見出し画像

「トンと喚けばカラの体がトンと啼く」#06

【前書き】

皆様、お疲れ様です。
カナモノさんです。

ふつふつと書いていた短編小説のお披露目です。

少しの間でも、お楽しみ頂けていることを願います。


【トンと喚けばカラの体がトンと啼く】

作:カナモノユウキ


登場人物紹介
◆ 西林(にしばやし) ― フリーライター、都市伝説「トンカラトン」を追う。
◆ 東和田(とうわだ) ― 怪談専門の記者、西林と共に調査を進める。
◆ 北海(きたうみ) ― 民俗学者、「トンカラトン」の噂を独自に調査していた。
◆ 南森(みなみもり) ― 地元の警官、製薬会社と関わりを持つ。
◆ 秋月製薬(あきづきせいやく) ― 頓殻病を極秘研究している製薬会社。
◆ 榊(さかき) ― 元・秋月製薬の研究員、過去の実験を知る。
◆ 北海の母親 ― 息子を探し続ける。
◆ 篠崎(しのざき) ― 村の住人、「トンカラトン」の噂に詳しい。
◆ 松浦武三郎(まつうらたけさぶろう) ― アイヌの伝承を記録した歴史上の人物。


【エピローグ:語りの果て】

数日後。
西林と東和田は、秋月製薬の研究施設の前に立っていた。
門は閉ざされ、敷地内に人影はない。
『秋月製薬、特定事業の即時中止を発表』
『関係者の証言なし。幹部は沈黙』
「……終わったのか?」
東和田が新聞を見ながら呟いた。
「いや……表向きには、な。」
西林は、施設の門の向こうを見つめた。
沈黙する企業。それは、真相が闇に葬られたことを意味するのか、それとも……。
「これで、本当に終わりか?」
東和田が疑問を口にする。
しかし、西林はそれに答えなかった。
どんなに情報を隠しても、噂は消えない。
二人は南森の家を訪れた。
だが、そこには何の痕跡もなかった。
「南森も……いなくなったのか?」
西林は、リビングの机に置かれた書類に目を留めた。
そこには、一つの手書きのメモが添えられていた。
『管理する者も、管理される側に回る時が来る。
 伝承に触れるな。
 ……お前たちは、生きろ。』
西林は、静かにメモを折り畳んだ。
「南森は……"語り手"になったのか?」
「それとも、消されたのか?」
東和田が息を呑む。
「知りすぎた者が、また一人……」
二人は言葉を失い、南森の家を後にした。
その夜。
西林と東和田は、篠崎の家へ向かった。
家の中は荒れ果て、家具が散乱していた。
「ここで何が……?」
西林は、奥の部屋へ進んだ。
そして、机の上にあるスマホを見つける。
「篠崎のスマホ……」
画面には、音声メモが残されていた。
篠崎の最後の記録
「……北海と話をした。」
その一言で、二人の呼吸が止まる。
「北海……?」
篠崎の声は震えていた。
「彼は……"まだここにいる"と言った。
 彼は語り続けている。
 そして……
 俺も、もうすぐ……」
「カラカラ……」
音声が途切れる。
沈黙が流れた。
西林は、スマホを手に取ったまま固まる。
「篠崎は……北海と"話した"?」
「じゃあ……北海は"消えていなかった"のか?」
二人は顔を見合わせた。
その時――
カラカラ……カラカラ……
どこからか、微かな音が聞こえた。
翌日、東和田は西林の前でコーヒーを飲みながら、言った。
「俺は、もうやめる。」
西林は驚き、目を細めた。
「……どういうことだ?」
「俺はもう、この話を語らない。」
東和田は、静かにカップを置いた。
「"語ることが続けること"なら、俺はここで終わりにする。」
「……忘れるのか?」
「そうだ。これ以上関われば、俺も語り手になる。」
東和田は、立ち上がった。
「お前も、もうやめろ。」
「……」
西林は、返事をしなかった。
数日後。
東和田は、カフェの片隅でコーヒーを飲みながら、スマホを見つめていた。
西林と最後に会った日から、連絡が途絶えていた。
西林が消えた。
「まさか……?」
東和田は、手を震わせながらスマホを開く。
そこには――
未読のメッセージが一通、残されていた。
西林:
『俺は、語る。
 俺は、まだここにいる。
 俺は、ここにいる。
 俺は……』

東和田は、言葉を失った。
その瞬間、スマホが震えた。

発信者:西林

彼は、恐る恐る通話ボタンを押した。
「……カラカラ……」
スピーカー越しに響く音。
静かに、乾いた声が聞こえた。
「お前が、語れば……続く。」
通話は、切れた。
東和田は、スマホを握りしめたまま動けなかった。
西林は、もういない。
だが、彼は「語っている」。
それは、北海や篠崎と同じ道を辿ったということか。
いや、違う。
西林は――
「……語り手になったのか?」
東和田の手が震える。
彼は、もうこの話を口にしないと決めていた。
だが。
だが――
耳の奥で、カラカラと音が鳴った。


続く


【あとがき】

最後まで読んでくださった方々、
誠にありがとうございます。

昔見た、「トイレの花子さん」というアニメに出てきた〝トンカラトン〟が忘れられず書き始めました。
最後まで楽しんで頂けたら幸いです。

では次の作品も楽しんで頂けることを、祈ります。
お疲れ様でした。

カナモノユウキ


《作品利用について》

・もしもこちらの作品を読んで「朗読したい」「使いたい」
 そう思っていただける方が居ましたら喜んで「どうぞ」と言います。
 ただ〝お願いごと〟が3つほどございます。

  1. ご使用の際はメール又はコメントなどでお知らせください。
    ※事前報告、お願いいたします。

  2. 配信アプリなどで利用の際は【#カナモノさん】とタグをつけて頂きますようお願いいたします。

  3. 自作での発信とするのはおやめ下さい。

尚、一人称や日付の変更などは構いません。
内容変更の際はメールでのご相談お願いいたします。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集