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私たちの農業を変えた、私たちの言葉 #未来のためにできること

「この課題、私が20代だった頃と全然変わってない」。

還暦を迎えた女性農家が言った。
「てことは、40年近くも女性農家の悩みって変わってないの?」



大学を卒業して、移住し就農した。
農業を続ける中で結婚し、こどもも授かった。

その頃から、いろんなものが手に負えなくなった。農園の法人化にも、加工所建設にも失敗した。就農して7年目、一人ぼっちになった。
もう農業を辞めよう。

そんなとき、2人の親子農家が訪れた。
彼女たちはこう言った。
「一緒に加工所やらない?」


もう一度挑戦するならば、自分の失敗にちゃんと向き合いたい。
女性が幸せに農業を続けるにはどうしたらいいか、考えるようになった。


2020年、同じような悩みを持っている女性農家12名に声をかけ、みんなで悩みや課題を紙に吐き出してみた。

驚いた。以前、男性だけでやった時は経営と栽培の悩みしか出なかったが、私たちの悩みは多様だった。地域との関係性、子育てや介護との両立、時間、パワハラ、セクハラ、アイデンティティなど。
それらを見て出たのが、冒頭の言葉だった。


そうだ、私たちに足りなかったもの。
それは言葉だ。

言葉にされなかった言葉や感情は、そのまま女性農家たちの心の中で、きっと40年以上、世代を超えてひっそり引き継がれてしまっていた。

私たちで終わらせよう。


私たちは「コミュニティの力で、成長し高め合う場を作り、それをベースにものづくりをする。この両輪を回す」という農業界では新しいアプローチを始めた。

さつまいもの生産組合と加工所を設け、自分の名前で収入を得れるように。

コミュニティでは、上司、部下、同僚がいない家族経営の狭い環境から、「わたし」を主語に取り戻すため、コーチングの手法を取り入れながら「私は、何者として、何をなすのか?」に向き合い続けた。


「私はお父の機械だから」と言っていた子がいた。
小さな頃から農作業を手伝ってきて、人間として扱われている感覚がない。「家族」が苦しいと言っていた。

そんな彼女が「わたし」をこう、再定義した。
「私は機械ではなく、『人間』だ」


その瞬間から彼女の目つきが変わった。
お父さんと積極的に対話するようになった。不妊治療にもチャレンジした。なにより、笑顔が増えた。


私たちの内から出てきた言葉が、私たちの世界を変えていった。

あの頃、私は一人だったのに、いま、男女年齢問わず、仲間が増えた。
私は未来へ、変化を起こす言葉を繋いでいく。


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かなやん(佐藤可奈子)
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