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「トンと喚けばカラの体がトンと啼く」#01
【前書き】
皆様、お疲れ様です。
カナモノさんです。
ふつふつと書いていた短編小説のお披露目です。
少しの間でも、お楽しみ頂けていることを願います。
【トンと喚けばカラの体がトンと啼く】
作:カナモノユウキ
登場人物紹介
◆ 西林(にしばやし) ― フリーライター、都市伝説「トンカラトン」を追う。
◆ 東和田(とうわだ) ― 怪談専門の記者、西林と共に調査を進める。
◆ 北海(きたうみ) ― 民俗学者、「トンカラトン」の噂を独自に調査していた。
◆ 南森(みなみもり) ― 地元の警官、製薬会社と関わりを持つ。
◆ 秋月製薬(あきづきせいやく) ― 頓殻病を極秘研究している製薬会社。
◆ 榊(さかき) ― 元・秋月製薬の研究員、過去の実験を知る。
◆ 北海の母親 ― 息子を探し続ける。
◆ 篠崎(しのざき) ― 村の住人、「トンカラトン」の噂に詳しい。
◆ 松浦武三郎(まつうらたけさぶろう) ― アイヌの伝承を記録した歴史上の人物。
【プロローグ:トンと喚けば、カラの体がトンと啼く】
夜の街は静まり返り、部屋の隅でスマホが青白く光る。
ニュースアプリの見出しが目に入った。
「トンカラトン、再び? 包帯姿の怪人、目撃情報相次ぐ」
……トンカラトン。
久しぶりにその名前を見た気がする。
頭の奥が鈍く疼いた。
記憶の底に沈んでいた、子どもの頃の出来事が蘇る。
――小学生の頃、夏休みの夜になると、決まって篠崎の家に集まっていた。
お決まりの流れは、駄菓子屋で菓子を買い、公園でくだらない話をすること。
だがその夜、篠崎が妙に得意げな顔をして言った。
「お前ら、トンカラトンって知ってるか?」
東和田がアイスの棒をくわえながら首を傾げる。
「なんだそれ、妖怪か?」
「違う。深夜に“トン、カラ、トン”って3回唱えると、包帯姿の幽霊が出てくるらしい。」
怪談好きの篠崎が持ち込む話は、いつも大げさだった。
しかし、その夜の彼は妙に真剣だった気がする。
「なあ、試してみようぜ。」
俺たちは夜の公園に向かった。
街灯が遠くにあるだけで、遊具の影は真っ黒に沈んでいる。
「よし、やるぞ。」
篠崎が先陣を切る。
俺と東和田は、それに続いた。
「トン、カラ、トン……」
静寂が広がる。
公園はさっきと何も変わらない。
「やっぱデマじゃん。」
東和田が笑いながら言った、そのとき。
カラ……カラ……カラ……
乾いた音が響いた。
最初は遠く、徐々に近づいてくる。
「風の音か?」
東和田が辺りを見回す。
だが、風はない。
ブランコが揺れていた。
俺たちは顔を見合わせる。
「……後ろ、振り返るなよ。」
篠崎の声が震えた。
その瞬間、東和田が振り向いた。
「おい!」
俺も反射的に後ろを向いてしまう。
だが――何もいなかった。
安心したように東和田が笑う。
「ほら、やっぱ何もいねえよ。」
……なのに、篠崎だけが顔をこわばらせていた。
「帰ろうぜ。」
俺たちは公園を後にした。
しかし、篠崎の足取りだけが重かった。
「なあ……さっき、何かいたのか?」
俺が聞くと、篠崎は口をつぐんだまま、首を横に振った。
その夜の帰り道、俺たちはずっと無言だった。
――あの夜の出来事は、ただの遊びだったのか?
スマホの画面には、トンカラトンの目撃情報が並んでいた。
「包帯姿の怪人が、深夜にカラカラと音を鳴らしながら歩いていた。」
"トン、カラ、トン"と喚いたあの夜。
俺たちは――"何か"を呼び寄せてしまったのではないか?
続く
【あとがき】
最後まで読んでくださった方々、
誠にありがとうございます。
昔見た、「トイレの花子さん」というアニメに出てきた〝トンカラトン〟が忘れられず書き始めました。
最後まで楽しんで頂けたら幸いです。
では次の作品も楽しんで頂けることを、祈ります。
お疲れ様でした。
カナモノユウキ
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