に不満や不信感を抱いている者は少なくない、俺は今日…そいつらの希望の星として制裁を加えに来た。
そう…〝シンボルタワー爆破からの大量虐殺〟…俺自身の自爆で、世界に意志を伝えるために。
今この体には最新鋭の3F爆弾が組み込まれている。
半径3キロメートルは完全に破壊され、さらに10キロメートル以上の場所は汚染物質で土地すら殺す。
俺たちはこの爆弾を〝汚い椿〟と呼んでいる。
爆弾が咲いた時、小規模ながらも真っ赤な椿の様な爆炎が咲くことからそう名付けられた。
起爆すれば必ず人も…仲間も死ぬ。
汚いかもしれないが、その咲かせる者の意志は美しいと…俺は信じている。
【イーグル、最終ポイントの確認とメモリーチェックをしておけ。】
「了解だが、何故またメモリーチェックを?」
【前回の作戦行動中、スネークが走馬灯を起こし自害した。お前も走馬灯があるかもしれないからな。念のためだ。セキュリティーの関係で起爆はお前自身でしか出来ん。必ず、成功させるんだ。分かったな?】
「了解。」
《走馬灯》…元の人間だったころの記憶が不意に蘇り、体の自由が利かなくなるバグ。
その為、作戦行動前か実行直前には必ずメモリーチェックをしてバグを排除する。
いわば邪魔な過去の記憶を削除することをいう。
――脳内補助AI起動…メモリーチェックヲ開始…レベル…2カラ開始…――
レベル2…これはここの組織に身を置いてからの記憶深度のチェックだ。
いつも日常的に行っているからな、どうと言う事はない。
――異常ナシ…レベルヲ…3ニ以降…――
レベル3はアンドロイドになってからの記憶だ、ここも日常的にチェックしている。
特に異常は無い…
――プロテクトノ掛カッタメモリーヲ発見シマシタ…削除シマスカ?――
プロテクトの掛かった記憶?以前やった時にはそんなモノなかったはず…。
これはもしかして、これからの任務で生じた…俺の…走馬灯?
『プロテクトの解除を。…中身が、知りたい…。』
――了解…プロテクトノ解除ヲ開始…完了…フィードバック開始シマスカ?――
『…イエス。』
――――直後、脳内に鮮明に映し出される映像。
そこには、白い部屋と俺を見つめる女が一人…写し出された。
「…体の具合はどう?」
「大丈夫だベガ、まだ少し違和感があるけどな!」
「そうよね、元々…機械じゃ無かったんだから。」
「でも最新技術の塊だぞ?凄くないか?やっとなれたんだぜ、正義のヒーローに!」
「何言っているのよ…私は…、もう…受け入れられないよ。」
「そうか、残念だ。」
「そうだよ…、なんで…アル…。」
そうだった…俺の名前は、アル…今となっては意味を成さない名前なのに…これが懐かしいという感情か?
…この咽び泣き始める女、このベガという人物は俺の何なのだろうか…。
そして今になって何故…俺のメモリーに?
映像は、これだけか…。
『AI,他に類似するバグは発見できたか?』
――同一ノプロテクトメモリーヲ複数発見…解除シマスカ?…――
『ああ、頼む。』
やけにこの女が気になる…このメモリーは何なんだ。
俺が削除を拒んだ記憶とでも言いたいのか?…今の俺が…過去を?
――――映像が流れ込んでくる…ここは、懐かしいな…昔住んでいたアパートだ…
「なぁ、この花だよな?前にくれた花って。」
「違う。それは椿だよ…それに色は、白じゃなく赤……。」
「そうか。花屋に聞いたらこれじゃないかと言っていたんだが違うのか。」
「…アル、ごめん。…話があるの。」
「何だよ、急に改まって。」
「…その、別れましょう…私たち。」
「は?なんでそんな。」
「…だって、私には耐えられない…。」
「何が耐えられないんだよ…俺が何をしたって言うんだよ!なぁ!」
「…それは…。」
「それは?何だよ!ハッキリ言えよ!」
「あなた、もう人じゃないじゃない…。」
「それがなんだよ、この体のお陰で!ベガも皆も守れるんだぞ!」
「そんなの…私は望んでいなかったわよ…。」
「平和を望んでいただろ!」
「だからって…そんな体になってしまったら…、私にはもうあなたが分からない…。」
「分かってもらわなくたっていいさ。」
…このベガと言う女、恋人だったのか。
俺のこの体を、醜いと…そう感じて別れたということか。
何故そんな考えに至ったのか…、これ以上知ってもコレからのことには関係ないのに…。
『AI、他の記憶もあるんだよな?』
――プロテクトメモリーハ全テデ189個存在シマス…――
『そんなにあるのか…』
――尚…他メモリーヲ解除スル場合…レベルヲ4カラ8マデ閲覧スルコトニナリマス…――
レベル4から8…つまり、俺が人間だった頃の記憶。
そこに、この俺の釈然としない想いの根源があると言うことなのか…。
『…AI、見せてくれ。』
――了解…レベル8カラ4マデヲ閲覧…プロテクトヲ全テ解除…――
いつもは不要と判断していた3以降のメモリーチェック。
それは、しなくてもいいからではなく…もしかして〝してしまわないように〟自分で止めていた?
今の今まで忘れてしまったかのように、自らプロテクトを掛けていたということなのか?
俺が?…いったい何故…。
――――映像には仲睦まじい若者たちの声、今目の前にいるのは…先ほどよりも若いベガだ。
「出来たばっかりのシンボルタワーでデートって、幼馴染にするものかな?恋人とかにしない?普通。」
「いいだろ?ここを離れる前に、一回来たかったんだよ!ベガと一緒にさ。」
「…アルは、やっぱり軍に入隊するんだよね…」
「もちろん、軍に入隊して一人でも多くの人を守れる兵士になるんだ!」
「正義のヒーローってやつ?ホント、子供のころからずーっと言っているよね。」
「夢を追ってこその男だろ?その辺は幼馴染のお前がよーく分かっているじゃないか、ベガ。」
「分かっているけどさ、心配だよ…しばらく会えなくなるし。」
「…なぁベガ、入隊する前に渡したいものがあるんだ。」
「何?改まって…」
「コレ、伝えずに行って後悔したくないからさ。」
「…指輪じゃない、…どうして?」
「付き合ってくれ、ベガ。そして、俺の心の支えでいて欲しいんだ。」
「それ、このタイミングで言う?」
「このタイミングだからこそだろ、戻ってきたいんだ…真っ直ぐ、お前の元へさ。」
「…もちろん、イエスだよ。…ちゃんと戻って来てね、アル。」
――――その後俺は、軍へ入隊。2年の時を経て、彼女の元へ戻った。
そこからは幸せな日々だった…辛い訓練の最中でも、ベガが待っていると思うと乗り越えられた。
休暇になれば、彼女と目いっぱい一緒に過ごして、愛し合った。
その時間の為なら、早起きも辛い訓練も、くそムカつく上官も耐えることが出来た。
彼女も、俺があまり帰れない中で必ず手紙をくれたり、出来る限りの電話を待ってくれていたりして。
辛い日々でも、愛を感じられた。
…そんな最中、ある国が起こした内戦が激化し…多数の国を巻き込んだ戦争が始まった。
自国も例外ではなく、俺もその戦争に駆り出され…最初の戦地で腕を失った。
「いやあ…利き腕じゃなくてよかったよかった。」
「何言っているの!?死にそうだったんだよ!?」
「大丈夫だよ、こんなことで俺は死なないし。ホラ、この新しい腕…カッコいいだろ?」
「義手があるからいいとか!そういう問題じゃないの!…生きていてくれて…良かったけど…。」
「俺は必ず、お前の元に帰るから。安心してくれ、ベガ。」
「……分かったわ、アル。」
――――その後も、戦争は続き。負傷して戻る度に、俺は肉体の至る所を機械に入れ替えて生き存えた。
《義体化手術》…兵士が負傷した際、国から無償で受けられる治療の一つ。
それは治療とは名ばかりの人体実験に他ならない、志願者がそう多いモノではないこの手術の発展のため。
戦地から負傷して帰ってくる我々兵士は…実験体そのものだ。
ある者は目を、ある者は両足を、ある者は内臓を、ある者は腕全体を。
義体化技術は、兵士の犠牲の上ですくすくと育ち。
我が国の義体化技術は、世界一の水準と言われるまでに成長していった。
戦地から三度目の帰省、俺の体は左腕と両足が機械の体に換装され、生身の部分は極端に少なくなっていた。
彼女は…そんな俺を見て泣き崩れた。
「アル、もう…兵士なんてやめてよ。」
「見ろよこの勲章の数…この数こそが、俺がヒーローに近づいている証なんだ。」
「ねぇ聞いて!何でそんな…体を失ってまで戦いに行くの!?」
「…決まっているだろ、この国のヒーローになるためだよ。」
「もう…もう十分じゃない、三度も戦地へ行って…敵兵士を殺して、誇らしげに勲章貰って…。」
「…お前に、お前に何が分かるんだよ!殺しても居ないお前に!何が分るって言うんだよ!
理由なんて告げられずに、ただ場所と敵を教えられて銃を構えて戦場に駆け出して…言われるがまま進み…。
敵が見えれば撃つんだ…歳も性別も関係ない…兵士だろうが、一般人だろうが関係ないんだ。
向こうも必死に銃を構えてくるからな、そりゃ撃ち返すだろ…気づけば一面瓦礫と死体の山。
敵も仲間も…みんな死んで、俺だけ残されるんだ…まるで手向けの様に、体のどっかが持っていかれてな。
…なぁベガ、こんなことして…俺はヒーローになれんのかよ…世界を守るヒーローになれんのかよ!なぁ!」
「アル…ごめん、ごめん…辛かったね。苦しかったね…悔しかったね。…もう戦いたくないんだよね?」
「…ぐっ…うぅ…うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああ!!!」
自分の断末魔が、天井を抜け天にまで届いた気がした。
抱きしめているベガの方が、震えるように見える…彼女も泣いているのか。
――――それからしばらく、戦地への招集命令も無く、平穏な日々が訪れた。
ベガと穏やかに過ごす時間は、どんな時よりも幸福で、これが永遠に続けばいいとさえ願うが…。
重度のPTSDと診断された俺は、自宅での療養を余儀なくされたにすぎず。
時折自分の機械の部分が目に入ると、それだけで戦場で感じた憎悪や恐怖がフィードバックして。
肉体の制御が利かなくなる…そうして、何度もベガを危険な目に合わせてしまった…。
もう、俺は人としてダメなんだろうか…。…俺は、人間だよ…な。
そんな根の深い暗闇が自分を包んだころ、また…戦地への招集が掛かった。
次の場所は、今回の戦争の中心とされる首都の制圧、生き残る確率は…極めて低かった。
――――「ここは…どこだ?」
只の暗闇が広がり、微かに人の話し声や何か外の音だけが聞こえる…
「ここは病室で、私はここの医者です。貴方は今戦地から戻り治療を受けている状態なんですよ。」
「…あの、戦争は…どうなったんですか?兵士の皆は?」
「戦争は、あなた達のお陰で終戦間近まで来ているそうです。…そして、生き残った兵士の皆様は……」
「……もういい、分かったよ。」
「生き残ったのは、貴方を含めた数名。そして、全員肉体を酷く損傷していまして…」
「……俺の体は、今何処とどこが残っているんだ?」
「…それは…」
医者が気まずそうに伝えてきた内容は、主に胴体が辛うじて残っている状態であり。
目はつぶれ、顔面はガラスの破片で傷まみれ。
そして…残っていた右腕までもが、無くなっていた。
「あなたに残された道は二つです、辛うじて残った肉体をベースに義体化手術を行うか…あとは…」
「…全身、義体……」
「…ハイ。幸いにも脳は無傷です、アルさんの場合…全身義体との適合率も問題ないでしょう。」
「でも、戦争は終わるんだろう?そんなサイボーグになっても意味ないだろ…」
「…ここだけの話ですが、新たな敵国が戦争を仕掛けようと動いているとの情報があったんです。」
「この国に、敵が攻めてくる?」
「上層部からはその様に…それに備えて全身義体兵の準備を進めろとも、話が来たのです。」
「……なら、黙って全身義体にでもなんでもすればいいだろ…何でそんなこと俺に話した?」
「アルさんには、選んでほしかった。…私は貴方の施術を最初から担当させてもらっています。
貴方の愛する人の存在も…知っています。戦争で肉体を失うたびに、苦しんでいた姿も、知っています。
だから…私はこれ以上、貴方を苦しめたくはない…。だから選んで欲しい、愛する人の元で人生を歩むか。
貴方が愛する人に語っていた、ヒーローになる道を歩むか…。」
医者の熱い言葉が、胸を締め付ける…。
しかし、あの光景に…ベガを巻き込みたくはない…。
……選ぶ道は、一つだ。
――――全身義体の手術直前…ベガが病室に来た。
「…アル。」
「よぉ、ベガ。…元気か?」
「普通に会話なんて…やめてよ、もう…。」
「なんか、いい匂いするな。花のニオイか?」
「うん…山茶花って言うんだって、花屋さんに進められて…」
「山茶花か、うん…俺この匂い好きだな。なんかずっと嗅いでられそう。」
「この花の花言葉がね、今の貴方にピッタリだなって思って。」
「どんな花言葉なんだ?」
「……〝困難に打ち勝つ〟…これから受ける手術、凄く難しい手術なんでしょ?」
「……あぁ、俺なら大丈夫だよ。四度も戦地から帰ってきた男だぜ?こんな戦い、朝飯前さ。」
「…待っているから、戻って来てね。」
首元に、何かを掛けられたような感覚がある。
「…それ、あの時の指輪…戻ってきたら、私に告白したあの場所で…私に帰して。」
「…分かった、約束する。ありがとう、ベガ。」
鼻をすするような音が微かに聞こえたあとベガは部屋を後にし、入れ違いに医者が入ってきた。
「アルさん、ご気分は如何ですか?」
「悪くない…これなら、大丈夫そうだ。」
「…ベガさんには、お伝えしなくていいのですか?今回の手術が、全身義体手術だという件…」
「ベガはきっと反対する…、だから…このままでいい。」
「脳を義体に移すにあたり、記憶や性格に欠落や変化が起こる可能性が高い…それはお伝えするべきかと…。」
「いいんだ、それは…。俺は、変わらない俺を信じる。」
「…分かりました。では明日、全身義体への換装手術を開始いたします。それまで…お休みください。」
一人になった病室で、咽び泣く自分の声が…聞こえた。
――――これが、人としての最後の記憶なのだろう。
その後のことは把握している…全身義体への換装を終えて程なくして俺はベガと別れた。
他の全身義体兵と共に五度目の戦地へ招集され。
敵国の兵を皆殺しにするために用意した体、その性能は兵器そのものだった。
銃弾を食らっても弾き返す金属の体、握力は人間の肉体なんて豆腐の様に破壊できるパワーを有し。
脚力は時速40キロを超え、聴覚・視力はあらゆる状況に対応できる。
体の制御を生身の脳とAIチップで行うことにより、緻密なミッションもこなせる。
エネルギーは電気、体内生成で蓄積もでき24時間フルで活動できる。
寝ることも、食べることも不要。
正に最強の兵士。
…だがそれが仇となった。
実際は最強の兵士なんて聴こえのいいモノじゃない…殺戮マシーンとなった俺は多くの敵を倒し、国に勝利を収めた。
だが国はそんな全身義体兵が友好条約を結んだ国から脅威と感じられていることを知ると態度を一変。
放棄法案を可決…つまり俺たちに死ねと言ってきた。
俺たち全身義体兵の一部は脳しかなく、国はそんな者たちを人間とは認めないと言う理由をこじつけし。
事実上の死亡宣告まで行った…家族や身内が居た者たちには、都合のいいデマが流されたことだろう。
俺たちは戦地に閉じ込められ、処分されそうになった。
義体制御のAIチップに組み込まれた自害プログラムによって…。
しかし、俺を含めた数体の者は誤作動を起こしプログラムが機能せず。
戦地から逃走、祖国に戻るも居場所はなく…俺たちに目を付けた反政府組織に拾われ…今に至る。
それから、もう十年…今更こんなことを思い出しても…俺はもう…。
俺は…俺なんか…、クッソ!クソ!なんで!なんで寄りによって今なんだ!
そうだ…この場所は、ベガとの約束の場所。
そういうことか…そういう事なんだな、アル…。
――プロテクトノ掛カッタメモリーノ閲覧完了…削除シマスカ?――
『…削除は…』
【イーグル!おい!聞こえているか!?イーグル!】
「は、はい。こちらイーグル。」
【何をボサッとしている!大広間にターゲットが来たぞ!いよいよだぞ!早く位置に着け!】
「…了解。」
そうだ、任務だ。…俺は希望の星、この国に裏切られた者達のヒーローになるんだ!
シンボルタワーのエントランス、大きな舞台が用意され、そこを大勢の人間が囲んでいる…。
ドローンや警備の人間に悟られないように…慎重に近づく。
周囲には、子供の姿…カップル…年寄り…この国の人間じゃない者も居るな。
ありとあらゆる人が…この国のリーダーを見に来たのか、この人殺しを…この…この人でなしを!
何故だ!何故こんな奴が!……なんで…なんで……。
…なんだ。…あそこの女だけ、違う方向を向いて…いる?
見覚えがある…あの背格好に、凛々しい顔は…間違いない。
あれは…ベガだ。
…ここに、ベガが居る!何だこの感情は…どうすればいい…、落ち着かない!
落ち着けない!脳の制御が利かない…。
いや、しっかりしろアル!
俺は…俺は…、彼女の…彼女の!
ヒーローに…いや、今はもう違う!
この国を壊すための…壊すための!その為に!
自分を…犠牲に!
俺は…自分を犠牲にしたいのか?
それが、俺が求める…ヒーロー?
「俺は、何になりたかったんだ?」
ベガに近づく、男…アレは…俺の手術を担当した…医者だ。
それに…あれは…子供か。
…そうか、そうか…ベガは今…幸せなのか。
そうか。
もう、ヒーローじゃなくても…いいのか。
……疲れたな。
【おい!どうした!早く位置に着け!どうしたイーグル!】
「俺は、イーグルでも、AT56623でもありません。…アル。アルタイル・リースだ。」
俺は、自分の胸目掛けて手をねじ込んだ。
オイルや冷却水まみれの手を引き抜いた時、握られていたモノは…汚いとは名ばかりの白い筒に入った椿。
ダストボックスに椿を放り投げ、馬鹿なお前たちでも分かりやすいように…場所を教えてやる。
「おい!おい!おい!この国のリーダー様が廃棄した全身義体兵がうろついているぞぉ!おかしいねぇ!
俺たちは破棄されたんじゃなかったのかぁ!?あぁ!?こんなところでお国の開国したお祝いの日によぉ!
居ちゃいけないんじゃないんですかねぇ!だってよぉ!人を殺しちゃうかもなぁ!殺すために造られたからぁ!
あー!誰でもいいから殺したくなってきたなぁ!だってそうお国のリーダー様が指示して作ったからさぁ!
この場所で!この大勢の人間をぉ!ぶち殺したくなってきたなぁ!本当はぁ!ヒーローになりたかったからさぁ!
そんなことしたくなかったけど!そう造られたなら仕方ないよなぁ!人を守れると思って志願して!
実験動物扱いされながら!ヘラヘラヘラヘラ安全圏で苦しみもしねぇで高みの見物決め込んでいる奴らおよぉ!
ぶち殺したくなってきたなぁ!こんな体になったらさぁ!そんなことしか出来ないからさぁ!
愛する人を…愛する人おぉ!悲しませることしか出来ないからさぁ!なぁ!そうだろ!?俺はさぁ!俺は…
ただ!彼女の為のぉ!ヒーローにぃ!!!!!」
―瞬間、周囲から人は消えていた。警備ドローンのレーザーがコレでもかと飛び交った…。
……おい、最後まで、言わせてくれよ…。
なぁ、ベガ…花…間違えて…ごめんな。…山茶花…ちゃんと、見たかったな……。
あぁ……ベガ、そんな目で…見るなよ…ベガ。…あっ…指輪、返せなかった……な。
《続いてのニュースです。先日、開国記念日で起きた全身義体兵テロ未遂事件の続報です。犯人の兵士は犯行直前に胸から特殊な爆弾をダストボックスに投げ、自爆テロを仕掛けようとしたと考えられております。目的は不明で、現在起きている自爆テロとの関連性と共に捜査を進めている様です。続いてのニュースです…》
【あとがき】
最後まで読んでくださった方々、
誠にありがとうございます。
書きながら、大好きな「銃夢」や「AKIRA」といったサイバーパンクな物語を想像しておりました。
突拍子もなくそんなサイバーパンク愛を盛り込んだ話を書いてみたのですが、思いの外重たくなりましたな。
信じた思いは歪み、道を踏み外し、精神まで闇に堕ちていく。
でも、主人公は間違いなどは無く。
ただ信じた世界の流れに裏切られただけ。
……うん、重い。
重た過ぎたね。
次は、軽いの書こう笑
では次の作品も楽しんで頂けることを、祈ります。
お疲れ様でした。
カナモノユウキ
【おまけ】
横書きが正直苦手な方、僕もです。
宜しければ縦書きのデータご用意したので、そちらもどうぞ。
【準備中】
《作品利用について》
・もしもこちらの作品を読んで「朗読したい」「使いたい」
そう思っていただける方が居ましたら喜んで「どうぞ」と言います。
ただ〝お願いごと〟が3つほどございます。
ご使用の際はメール又はコメントなどでお知らせください。
※事前報告、お願いいたします。配信アプリなどで利用の際は【#カナモノさん】とタグをつけて頂きますようお願いいたします。
自作での発信とするのはおやめ下さい。
尚、一人称や日付の変更などは構いません。
内容変更の際はメールでのご相談お願いいたします。