〖短編小説〗11月10日は「いい頭皮の日」
この短編は627文字。約1分40秒で読めます。
「お客さん、いい頭皮してますね。」
初めて入った美容院で、美容師のお姉さんにそう言われたとき、
わたしは今までの自分の人生のなかで、頭皮の具合なんて考えたことがなかったと気がついた。
「あ、そうですか。どのへんがいい頭皮なんですかね?」
わたしは聞いてみた。
「そうですね、とても柔らかい頭皮です。性格も素直で前向きですね。とてもいい。」
美容師のお姉さんは笑いながら確かにそういった。聞き間違いじゃない。
「え?素直で前向き…。」
「はい、わたし頭皮情緒鑑定の資格をもっているので、分かるんですよ。」
「とうひじょうちょかんてい?」
「はい、かなりマイナーな資格なので、ご存知ないのも無理ないですよ。」
そうか、マイナーな資格なんだ。それより情緒が分かるってどういうことだろう。
「えーっと、触るとその、情緒?気持ち?が分かるんですか?」
混乱しながらも、よくわからない質問をしてしまった。
「えぇ、もちろんです。1級の資格持ってますからね。」
「えーすごい!1級。」
と一応答えたが、級があるのか!しかも1級がどのくらい凄いのかがよくわからない。
「世の中にはお客さんが知らない、資格がいっぱいありますよ。」
「そうですよね、色々な資格の勉強している人いますもんね。」
その後、会話はなく髪を乾かしてもらい、店をでた。
家に帰ってから、インターネットで【頭皮情緒鑑定】を調べてみたが、1件もヒットしなかった。