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昔お産で女性が赤子が死んだ、って、そんなことないと思ってた。けど。

お産は命がけ、って本当だと思う。
私は周産期センターの産婦人科で助産師として働いて3年目になった。
分娩、産後の母児ケアに加えて、妊婦さんの入院や婦人科疾患の手術の入院もあり、
たったの2年間だけれど、本当にたくさんの妊娠とお産をみてきた。

助産師の勉強をするまで、助産師になるまで、
妊娠って、お産って、産後って、
こんなに大変で、予想しないことが起きて、心にも体にも大きな変化が起きて、
とんでもないものだってことを知らなった。

妊娠する、出産する、というのは“自然”なことであり、もともと病気ではない、と私は思っている。
だって、今まで何万年と人類が、というより、生命がつながってきた、この世において、当たり前の営みだと思っているから。
何万年も、数えきれない人たちの妊娠出産があって、
その一つ一つが“奇跡的に”または“偶発的に”つながって、
今ここに私はいるし、私のまわりの人もいる。

ただ、その“奇跡”や“偶発的”でつむがれてきた一方、
そのようにならなかった妊娠や出産が、本当に、本当に数えきれないくらい、あったんだと思う。

よく、お産は血との戦いと言われる。
私も出産後に、本当に溢れるような、血の海になるような大量出血への対応に先輩たちを当たったときには、意識を失っていきそうになる産婦さんに、今思い出しても心臓が震え上がる。
無事に出産を終えて数時間経った方から、ナースコールがあり、向かうと、ベッドが真っ赤に染まっていた光景も何度か目にしている。

助産師のバイブルの一つである“病気が見える vol.10 産科”を開くと、
とにかくたくさんの病名が出てくる。
妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病、全前置胎盤、常位胎盤早期剝離、癒着胎盤、異所性妊娠、子癇発作、弛緩出血、産科播種性血管内凝固、深部静脈血栓症、会陰部裂傷、産褥熱…
赤ちゃんについても、新生児仮死、呼吸窮迫性症候群、胎便吸引症候群、動脈管開存症、新生児低血糖、新生児黄疸、新生児感染症…

妊娠出産産後に関する病気への予防や治療方法、ケア方法が書かれている。
たくさんの病名があり、その治療方法が模索されてきて、知識や技術が蓄積されてきたのは、
今まで多くの女性が、胎児や赤ちゃんが、命をかけるような危険な状態になり、
時には死に至ることもあり、その原因を探してきた長い歴史があるんだろうと思う。

昔話を読むと、
「実の母は出産後に死んでしまい、乳母が育てた」とか
「母親は産後の熱で病死」とか
「待望の世継ぎが生まれたが、すぐに病死」とか
書かれていることがあり、
助産師になる前は、母親が死んじゃうなんて可哀そうだなあ、と感じるくらいだったのが、
今思うと、出産で女性が亡くなる、新生児が亡くなる、ということは
決して珍しいことではなく、あったのではないか、と思う。

昔もきっと産婆のような人がいて、医師の役割の人がいて、
コミュニティーの中で語り継がれてきた妊娠期の過ごし方、出産へのケアがきっとあって、
できる限り危険がないように、死なないように、してきたんだと思う。

今は医療という中で、妊婦健診で定期的に状態を確認し、母体や胎児にリスクがある状況であれば、病名がついて加療し、医療や看護で関わっていく。

今自分が接している世界は、たくさんの経験や知識が積み重なって、
できるだけ母体が胎児が安全なように、妊娠出産産後を、
その人の大事なライフイベントとして迎えられるようにする場所だ。

溢れるような出血や、信じられないくらい血圧があがる様子や、胎児があまり元気がないモニターをみると、怖くなる。
でも、積み重ねてきたものの上に、チームとして医療で関わっているのだ、と自分を奮い立たせる。

今まで何万年も、世界中で妊娠と出産は紡がれてきた。
今もいわゆる先進国のような医療体制が整っていない地域もあると思う。
昔、世界中で、そして今も世界で、どんなふうにコミュニティで妊娠と出産が
守られてきたのか。
もっと知りたい。
そんな本はあるだろうか。

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