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ショートショート:「ママ&母&マミーと僕」

【前書き】

皆様、お疲れ様です。
カナモノさんです。

今回は古い付き合いで「くらげふぁくとりー」の相方でもある嬉読屋しおんさんのスタエフ三周年記念作品となります。

楽しんで頂けると幸いです。


【ママ&母&マミーと僕】

作:カナモノユウキ


〔登場人物〕
・立花勇誠(たちばなゆうせい)二十歳
父親とずっと二人暮らしだった。真面目で器用なタイプ。

・横峯富美加(よこみねふみか)五十歳
料理が得意で福祉施設で配膳などをしている。愛嬌があり面倒見のいいタイプ。

・七瀬朋美(ななせともみ)四十九歳
自由業で占いやウェブデザインなどで稼いでいる。真面目で現実的なタイプ。

・浦部陽子(うらべようこ)五十五歳
沖縄のスナックで働いていた。ノリが外人の様に明るく、熱血な部分もある。



―――父親が五十八歳で亡くなって、もう一か月が立とうとしてる。
大学にも足が向かず、ただ怠惰な時間が過ぎていく。
正直別に悲しんでいる訳でもないけど、何だか心に穴が開いたようで。
母親もいない、親父とずっと二人っきりで暮らしてきて初めて一人になる。
そんな状況だからまだ、受け止めきれてないのかな…親父が死んだこと。
見慣れている築年数の古い木造建ての一軒家が、やけに広く感じるのも…そのせいかも知れない。
そんなことを、今日も八畳の居間でダラダラと考えていた時だった。
訪ねてくる予定もないこの家の玄関が勝手に開いたのだ。
「え?…誰?」
「おじゃまするよー。あらららら、廊下からもう変な臭いしてるじゃない。」
声の主は玄関から真っ直ぐ何処かに向かった様で、僕も慌てて音の向かった方に行く。
すると、葬式で見覚えのある、如何にも主婦って感じの女性が、ビニール袋から食材を取り出していた。
「あら勇誠、大学は?」
「いや、その…。」
「え!?もしかして行ってないの!?駄目よアンタ大学はちゃんと行かないと!」
「あの、どちらさんですか?」
「はぁ?お葬式で会ったでしょ?富美加よ、横峯ふーみーか!」
「何となくしか覚えてないんですよ…富美加さん、どうして…ここに?」
「どうしてって、ここに住むからよ。」
「……は?」
「え?何、遺言書ちゃんと読んでないの?」
「え?そんなのあったの?」
「あるに決まってるでしょー、アンタも博信さんと一緒で抜けてんのねぇ~。」
「いやいやいやい!無かったよ!それは断言できる!」
「あら…なら博信さんのうっかりかしらねぇ~。」
「うっかりかしらって、そんなもん知らないんだから、出てってくれよ。」
「アンタ失礼ねぇ~、仮にもお母さんに向かってなんて口の利き方すんの!」
「はぁ!?」
頭の中がパニックだ、目の前のおばちゃんは自分のことを今お母さんと言いやがった。
おかしいじゃないか、親父の話と違う。俺の母さんは俺が小さい頃に亡くなったって聞いてたのに。
脳みその処理が追い付かないうちに、また玄関が開く音がした。
「おじゃまします。」
「また?誰だよ今度は…。」
台所ののれんを潜って出てきたその顔も見覚えがある…そうだ、何だか教育熱心そうな眼鏡の主婦みたいな女性だ。
「あら富美加さん、来てたんですね。」
「朋美さん!どうしたの?あ!朋美さんも遺言書貰った?」
「そうそう、ヒロさんから任せたって…なるほどね、富美加さんも。」
「あの、僕には全く話が見えないんですけど。」
「成人してからはお葬式以来ね。改めて、貴方のママになる七瀬朋美です。これから宜しくね勇誠くん。」
「あ?え?マ、ママ?…ちょっと待ってちょっと待って、もう状況の整理が追い付かないから。」
「状況の整理も何も、アンタには今日からお母さんとママが出来たって話よ。」
「そう、今日から私たちで貴方の面倒をみる。そうヒロさんから任せられたから。」
「それがもう分からないから!それに、普通に母親って一人だろ?親父からは亡くなったって聞いてるし!」
「それは…まぁ。」
「色々と複雑でね。」
心の中ではもう複雑なんてもんじゃない、あの親父何したんだ!と怒鳴り出す一歩手前まで来た時。
三度目の開閉音、これ以上誰が来るって言うんだ。
「ハァ~イ!ユウセイ!マミーが来たよ~!」
「なっ…。」
「あらららら、陽子さんまで。」
「これはまた懐かしい。」
「ワ~オ!フミちゃんにトモちゃん!二人も遺言書?イエ~イ!楽しくなりそうねぇ~!」
「あ、…駄目だ。」
僕はその日、初めて脳の情報処理が追い付かず…気絶した。


―――五時間後。何か、昔嗅いだことある匂いするな…これ…子供の頃食べた…。
「あら、起きたわね。ご飯出来てるよ。」
「もぉ~!どういうことさ!アタシが来た途端にぶっ倒れるとか!」
「そんな喧しい人が来たら、意識も飛ぶでしょ。」
「はぁ!?どこが喧しいって!?」
見た目も日に焼けてうるさいメキシコから来たような人に関しては…見たことない気がするんだけど…。
なんか先に来た二人とは面識があるみたいだ…。
「そんなことないよね!?うるさくないよね!?」
「…初対面ですけど、うるさいです。とても。」
「ちょっとお!ユウセイィ~!」
「ほーら、ご飯食べるよ!」
「二人とも、早く席に座りなさいって。」
「…うお。台所、綺麗になってる。」
「私と富美加さんで綺麗にしたよ。やっぱり、しばらくほっとくとこうなるんだね。」
「あの、そろそろ話し聞かせてください。どうして…。」
「やば…私カレー大好物なの、知ってた?知ってて用意した?したよね!?」
「あー、そうそう。そうだよー。」
「だよねー!?やっぱ二人分かってるわー!もー大好きよ!」
「あのだから、そろそろ…。」
「それは、ご飯を食べ終わってから話しましょ。」
この朋美って人の声、何か懐かしい気がする。
たしか陽子ってこの人も、懐かしいと言うか…とても親父に似てる気がする。
富美加さんが作ったカレーは、親父が作ったカレーそのもので、僕はこの三人の謎が深まるばかりだ。
「さぁ!呑むわよぉ~!」
「ちょっと!勝手に冷蔵庫開けないでくださいよ!」
「いいじゃない~、だってマミーなんだからぁ~。よいっしょっと~。」
「食事も終わったんだし、そろそろ話してください。遺言書のこと、貴方達のこと。」
「簡単な話よ!ノブさんからアンタと暮らすように言われてみんなで集まった。
これからはママと母とマミー三人でユウセイの面倒を見るのよ!分かった?」
「分かる訳ないでしょ!」
「じゃあ、まず何から話そうか…そうね、私たちと博信さんの関係かしらね。」
「そうねぇ~。アタシと朋美さんは、博信さんとは結婚してたことがあるの。元嫁ってやつね。」
「…え?親父って、バツ…3?」
「結婚していたのは私と富美加さんだけ。」
「アタシが二十代の頃に結婚して三年で離婚して、朋美さんはそのあと直ぐ…何年だっけ?」
「私も結婚生活は三年、ちなみに離婚理由はこれも二人一緒で博信さんの浮気。」
「うわぁ…、最低じゃん。」
「あ、アタシの時の浮気相手が朋美さんで。」
「私の時の浮気相手が陽子さん。」
「へ?富美加さんと朋美さんはお互い旦那取り合ったんですよね?…なんでそんなあっけらかんと話せるんすか?」
「そりゃあ~、ねぇ。」
「博信さんの愚痴で意気投合して。」
「さらにうわぁ~ですわ。」
「ほら、博信さんて結構特殊な人でしょ?話せる人他にいなくてさぁ~。」
「ギャンブル好きで、女はさらに好きで。なのに愛嬌も男気もあって、人から愛される不思議な人なんて居ないしね。」
「陽子さんは、結婚してないんですか?」
「ん?うん!籍入れてないよ~。」
「じゃあ、陽子…さんは一体?」
「ワタシは諸事情で出来なかった三人目の女よ。」
「なんで結婚しなかったんですか?」
「まぁ…止むに止まれぬ事情でね~。」
「あの、今の話と貴方達が僕の母親になるって話が全然繋がらないですし。本当の母親は…亡くなってるんすよ。」
「それはね、嘘なのよ。」
「…はい?嘘?」
「そうよね?陽子さん。」
「ん?うん!そうそう。ワタシがね、亡くなったことにしてって頼んだのよ。」
「…なんで?」
「それは…その…。」
「勇誠くん、お父さんって生活力あったと思う?家事とか色々。」
「え?いや…無かったと思うけど。…極力自分のことは自分でやってたし。」
「特に部屋が汚いとか、困ったこと無かったでしょ。」
「実はね。アタシと朋美さんで、勇誠君が居ない間にここの家事とか色々やっていたのよ。」
「…んじゃ、親父が任せろって言ってたことって…みんな二人がやってたてこと?」
「そうだよ、ご飯は富美加さん、掃除は主に私。」
「何だよそれ…そしたら、親父と二人で頑張ってきたこの生活が…嘘って言うのかよ。」
「いや、そう言う事じゃないけど…。」
「ふざけんなよ!急にきて!僕はこの生活好きだったんだよ!なのに、勝手に来てふざけたこと言うなよ!」
「落ち着いて、そう言う事じゃないんだって。」
「ちょっとユウセイ!ワタシたちはお父さんとユウセイが大好きで来てるんだよ!それをそんな言い方して!」
「うるせえ!…出てけよ、僕はあんたらなんて呼んでない!出てけよ!」
言い放ったあとに、頬に衝撃が走った。
目の前には、陽子って人が今にも泣き出しそうな顔で僕のことをビンタしていた。
「…は?」
「あ…これは…。」
「…分かったわ。もういい。」
何だか無性にここに居たくないと思って、気づいたら家を飛び出して、親父とよく遊んだ公園にいた。
…こんなこと、親父の時はしょっちゅうだったのに。今日は何だかとても悲しい。
多分、いつも親父が血相変えて追いかけて来たのが、今日はないから何だろうな…。
「ユウセイ!」
「…え?」
声が聞こえて、その方向を向くと陽子さんが親父みたいな顔で立っていた。
「ユウセイ…ちょっと、話聞いてよ。」
「話?また親父の嘘の話か?」
「…あのね、アンタの本当のお母さんは…ワタシなんだよ。」
「それは、世話してたって意味で?」
「そうじゃなくて!ユウセイを生んだのは、ワタシ!お腹痛めてアンタを生んだのは!ワタシなの!」
「なら、何で今更出てくんだよ。葬式にも来ないで…何してたんだよ。」
「…ワタシね、親戚に嫌われてんのよ。だから、ほとぼりが冷めるまで離れてくらそうって、ノブさんが言ったの。」
「親戚って、うちのか?」
「そう…と言うかワタシの親戚でもあんのよ。」
「え?」
「ワタシも立花家の親戚、ノブさんとはまたいとこってとこね。…ワタシの親は立花家でも相当癖があってね。
勝手に土地を売ったり、財産食いつぶすような真似ばっかりする極潰しだったの。
しかもそんな親の娘だからって、ろくでもないレッテル勝手に貼ってきて、言われもないことで嫌われた。
更にさ、まともに子育てなんてのも出来ないくらいの毒親で、20代になるまでは最悪だった。
そんな中で、唯一ノブさんだけはワタシを気遣って助けようとしてくれた。…ワタシを、愛してくれた。」
「え、待って。その親戚って、浦部さん?」
「そうよ、ワタシは浦部家の浦部陽子。」
「親父がうちの親戚から距離取った理由って、聞いたことがあるよ。
浦部さんはろくでもないかもしれねーけど、他人を差別するような親戚を好きになれないって。」
「いやぁ~!本当にさ、優しいよね…ノブさんは。…そういうとこが、大好きだった。
だから、ユウセイを身ごもった時は…とてつもなくハッピーで仕方なかったんだけど…上手くいかなかった。
ワタシがノブさんと関係を持ったってバレそうになって、親戚中から嫌がらせを受けそうになったのよ。」
「それで、俺らから離れた…。」
「沖縄まで逃げて、ユウセイを生んで…でも、子育て出来るほどワタシは余裕が無かったから…ノブさんが。」
「…大体、分かったよ。…まぁ、親父も全然余裕ある生活送らせてくんなかったけどな。」
「色々聞いてたよ!ユウセイのこと、ずーっと手紙で聞いてた!だから…今会えて凄く…すっごくハッピーなのよ!」
「でもさ。何で、亡くなったことにしたのに会いに来たんだよ。」
「それは…、ノブさんの遺言書に書いてたのよ。『まだガキだから、ヨウコが傍に居て欲しい。』って。」
「親父…もうちょい書き方あったろ。」
「ノブさん、『今度はヨウコの番だ、幸せになってくれ。』って。だから、ユウセイと、暮らしに来たんだ。」
「…帰ろうか。母さん。」
「えー?そこはマミーでしょ!」
「…いや、流石に。」
「ヘイ!もう一度!」
「…ま、マミー。」
「ハーイ!マイ、サン!」
どうやら、この明るいノリは沖縄のスナックで働いて開花したスタイルなんだと。
帰り道に色々と、聞いても居ないのに話してきて。富美加さんや朋美さんが沖縄まで会いに来るほど仲良しってこと。
そもそも浮気というよりは、親父が二人に言い寄られて、選べず二股したことなどなど。
色んな話をしているその顔は、幸せそのものだった。
家で留守番してる富美加さんと朋美さんに、コンビニでアイスを買って帰った。
「お帰り~。」
「おかえりなさい。」
「…ただいまです。」
「たっだいま~!」
「これ、さっきのお詫びです。」
「気を使わなくていいのに~。」
「ありがとう、勇誠くん。」
アイスを四人で食べながら、陽子さんから聞いた話をした。
二人は、どうやら事象を知っている様子で陽子さんに良かったねと言っていた。
「ところで何ですけど、マ…マミーの話は分かったんですけど。二人もここに暮らすって…。」
「あーそれはね、陽子さんだけじゃ大変だからって話でね。」
「私たち二人も独身で、一人で暮らすのに飽きてきた頃だったし。
陰ながら支えてた勇誠君をこれからは一緒に育てられるねってことで、ここに来ることにしたのよ。」
「それにね!遺言書でご丁寧に書いてくれたのよ!『ヨウコは性格いいんだけど生活力皆無だから助けてくれ』って!」
「…よく堂々と言えるなマミー。」
「男で一人で育てたいって維持貼ってアタシたちを隠してたけど、もう時効ってことで~。これからよろしくね。」
「色々戸惑ってると思うけど、私達も頑張るから。よろしく、勇誠君。」
「ウェ~イ!楽しくなってきたねぇ~!」
盛り上がったままマミーは冷蔵庫からまたビールを取り、母はおつまみを作り始めて、ママはそれを笑ってみていた。
やっぱり自分に急に母親が三人現れたという現実は、理解しがたいことだけど。
親父がこんなにも愛されていたんだなと、理解できた。
ずっと二人ぼっちだと思っていたのに、葬式もそんなにいいもんじゃなかったけど。
確か、親父の為に泣いてたのって…富美加さんと朋美さんだったな。
親父を愛した女性が、今親父の住んでた家で、親父の話をしてるよ。
…死んでも愛されてて、良かった。
僕はそれをみて、一人になって初めて泣けた。


―――一週間後。
「あ、勇誠。洗濯物出しといてくださいね。出さないと、部屋に入るから。」
「ちょっと!脅さないでよママ!」
「勇誠~、ハイお弁当。ちゃんと残さず食べるんだよ~。」
「分かってるよ母さん、てか子供扱いすんなよ。」
「ヘイヘイ!ユウセイはワタシらからしたら子供なんだから!ねぇ!」
「はいはい!そうですねマミー!よし、んじゃ行ってきます!ママ、母さん、マミー!」
二十歳になって母親が三人で来て一週間、色々戸惑いまくりだけど…僕は今スゲー幸せです。
親父、四十九日は家族四人で会いに行くから。笑って、待っていてな。


【あとがき】

最後まで読んでくださった方々、
誠にありがとうございます。

この物語はしおんさんと話してるときに生まれた感じで。

しおんさんの三周年を飾るに相応しい作品を!!
っと気張った結果ちょっと不完全燃焼でした…反省。

次も記念作品書かせてもらえるために精進せねばアカンですな。

では次の作品も楽しんで頂けることを、祈ります。
お疲れ様でした。

カナモノユウキ


【おまけ】

横書きが正直苦手な方、僕もです。
宜しければ縦書きのデータご用意したので、そちらもどうぞ。


《作品利用について》

・もしもこちらの作品を読んで「朗読したい」「使いたい」
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