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ショートショート:「お姫様抱っこがしたい。」



【前書き】

皆様、お疲れ様です。
カナモノです。

お題を頂きました、まんまです。
〝お姫様抱っこ〟というお題でした。

少しの間でも、誰かに寄り添えることを願います。


【お姫様抱っこがしたい。】

作:カナモノユウキ


《登場人物》
・野崎
脳筋でスポーツマン、営業成績優秀で社内外からモテているが他人に興味が無いので恋愛経験はゼロ。
・小田原
何事も平均点な男、友達想いで何かと世話焼き。

職場での休憩時間に、親友というより腐れ縁に近い相手、野崎がこんなことを言い出した。

「なぁ、小田原。お姫様抱っこさせて?」
「…お前何言ってんの?」
「いいから、やらせろって。」
「変な意味に聞こえるから嫌だよ…つかなんで男同士でやるんだよ。」
「今お前しかいないし大丈夫だよ、投げたりしないから。」
「そう言うこと言ってんじゃないんだよ。お姫様抱っこって言ったら、普通異性とだろって言ってんだよ。」
「いいじゃん異性だろうが異星人だろうが、お姫様抱っこやらせろよ!ホレ!」

という野崎の申し出で、渋々お姫様抱っこされてみた。

「…どうだ?満足か?」
「なんかさぁ…、なんか違うなぁ…。」
「だったら降ろせ、即座に降ろせ!」
「あぁ、すまん…よいしょっと…あれぇ?なんでだろう…。」
「なぁ、お前変だぞ?何かあったのか?」
「いや、実はさ…最近お姫様だこしたんだよ。」
「は?」
…って思わず怒りがこみ上げたが、グッと堪えて、俺は野崎のその理由とやらを聞くことにした。

そもそもこの野崎という男は、幼稚園から今まで脳筋で、難しいことを一切考えられない奴だった。
小学校ではサッカー部で「蹴る」ことを覚えて、中学で野球部に入り「投げる」ことを覚えた。
だがしかし、野崎は変な奴で「何かやることでしか物事を覚えられない」を極めた奴なのだ。
だから、読み書きはほぼ無意味。授業で教わったことはほとんど覚えることなど出来ず。
実技で全てを補うザ・スポーツマンだからだった。だからだろうか…。

「つまり、倒れかけた女性をお姫様抱っこした時に不思議な感覚が芽生えたと?」
「そうなんだよ、何かこうさ…ビビビッって電気が走ったような!胸が時限爆弾になったつうか!」
「あぁ…それはまさしく恋…だな。」
「〝コイ〟って、なんだ?あ、池に泳いでる魚か?」
「お前マジか…恋だよ恋、恋愛だよ。え?まさか、お前ここまで生きて来て恋知らないの?」

何となくずっと一緒に居て、コイツの特性は知っていても色んな意味で知らないことも多かったとはな…。

「知らねーよ。てか大事なのか?その恋って。」
「生きる上で大事な感情と言うか…とりあえず大事な何かだよ。」
「そうか…じゃあ!とりあえず、片っ端からお姫様抱っこしまくってそのコイって奴を覚えてやる!」
「やめとけ…それはただの変態だ。」
「変態じゃない!知らんから確認したいだけだ!」
「それが変態だって言ってんだよ!…とりあえず、お姫様抱っこする相手は考えろ。」
「じゃあもう一回やらせて。」
「絶対嫌だ。」

と言う訳でだ、野崎がこのまま〝恋〟を知らないのは…腐れ縁の俺からしても心配だ。
だからとりあえず持てるコネクション全てを利用してコンパをしまくった。
そして、どさくさ紛れに野崎のお姫様抱っこをコーナー化して確かめさせた。
酒の勢いもあるが、がたいも良くイケメンの野崎だからこそ成しえる特別コーナーは大絶賛。
しばらくコンパと言えば野崎のお姫様抱っこと言われる程の人気を博した…が、特に意味はなかった。

「…俺って何のためにあんなにお姫様抱っこしてたの?」
「いや…まぁいいだろ?なんか異様に盛り上がったし、お前の人気も上がったし。」
「そんなことより、〝恋〟ってなんなのかだよ!その為のお姫様抱っこなんだろ?」
「いや、そうだったんだけど。お前が全然ビビビッてならないんだろ?」
「ならないし、ただ飲み会で筋トレしてただけじゃん俺。」
「結果な!結果そうなっちゃったんだけど…そうじゃないんだよ…目的はな。」
「何だったんだろうな…あのビビビはさ。」
「つかさ、野崎お前異性に興味ないの?あんだけ気に入られていて、誰も気にならなかったの?」
「うん?うん…まったく興味ないわ。女にも男にも昔から興味沸かないんだよな~。」

そうだった…コイツ女どころか男にも狙われるんだった、それなのに完全に興味がないからか。
アピールも何もかも全部スルー、強いて言えば一度デートしてる女の子が居たぐらいだったな…。

「なあ小田原、別の作戦なんかない?」
「え?そうだな…あ、お前あの変な特技まだ出来る?持ったモノの体重分かるあの特技!」
「あぁ、イケるよ!筋トレの時とかに意外と役に立つんだよ!」
「いやそうじゃなくて、その特技を口実に街中でお姫様抱っこしてみよう!」
「え!?それやったら変態なんだろ!?」
「大丈夫だよ!ユーチューバーとか名乗っておけばいいんだから。あ!俺カメラまわすよ!」
「おお!お前やっぱ頭いいな!」

…二人とも、この時自分たちがバカだと言う事には全く気付かず休みの日に街中で作戦を決行。
カメラと手持ちのホワイトボードを用意して、男女問わずにお姫様抱っこをしては体重を書いた。
的中率は驚異の95%…こいつ特殊工作員でもできるんじゃないか?

「俺この特技こんなに生かせるの生まれて初めてだよ!」
「良かったな…んで?ビビビは?」
「え?あ、ない!」
「バカ垂れ!お前途中から体重当てゲームに熱中して目的忘れてたろ!」
「あ、ごめん!忘れてた!」

言っていたのも束の間…警察に職質された。
そして流れる様に厳重注意と身元確認の為、会社へと連絡が入り…。

「つー訳で、謹慎一週間かぁああああああああ!」

「あんまり目立ってなかったと思うけどな?」
「お前、自分の身なり自覚した方がいいぞ?言いたかないけどカッコいいから、お前。」
「何だよ、褒めても何も出ないぞ?」
「この場合皮肉で言ってんだよ!ったく…ユーチューバー作戦は大失敗だよ。」
「…俺別に恋なんて知らなくていいかな…。」
「何だよその台詞、フラれた奴みたいじゃん。」
「一回フラれてんだよ、俺。」
「…え?…ん!?え!?はい!?」
「ほら、高二の時デートした子いるじゃん。何かさ、デートしたら告白もしろって雑誌に書いてて。」
「なんて無責任なこと書くんだよその雑誌。」
「それで、誘われたのは俺だから礼儀として告白したら…馬鹿にすんなって。」
「好きでもないのに告白したってこと?」
「そう言う事だな…。」
「バカ垂れ過ぎるわ!いいか?告白って言うのはな、そのお前が今知りたいビビビがあって成り立つんだよ。」
「ビビビが無きゃダメなのか?」
「駄目に決まってんだろ!恋だぞ!恋!言わば相手への興味があってこその必殺技よ!」
「じゃあ、俺の必殺技は…駄目だったのか…。」
「いやまぁ…そうじゃないけどよ、ビビビが無かったんだろ?」
「無かった…何にも無かったんだよなぁ、興味も無かったし…。」
「それはやっぱ駄目だぞ野崎、絶対やったらダメなことだと覚えとけ。…これは覚えられそうか?」
「うん、痛いから覚えた。」
「よし…んでだ、ビビビは年齢が増すと少しだが鈍くなる人も居る。」
「そうなのか!?昨日読んだ雑誌に恋愛には年齢も性別も関係ないって書いてあったぞ?」
「スゲー偏った意見の雑誌読んでない?…そうかも知れないけどな、それでも年齢は関係ある…と思う。」
「そうなのか…だとしてもだ、じゃあ…どうすればいいんだ?」
「……そうだな、とりあえず。」
「とりあえず?」
「散歩するか!」

と言って、謹慎中ではあるが近所はグレーゾーンと言い聞かせ外に出た。
そもそも家も近所で、就職先も偶然被ったコイツの面倒を…なんで三十路手前まで見ているのか。
それはコイツが純粋無垢で、端的に言えばすれていないからだ。

「なあ!あの雲!五丁目の肉屋の田中さんみたいな顔だな!」
「独特過ぎて分かんない…って本当だ!雲なのに田中さんにそっくりだ!」

急にこんなことを言えるヤツ、他に居ないだろ?

「雲はいいな…眺めてるだけで気分が落ち着くよ。」
「すげーな、呑気なセリフ第一位だわ。」
「呑気は言い過ぎじゃないか?俺はさ…雲みたいにでっかい男で居たいんだよ。」
「大丈夫だ、世の中は190センチある男をでっかい男と呼んでいるからな。」
「じゃあ、俺はもうなりたい自分になっていたんだなぁ~。」

良く社会人になれたなと思う発言ばかりだが、案外コイツは努力家で。
勉強も走りながら単語を覚えたり、筋トレしながら数学したりと、自分なりの見つけ方で解決していた。
そうして大学も会社も、全て自分の力でモノにしてきた。

「お前のそういうとこ、嫌いじゃないよ。」
「え?何が?」

その時だった、目の前の石の階段で女性が倒れそうになっていた。
「あ!危ない!」
咄嗟に動いた野崎が、姿勢を崩した女性を助けた。
「大丈夫ですか?ってあぁあああああああああああ!」
「ど、どうした!?」
「きた!ビビビがキタ!!!!」

助けた女性も俺も、目を丸くして野崎を見ていた。

…というか、もっと驚くべきことがあった。

「いやぁ、この前助けた子をまた助けるとは!」
「すごいな…同じ場所に同じ人を助けて、更にその子は耳が聞こえないから喋れないと…。」
「一歩間違えていたら危なかったよな!」
「何かさ…運命っぽいよな、その出会い。」
「え?何で?」
「だって、ビビビの相手…もし耳が聞こえていたらまだ探す手段多かったかもだけど。その状況なら再会するのだって怪しかったぞ?」
「あ、そうか。聞いて回ることも出来ないからか!…確かに運命っぽいな。」
「だろ?…何か、お前っぽいな。」
「運命ぽいのが?」
「うん、何かそれぐらいでもしないと…神様がお前は恋愛を学べないからって手を差し向けた気がするわ。」
「何か嬉しいんだか何だかだな。」
「で?美咲ちゃんとは?連絡取りあってるの?」
「それがさ…デート誘われた。」
「え!?マジか!」
「マジマジ…。いや、どうしよう…これはさ…告白すべき?」
「すべきだろ!だって…ビビビがあるんだろ?」
「めっちゃビビビってる。」
「ならもうそれは…告白あるのみだ。」
「俺、前みたいに失敗しないかな?」
「大丈夫だ、お前のビビビを信じろ。」
「…分かった、信じる。」
「…野崎とこんな会話ができるとはな、生きていてよかったわ。」
「俺も、自分が恋するとは思はなかった。」
「何言ってんだよ、神様が仕組むほどの恋だし。今思えばお前がお姫様抱っこしたがったことも不思議だわ。」
「何でだよ。」
「人間関係にも興味が無く、楽しく生きることに全力だったお前が。お姫様抱っこがしたいと言ったんだぞ?これはさ…お前が〝恋〟を無意識にしたかったってことなんじゃないの?」
「…そうかもな。あ!でも、小田原は一つ間違っているぞ。」
「何をだよ。」
「俺は、お前への興味はずっとあったからな!」
「…この流れでそれは、お前変な意味に聞こえるぞ。」
「違う違う!お前にビビビとかじゃないけどさ。なんつーか、いつもありがとう!」
「ふっ…今更何言ってんだよ。親友だろ。」
「へっ!そうだな!」


…運命というもんがあるのか俺は知らないけど。
野崎のこの恋の始まりを目の当たりにして、「あ~、あるのかもな。」って思うようになった。
そして、そんな運命の恋の行く末は…。

「小田原!彼女出来た!!!!!」
「やったなぁ!!!!!!」

何てことない、とっても幸せな結末からはじまり、それは長く続くことになった。
自分の親友が、お姫様抱っこをしたがったら。
それは、運命がさっさと恋をしろって言っているのかもしれない。
そんなことを、今日は…野崎の結婚式のスピーチで、言おうと思う。


【あとがき】

最後まで読んでくださった方々、
誠にありがとうございます。

こんな友達、欲しいなって思いました。

では次の作品も楽しんで頂けることを、祈ります。
お疲れ様でした。

カナモノユウキ


【おまけ】

横書きが正直苦手な方、僕もです。
宜しければ縦書きのデータご用意したので、そちらもどうぞ。


《作品利用について》

・もしもこちらの作品を読んで「朗読したい」「使いたい」
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 ただ〝お願いごと〟が3つほどございます。

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