〖短編小説〗1月12日は「いいにんじんの日」
この短編は1002文字、約2分30秒で読めます。あなたの2分半を頂ければ幸いです。
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今年も神社の境内によくわからい露店がならんだので行ってみた。私はこのよくわからない感じが好き。
「生まれたての豆腐屋」「森の大福」「なんでも修理ポンコツ屋」「目の付け所が尖っているでしょ」など何の店かやっぱり分からない。
そのなかで、私が気に入ったのは、看板に「参りました人参」と書いてある、にんじんの専門店だった。
露店の店には少し大きめの台の上に、様々な、にんじんが置かれていた。お店の店主と目が合いそうになったが、合わなかった。なぜなら店主は頭から、にんじんの駄菓子の袋のお化けのようなやつを顔が隠れるほど深くかぶっていたから。(にんじんの駄菓子は、にんじんの形をした袋にポン菓子が入っているもの、知らない人は調べてね)
怪しすぎると思ったが、にんじん愛が強い証として、見なかったことにしよう。
「にんじんをお探し?」口元が例の袋のせいでホフホフいいながら、店主は話しかけてきた。
「にんじんって色々な種類があるのね」私が感想をもらすと
「人と一緒だよ、いいにんじんもいれば、わるいにんじんもいる。なにせ、にんじんは、漢字で書くと人参だからね」ホフホフ言いながら、偉そうにしゃべる店主。
「じゃあ、いいにんじんは、どれ?それがほしいな」これは店主が、客に確実ににんじんを売りつけるために考案した、巧みな話術だと気づいていながらも、それに乗ってやろうという私の心意気!お見事。
「逆に、どれがいいにんじんだと思う?」ホフホフ。逆?なんの逆?かしら、むかしそんな言葉が流行したような。チョベリグのような。
少し悩んだ私は、奇をてらって店主の頭にすっぽり刺さっている、にんじん袋に向かって「これ」と言ってみた。
すると店主は「お客さん面白いね。あたしは確かにいい人間であり、いい人参だ」ホフホフ。とエミネムばりに韻を踏んできた。
「特別に、いいにんじんを選んであげる」ホフホフ。店主はひょいひょいと数あるにんじんから、一番か二番くらいに病気で痩せて元気がなくてお金もなくて自営業なのに貯金してなくて年金もらえなくて将来に絶望してしょうがないから奥さんに内緒で公園でボーっとしているしかないような、そんなにんじんを選んだ。
私はおとなしくそのにんじんを買いました。店主から受け取った時に、もらった?私本当に手にもらったと思うほど軽かったけど、案外そんな人間まちがい、そんな人参が、いいにんじんなのかも。
1月12日は「いいにんじんの日」