見出し画像

青森の旅

 いつもお読みいただきありがたうございます。今回の旅は、純粋に温泉と鉄道を楽しみに行つた内容です。万葉要素と和歌(やまとうた)は皆無です。
 また、青森県、秋田県での集中豪雨、心配してをります。どうか、ご無事で…。

 敷島の やまとの国は 言霊の 助くる国そ 真幸くありこそ (柿本人麻呂歌集)

 青森県は私の好きな県の一つであり、学生時代からよく行きました。当時は寝台特急あけぼの号がありましたし、青春18きつぷの時期になれば快速ムーンライトえちご号を利用し、羽越本線や奥羽本線に乗り、青森を目指しました。意外とアクセスは良かつたやうに思ひます。
 やがて東北新幹線が八戸駅まで延伸され、さらなるアクセスの改善となりましたが、青春18きつぷ利用者は東北本線の一部区間(当時は盛岡駅から八戸間)が第三セクター化されたことにより、多少の不便を被ることになりました。しかし、まだムーンライトえちごがあつたお陰で私はそこまで実害を受けませんでした。

 さて、今回は秋田駅前を起点に動きます。東京駅前から夜行バス、ドリーム秋田・東京号に乗り秋田駅前に着きました。目的の列車に乗るまでに時間があるので、駅前を少し歩きました。今回は久保田城(千秋公園)や市民市場までは足を伸ばしませんでした。

 さういへば、秋田は本居宣長の歿後の門人である国学者の平田篤胤の出身地ですね。私は、篤胤も国史上、重要だと思ひますが、明治時代の東大で漢学を教へた根本通明教授も重要だと考へてゐます。根本通明教授について、詳しくは、平泉澄先生の『萬物流轉』をお読みください。『易』についての見解は、白眉です。

五能線の旅

リゾートしらかみ

 秋田駅に八時十分頃に戻り、ホームに降ります。今回の旅では学生時代からよく乗つてゐた快速リゾートしらかみ号に乗車します。いはゆるジョイフルトレインといふもので、まさに「のつてたのしい列車」です。最初に乗るリゾートしらかみ1号はHB-E300系の橅編成です。リゾートしらかみに乗る際は、可能な限り指定席をA席にするのが良いでせう。何故なら、A席はリゾートしらかみ最大の見せ場である五能線の海側だからです。
 五能線は、東能代駅から五所川原駅を結ぶローカル線で、日本海の絶景を堪能できる路線です。リゾートしらかみは、その五能線を巡る列車で、見どころの車窓では徐行をしてくれたり、津軽三味線の演奏をしてくれたり、面白い企画がたくさんあります。

リゾートしらかみ 橅編成

 八時二十分、定刻になり、リゾートしらかみ1号は秋田駅を出発しました。秋田駅のあたりでは晴れてゐますが、北の方はいかがでせう。
 車内には売店があり、日本酒のショット売りをしてゐました。お酒を嗜みながら列車に乗るのは、とても楽しいものですね。日頃のストレスをわづかばかりでも解消することができます。

リゾートしらかみ 車内
日本酒

能代駅

 秋田駅を出発して、しばらくは田んぼが車窓に広がります。八郎潟駅を過ぎ、鹿渡駅のあたりまで八郎潟干拓地の景色が車窓左側に見えます。東能代駅で進行方向が変はりますので、座席を反転させませう。ここから五能線に入ります。
 次の能代駅はバスケの街。漫画『スラムダンク』に出てきた山王工業のモデルとなつた能代工業高校で有名です(木工の街でもあります)。なほ、能代工業高校バスケ部の全国大会での実績は本当に漫画レベルです(インターハイ二十二回、国体十六回、ウィンターカップ二十回優勝)。
 能代駅にはホームにバスケットゴールがあり、シュートを決めると記念品をもらへます。

能代駅
記念品のコースター

十二湖

 能代駅を出発し、米代川を渡り、東八森駅を通過してしばらく行くと、日本海が見えてきます。絶景といふ表現がとてもよく似合ひます。岩館駅を過ぎたあたりで、しばらく徐行運転してくれます。荒磯に白波が寄り、波の花咲く絶景です。なほ、車窓の右手には世界自然遺産に登録されてゐる白神山地です。

五能線の車窓

 十二湖駅は、何故青いのかわからない青池の最寄り駅です。ここからバスでしばらく行くと青池に行けます。大学生の時に三度訪れましたが、池の中に青インクをこぼしたやうに青く、それでゐて透き通つてゐる不思議な池でした。

五能線の車窓

不老ふ死温泉

 車窓に広がる日本海は、見てゐてまつたく飽きませんが、次のウェスパ椿山駅で降ります。十時四十分、ウェスパ椿山駅到着。この近隣には鍋石温泉やみちのく温泉など、塩分の多いすぐれた温泉が多いのですが、私は黄金崎不老ふ死温泉へ行きます。ありがたいことに、バスが来てくれてゐました。乗客は私とをぢさんの二人だけでした。

 なほ、みちのく温泉は列車から見える大きな水車が目印ですが、今は立ち寄り入浴等は行つてゐないさうです。ここも良い温泉です。遊離二酸化炭素含有量が日本一ださうです。これは個人的な感想ですが、ロケーションは不老ふ死温泉、泉質はみちのく温泉だと思つてゐます。

不老ふ死温泉

 不老ふ死温泉の露天風呂は、海の目の前です。波の音を聞き、水平線の彼方を眺めながら入る湯は、なんともかんとも言へません。まさに心身共に「ぬくぬく」です。混浴ですが、現在では湯浴み衣があるので安心です。暑くなつてきたら、潮風で涼み、また入るのを繰り返してゐました。一応、館内に内湯も備へてあります。
 大学四年生の時、不老ふ死温泉に泊まりましたが、いつ来ても楽しめるところです。夜、星空の下、海辺を歩くのは本当に素敵です。
 なほ、不老ふ死温泉の最寄駅は艫作(へなし)駅です。歩いて行く際はこちらをご利用ください。

沿線の旅

 ウェスパ椿山駅からリゾートしらかみ3号に乗車します。今回はキハ40系を改造した、くまげら編成です。さすがに、息長く走つてゐるせいで車両はくたびれてゐます。痛々しい…。十三時十九分、ウェスパ椿山駅を発車すると、艫作駅、横磯駅と通過して深浦駅に到着します。さういへば、この辺りは相撲所で、多くの幕内力士が誕生してゐますね。

 深浦駅を出発して、車窓左手には相変はらず日本海の絶景が広がります。途中、通過した驫木(とどろき)駅は、青春18きつぷのポスターにもなるほど、風情のある駅です。日本海の荒涼な車窓が余計に旅情をかきたててきます。さらに沿線にある追良瀬(おいらせ)駅、驫木駅、風合瀬(かそせ)駅は、旅情をかきたてられる駅名ですね。

 千畳敷駅でしばらく停車します。江戸時代、寛政五年(1793)の地震で海底が隆起して、平たい磯ができたとか。かつて、津軽藩の藩主も、ここで宴会を催したさうです。

千畳敷海岸
リゾートしらかみ くまげら編成 千畳敷駅

 さて、鯵ヶ沢駅を過ぎてしばらく行くと、内陸部に入り景色が変はります。
 木造駅は亀ヶ岡遺跡の最寄り駅で、駅舎が遮光器土偶の形をしてゐます。地元では「シャコちゃん」と呼ばれてゐるさうです。目の部分が光るさうですね。夜中に光つたら怖いでせう。
 なほ、亀ヶ岡遺跡で出土した遮光器土偶ですが、実物は東京国立博物館に展示されてゐます。

津軽鉄道

 十五時二分。五所川原駅で下車し、ここから津軽鉄道に乗車します。冬にはストーブ列車が運行されるローカル線で、きっぷはなんと硬券です。珍しい。駅舎も風情があつて良いですね。青森県は、津軽と南部では見せる顔が違つて面白いです。南部は都会に近く、津軽は田舎であり情緒がある、そのやうな印象ですが如何。

 途中、金木駅には太宰治の生家跡があります。平岡公威もとひ三島由紀夫ではありません、が私は彼のこと(文学含め)は好きではありません。「でもそれは好きつてことだ」といふ屁理屈は無用です。

津軽鉄道
津軽鉄道 五所川原駅

 津軽中里駅で折り返し、五所川原駅に戻りました。すでに陽は暮れてゐます。行きに見えた景色はもう見えません。五所川原駅から十八時十八分、本日三度目のリゾートしらかみ、5号に乗ります。今回はHB-E300系の青池編成です。外は真つ暗です。明るければ、岩木山やりんごの木が見えるのですが、それは明日の楽しみとしませう。

リゾートしらかみ 青池編成 五所川原駅

味噌カレー牛乳ラーメン

 定刻である十九時四十分に、青森駅に着きました。すぐに外に出て駅近くの味の札幌 浅利といふお店で味噌カレー牛乳ラーメンを食べました。味噌カレー牛乳ラーメンとは珍妙な名称で、ゲテモノ感がありますが、とても美味しいです。クセになる味、といふのが適切かも知れません。また食べたいものです。
 この日は、アパホテルに宿泊しました。チェックインの後、すぐに寝てしまひました。

味噌カレー牛乳ラーメン(バタートッピング)
アパホテルの部屋

酸ヶ湯温泉へ

 翌朝は、アウガの地下にある市場で朝食をいただきました。青森に来るたびに、ここで朝食を食べてゐる気がします。市場に並べられた魚を見るのも楽しいですね。関東のお魚と違ひ、根魚が多いやうな気がします。

朝食の海鮮丼

酸ヶ湯

 駅前のバス停から、バスに乗つて酸ヶ湯温泉を目指します。黄葉を見に行く人たちで奥入瀬渓流方面行きのバスはとても混んでゐましたが、なんとか座れました。バスは一時間程度で酸ヶ湯温泉に着きました。ここで降りたのは、私と数名の客だけでした。
 酸ヶ湯温泉のロビー横に飾られてゐる棟方志功の絵が見事です。お湯に入るのは十年以上ぶりでせうか。白濁の湯で熱めです。酸性度(ph値2,0程度)も高く、肌がピリピリします。湯治場のやうな雰囲気も素敵です。
 とても、癒されますが、女性が入つてくるのを待つて覗いてゐる男が気持ち悪いです。本当、やめてほしい。

 今度、来るときは三日くらゐ泊まりたいものです。南に下れば、蔦温泉など以前入つたことがある名湯が多くありますが、今日は市内に戻ります。
 なほ、棟方志功は青森が生んだ偉人であり、大版画家です。「わだばゴッホになる」、さう志し、自らの画風を確立し独自の道を進みました。偉大です。山辺の道にも彼の歌碑があり、個性的で私の好きな碑です。

酸ヶ湯温泉

三内丸山遺跡

 酸ヶ湯温泉から再びバスに乗り、今度は三内丸山遺跡に行きます。三内丸山遺跡は縄文時代の遺跡です。昨年、世界遺産に登録されました。栗が栽培されてゐたことなど、多くの特色ある遺跡です。この地に、長期間にわたつてある種の文明が築かれてゐたことに驚嘆を禁じ得ません。寒さをどう乗り切つてゐたのか、気になります。

三内丸山遺跡

夕暮れの津軽

 帰りは昨日と同じく、リゾートしらかみ6号のくまげら編成です。座席をコンパーメント席に変更し、広々と使ひました。車内は十人もゐませんでした。
 十六時六分に弘前駅を出発してから、しばらく夕日に照らされた岩木山が見えます。岩木山にりんごの木といふ車窓は、五能線ならではです。海に沈む夕日も素敵ですが、津軽平野の景色もまた良いです。

岩木山
リゾートしらかみ くまげら編成 深浦駅

 深浦駅のあたりではもう真つ暗でした。車窓の向かうは夜の日本海なのですが、一面の黒で何も見えません。読書をして過ごしてゐたら、二十時四十四分に秋田駅に到着しました。
 秋田駅前から一昨日と同じバスに乗り、東京に帰りました。何度行つても、青森は楽しいです。五能線の旅も飽きません。今度行く時は、秋田駅まで新幹線こまち号で行き、リゾートしらかみ3号に乗つてのんびり日本海を堪能したいものです。そこに、恋人がゐたらなほ、良いですね。
 最後までお読みいただき、ありがたうございました。感謝。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?