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大学4年生の「日常」

2月末の金曜日 時刻は0時45分
最寄駅へ向かう電車は10分前に行ってしまったらしい。

千鳥足のおじさんや、改札前で顔を近く寄せ合う男女をよそ目に、終電後の地下鉄駅構内を1人で歩く。

さっきまで一緒に飲んでいた友人達は、別の電車に乗って行ってしまった。所謂「宅飲みオール」というやつだ。

普段なら迷うことなく参加していただろうが、今日のわたしは彼女らを見送って手を振るという選択をした。
なんだかとても疲れしまったのである。
ギリギリ電車に乗って帰ろうと思ったのだが、計算を間違えたらしい。思ったよりも酔っているようだ。

シャッターの閉まった百貨店の入口を通過し、階段を登って地上に出ると、タクシー乗り場には終電を逃した人々の列ができていた。

人間の帰巣本能はすごい。
定期プラス250円ほどで帰れる距離に2000円ほど払わなければならないのは癪だが、この寒さの中歩いて帰る気もないので、仕方なくわたしもその列に加わった。

スマートフォンを開くと、さっきまで飲んでいた友人から今日の写真が送信されている。
「また飲も〜」と送信しつつ、彼女らとお酒を飲むのは人生であと何度くらいなのかな、などと思いを巡らす。

大学4年間が終わりを告げる。
この4年間でわたしは何を得たのだろうか。
これからどのように社会に還元するのだろうか。
考えてもわからないまま、昨年始めた就職活動は何となく終わり、なんとか決まった会社へ4月から通うらしい。
ものすごく嫌な気もするし、かといってずっと大学生でいるのも時間の無駄遣いな気もする。

そんなことをぼんやりと考えていると、列の最前列まで来ていたようで、タクシーの後部座席が開いた。

少し酔いが覚め、急いで乗り込む。
そういえば1人でタクシーに乗るのは初めてだ。

無愛想な運転手に住所を聞かれて、ぼんやりとしている頭を働かせながらしっかり呂律が回るように気をつけて住所を告げると、タクシーはゆっくりと走り出した。

タクシーの緩やかな運転と、少しだけ開いた車窓から入ってくる夜風は、想像よりかなり気持ちが良かった。 

窓からは首都高速の立派な柱や東京の街の灯り、他の酔っ払い達を乗せたタクシー達が次々と通り過ぎて行く様子が見え、田舎育ちのわたしを興奮させる。

わたしは自由に憧れて東京に出てきたんだと、キラキラ輝くビルの光が思い出させてくれる。

きっとこの高揚感も、明日の朝になれば吐き気と頭痛に変わり、自由な時間は無駄な時間に消費されてしまうだろう。
けれど今、東京の夜を走っているわたしは、他の誰よりも自由で幸せだ。

付き合う人たちは変われど、私は一生お酒と付き合っていくのだろう。
自由と幸せを求めて。

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