〖短編小説〗1月19日は「いいくちの日」
この短編は1078文字、約3分で読めます。あなたの3分を頂ければ幸いです。
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口の中を見るのは、歯医者の得意技で、あの背中がぐーっと曲がって椅子にもベットっぽいものにもなっちゃう優れもの(通販で売ったら売れそう)の上に横たわる歯が痛い人たちを診察するのだ。
「はい、ぐじゅぐじゅぺっしてね」と歯医者さんは大人にも言っているのだろうか?歯医者のぐじゅぐじゅぺっのコップって小さいよね。そんなことは今どうでもいい。
現在の状態を説明しよう、歯医者さんごっこ。以上いやもう少し説明が必要だ。正座したぼくの太ももの上(正座は祖父の葬儀以来)に、愛しの彼女(彼女は頭が小さい、小顔というわけではない)が頭をのせている状態だ。THE膝枕。
通常だったら、アベックで耳かきですか?ラブラブですね?と聞きたくなるだろうが、少し違う。歯が痛いと愛しの彼女が言うもんだから、見てあげましょうよと彼氏が言った。
「あーーーーあっ!」彼女の大きく開けた口は星新一の短編に確か出てきたような気がする、大きな穴より大きかった。中学生依頼星新一のお世話になっていないのでうろ覚え。
「あれ、口閉じたら見えないよ」ぼくはユーミンの歌の歌詞より更に優しくいった。
「待って、たとえ彼氏でも知らない人に口の中見られるのは恥ずかしいことに今気づいた、膝枕されながら」
がーーん、知らない人…確かにそうだ。あなたにとってぼくはまだ知らない人。ちょいまち、じゃあ歯医者ってすごくない?どんな人の口の中も見てるってこと?あんな秘密や人には言えないこんな秘密がかくれた口の中を見てるってこと…すげーぜ。
「はい、では口を開けてくださいね。確認できませんのでね」ぼくは歯医者さんになりきって太ももの上の星新一に話しかけた。
渋々、彼女は本日二回目の「あーーーー」
「うーん、洞窟なみに暗い…誰かー藤岡隊長呼んできてー」
「ひょりゃーくりゃひにひみゃってりゅろー(そりゃ暗いに決まってるよー)」
目を凝らすと、だんだんと暗闇にもなれてきた。
そしてその暗闇の中に、ひと際輝く光があった。無数の光が集まるそこは、どうやら街のようだった。夜の街にきらめく数百の光たち。人口の光が美しいと思うのは、自分の心が汚れているから。本来なら人口の光では人間は感動しないなどど言った大学の先生がいたが、この町の光いや明かりを見せてやりたいものだ。こんなにも一つ一つがあたたかく光る明かりがあっただろうか。まさにこれは、住む人住む場所、一か所一か所が幸せな温かさに包まれているからなのであろう。あぁ、この暗闇の中だからこそより際立つ美しい光、きっと我々は…
「あー、まだ見てんだから、勝手に口閉じるなー」
1月19日は「いいくちの日」
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