解決編だけどお腹痛い

「皆様にお集まりいただいたのは他でもありません。この館の大奥様、西園寺キミ子さん殺人事件の犯人がわかったのです」

 ざわ、と宴会用の鶴の間に集められた関係者がざわめいた。
 だが……そんな中で俺は割と冷ややかな方だった。なぜなら、今回の事件に関して、俺は何一つ関係ない身だからだ。

 断言しよう、俺は犯人ではない。
 なんなら目撃者でもなければ、事件関係者でもない。ただのモブ。

 現場となったのは、ここ、日本有数の元財閥一家である西園寺家が所有する屋敷、【華繚館(かりょうかん)】の一室。
 この度西園寺家の所有する銀行が五十周年を迎え、それを記念するパーティーが数日前から計画されていたのだが、昨夜、パーティーの最中にキミ子さんは姿を消し、今日の朝、死体となって発見されたのだ。それも密室の中で。

 確かに、死体が発見された時はそれなりに驚いたものだが、俺はただのアルバイト。それもパーティーの準備と当日のための臨時の短期間。

 言っちゃあなんだが、ど〜うでもいい。
 西園寺家の隠された闇とか、華繚館の秘密とか、密室の謎とか、めちゃくちゃどうでもいい。
 飲食店バイトで客に難癖をつけられ、「二度と来ないからな!」と言われた時くらいどうでもいい。
 雇い主の身内が死んでちゃんと給料がもらえるかどうかだけが心配だった。

「では、これより西園寺キミ子さんがいかにして犯人の毒牙にかかったのかを説明しましょう」

 だから、こんな今時珍しいくらいの私立探偵(山道で車が故障したので転がり込んできた)の解決編も、火サスでも見るくらいの気持ちで聞くことができるのだ。

「ほ、本当にわかったのか! 探偵!」

 こっちは事件後に呼ばれた、何故か探偵と顔馴染みの刑事(とんちんかんな推理を披露し、明らかに関係ない人を逮捕しかけるくだりはもう済んでいる)だ。こういうのいるよね〜。

 探偵は微笑みながら頷き、続ける。

「この事件は非常に奇妙なものでした。そもそも何故キミ子さんは主催のパーティーから人目を盗んで抜け出したのか。そして何故、密室の中で殺されていたのか。この二つがポイントとなるのです。まずは――」

(ぐぎゅる)

 ……。
 ……あれ。

 俺は、なんだか不意に居心地の悪さに似た何かを感じ取る。

「――あの時のキミ子さんのスピーチの内容によると――」

(ぎゅるる)

 いや、うん。
 ちょっと……うん。

 それは、授業中。あるいは仕事中。はたまた電車移動の中で感じると、ゾッとするもの。

「――つまり、あの時点でキミ子さんの食べ物に薬は――」

(ぐぎゅるるるるるる……)

 あーっ。これ……かもしれないな。
 あれかもしれない。

 セミナーを聞くみたいに畳の間に並べられたパイプ椅子に座る今、つま先がもじもじもじもじと泥を捏ねるようにのたうち回る。

「――よって、この点から、外部犯の可能性は消えるのです。ですから、非常に残念なことですが――」

 じわじわと冷や汗が噴き出、体は自然と前傾姿勢になる。
 無宗教を自負していた俺だが、心の中に、自然と神を呼ぶ自分の声が響く。

 これはもう、認めざるを得ない。

「――犯人は、この中にいるのです!」

 うんちが、したい。


華繚館の殺人
〜解決編だけどお腹痛い〜


 確実に、あれが理由だ。

 今日は寝坊し、しかもキミ子の死体が見つかったためにバタバタしていたせいで朝飯を食えなかった。そして警察の事情聴取やら探偵の聞き込みやらで、使用人の昼飯を食う時間はうやむやになってしまった。

 だから、そのせいと言わせてもらうが、この夏場に常温で放置されていた、捨てる予定だった昨日の残りのカキフライをつまみ食いした。

 腹に異変は少し感じていた。
 けれど、あの時。

『あ! 大変なんです! 探偵さんが、犯人が分かったからみんな来てくれって! 鶴の間に行ってください!』

 西園寺ユキ。
 キミ子の孫の女子高生。
 あいつが俺に呼びかける直前、俺はまさしくトイレに行こうとしていたのだ。

 屋敷の離れにあるトイレ、そのドアノブに手をかけたその瞬間だった。

 あの時行っておけば良かった。
 油断した、油断をしてしまった。
 このくらいなら気のせいかも、なんて思った俺が愚かだった。
 一縷の望みに賭け、負けた。

「あの……大丈夫ですか?」

 隣の声に、フラッシュバックから引き戻される。
 諸悪の根源、ユキがこちらを心配そうに覗き込んでいた。

 別に平気だよ、と笑みを浮かべた口の端に脂汗が落ち、しょっぱい。

 平気じゃね〜〜〜〜〜〜〜〜。
 全然平気じゃね〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。
 お腹痛〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い。
 超お腹痛〜〜〜〜〜〜〜〜〜い。
 腸が捻じ切れそうな痛みがすご〜〜〜〜〜い。

 そんな俺を尻目に解決編は続く。

「ここから導き出される人物は一人……あなたです! キミ子さんの妹である、マキ子さん!」

「そ、そんな! アタシじゃありませんよ!」

 お? もう犯人指名? 終わり?
 ッシャ! 終わったか! 終わり終わり終わり! 解散!!!!

「おっと、私はあなたを犯人だ、などとは言っていませんよ?」

 死ね〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!

 なにもったいぶってんだカス〜〜〜〜〜〜!!!!

 わかってんなら早よ言えやボケ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!

「ば、馬鹿馬鹿しい!」

 突然立ち上がったのは、西園寺家当主、西園寺金造だった。

「こんな茶番に付き合っていられるか! 儂は部屋に戻らせてもらう!」

 そ、それもそうだ!

 俺は天啓を受けたような気持ちになる。
 これは別に席を立てない期末テスト中でも、途中下車のできない列車の中でもない。
 トイレに行きたきゃ行けばいいのだ!

 そうと決まれば、俺も金造の後に続いて立ち上がり――。

「どちらへ!」

「言っただろう、部屋だ!」

「できれば、お控えいただきたく」

「……何故だ」

「この屋敷には、まだ見つかっていない証拠が残っているのです。それも、犯人にとっては致命的なものが……ね」

 え。

「探偵、それは本当か! 金造氏、申し訳ないが今しばらくここに留まってもらいたい」

 え、え。

「皆様にもお願いしたい。怪しく思われたくなければ……ね」

 えぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?!?!?!?

「皆様のアリバイ検証はここまでとなります。さて、続いてはいかにして密室は作られたのか、です」

 まだ続くの〜〜〜〜〜〜〜!?!?!?!?

 ※

 作戦を、立てねばなるまい。

 波の引いた今、揺り返しが来る前に俺の頭は高速で回転し、その結論に至った。

 このまま探偵にベラベラ喋らせていたら陽が沈んで月が昇って夜が明ける。
 そんなことになれば俺はうんちをブチ撒け大失禁。キミ子の肉体的な死の横で社会的な死を遂げることになる。
 だからこそ、これしかない。

 俺が解決編を進めるのだ。

 あの探偵の解決編、たまに「皆様はどう思われますか?」とかいうクソみたいな質疑応答が挟まる。
 三文ミステリ小説で、解決編で探偵キャラにあんまり喋らせ続けるのもどうかと思った作者がとる苦肉の策みたいなやつだ。

 そこに、切り込む。

「キミ子さんの部屋の扉は、2枚の障子でした。鍵がかかる構造ではありません。それなのになぜ、今朝は開かなかったのでしょうか……おや」

 探偵は俺のまっすぐ天に伸ばした俺の手に目を止め、頷く。

「そこのあなた」

「つっかえ棒がされていたんです。左右の障子、それぞれのレールに棒が置かれ、どちらの障子も開かないようにされていたんじゃないでしょうか」

 ……どうだ?

「素晴らしい。まさにその通りです」

 よし! これで起こり得たはずの“ぐだぐだ”の一部がスキップされたはずだ! この調子で行くぞ……。

「ですが、窓には鍵がかかっていました。犯人はどうやって、部屋の内側につっかえ棒を仕込んだのちに外へ……」

 🙋‍♂️

「……そこのあなた」

「障子は、簡単に外れます。つっかえ棒を先に置いてから、障子を外し、外に出てから元に戻す」

「……素晴らしい。しかしそうなると疑問が残ります。犯人は何故、簡単に破られ、見破られる密室を残したのか? それは……」

 🙋‍♂️

「……そこのあなた」

「犯人は、本当はそこから出入りしたわけではないからです。障子を通って出入りしたのであれば、館の中にいた人間が疑わしい。そう見せかけたい犯人は、わざと偽の脱出ルートを用意した」

「……うん。となると……」

 🙋‍♂️

「……なんでしょう」

「犯行当時のアリバイの際、外にいた人物が怪しい。ですよね?」

「そうなんですが、なんなんですか?」

 よしよしよしよし! いけてるいけてるいけてる!
 ほとんど口から出まかせの適当だが、奇跡的に正解を踏み続けている!
 もしかしたら俺には探偵の才能があるんじゃないのか?
 腹の波も引いたままで、さっきまでのヤバさが嘘のようだし、なんだったらもう別に腹の痛みも治っちまうかもな! ガハハ!

 ※

 痛〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い。
 お腹痛〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い。
 調子乗りましたごめんなさい神様二度と貴方を愚弄する真似は致しません善行を積み重ねます悪行を濯ぎますおばあちゃんとか全部横断歩道渡らせます外国人とか全部案内しますお墓とか全部洗いますだからどうかどうかどうかお腹痛〜〜〜〜〜〜〜〜〜い。

 完全に揺り返しがきた。

 アレほどまでに推理に口を挟んでいた俺が、突然黙りこくって前傾姿勢になって祈るように手を組んでいる姿に、探偵は奇妙なものを見るような顔をしていた。何見てんだボケ! 早く終わらせろグズ!

 あ〜〜〜もうこれ、オナラかな〜! うんちかな〜! 実はオナラだったりしないかな〜! オナラならもう出しちゃおうかな〜!

 うん、それがいい。
 この際もう、「シリアスな場面でうっかりオナラしちゃう陽気なお兄さん」キャラで行こう。どうせこのバイトも終わりだ。多少ファニーなキャラクター性を見せても、俺の人生に何ら影響はないのだから。

 よし……いくぞ……慎重に……慎重に……。
 オナラだけ出す。うんちはさせない。オナラだけ出す。うんちはさせない……。

 いくぞ……っ!

 びちっ。

 あぁあ〜〜〜〜〜〜これうんちだ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!

「――さて、いよいよ大詰めです。ここまで準備を整えた用意周到な犯人。しかし彼は一つミスを犯していました。外から逃げた際、凶器を隠そうとした犯人は、その時服を枝に引っ掛け、一部が裂けて残ってしまったのです。その欠片が、これです」

 ……あっ、ちょっとそれどころじゃなかったけど、なんか探偵が掲げている。
 それは光り輝く金の布切れだった。
 それに俺は見覚えがあった。

 西園寺金造。

 屋敷の主人であり、キミ子の夫。
 彼が今も着ている、その羽織と同じ輝きだった。

「犯人は、貴方ですね? 西園寺金造さん」

 金造は顔を青くして、後ずさる。
 尻餅をついたところで、刑事が取り押さえ……そして金造は拘束された。
 親族から、啜り泣く声が聞こえてきて……。

 あ? 終わり?

 終わりっすか?

 あーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!

 よっしゃよっしゃよっしゃよっしゃよっしゃ!!!!

 よっしゃ!!!!!!!!!!!!

 耐えた! 俺は耐えたぞ! 耐えたんだ!

 気づけば、また俺の波は引いていた。
 これなら、余裕でトイレには間に合うだろう。

 とはいえ一応悲しんでいるふりもしておく。大人だからね。

 ※

 そこからは、楽なもんだった。
 一応、パトカーに乗せられる金造を涙ながらに見送る親族の後ろで悲しんでるふりをしていた。でも、やばくなったらすぐトイレに行ける。

「全部……終わりましたね」

 ユキが隣でポツリとつぶやく。

「あ?」

 何が? と思いかけたけど、ああ、そうだ。そうだね、うん。終わったね。はい。

 何か気の利いたセリフでも言おうかと思った、その時。

(ぐぎゅるるるるるるるるるるるるるるる……)

 過去一番の大波が来た。

 でも、ね!
 それがなんだってんだい! って、ね!
 もう俺様を邪魔するもんはいねえってもんよ! って、ね!

 俺は現実では歩幅を小さくしつつ、心の中では軽やかにスキップする、そんなアンバランスな心身で離れのトイレに向かった。

 残り10メートル……5メートル……1メートル。

 これで終わる。ようやく終わる。

 俺はドアノブに手をかけ――。

「一つ、わからないことがあるんですよ」

 ゾッ、とした。

「犯人は一体、凶器をどこに隠したのか……って」

 探偵の声だ。
 それは俺の後ろから聞こえる。

「な、な、何を言ってるんですか? そんなの、もうどうでもいいんじゃないですか……犯人、捕まったんでしょ?」

 俺は、恐る恐る尋ねる。舌がもつれる。腹が痛い。うんちしたい。

「現場から外へ逃げた犯人は、凶器を隠す必要があった。でも、その辺の茂みに放り出すには危険だ。だからと言って、穴を掘る時間はない……となると……あとは、【離れのトイレ】しか、隠すところはありません」

「だから! 犯人は捕まったんでしょう! 俺はただ、トイレに行きたいんだよ!」

 そこで俺は気づいた。滴る脂汗、青い顔、もつれる舌……これではまるで……俺こそが……!

「金造さんですが……彼は、実は犯人ではありません。真犯人を誘き出すため……芝居を打ってもらったんです。証拠を隠滅するため、凶器の隠されたトイレに現れる真犯人を……」

 え、え、え……。

 え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?

「いや! マジで俺! トイレに行きたいんですよ! だからマジ……ほんと、ほんとすみません!」

 もう無理やり入っちまおうとドアを開けようとドアノブを回す!

「貴方が探しているものは! ……これですね?」

 探偵の大声に体が跳ねる。そして……彼が掲げているであろうそれに、少しだけ興味が湧いた。
 だから、ほんの少しだけ振り返る。

 証拠品を入れるポリ袋に入っていたのは――。

 “アイスピック”、だった。

 あ、ぜ〜んぜん知らない。

「確保ォーッ!」

 茂みに隠れていた刑事が、部下を引き連れて俺に飛び掛かる!

「あっ! あーっ! あっ!!!!」

 俺はなす術なく組み敷かれる。腹の中が振動でかき混ぜられる! トイレ! うんち! うんち! トイレ! うんち!!!!!!!!!!!!

「俺じゃない! お、ぜ、全然、俺じゃない! 殺す理由、ないだろ!!!!」

 うんち出る!!!!!!!!!!!!!

「すでに調べはついてるんだよ」

 刑事が言う。

「お前……西園寺キミ子の……隠し子だったんだな? DNA鑑定はとっくに出ている。お前とキミ子は……親子の関係だと、な」

「え!!!!」

 ビちッ!!!!
 びっくりしすぎてちょっと出た。
 でもセーフ。尻肉で止めてるから。

 てか、えっ。
 えっえっえっえっ。
 えっ。

 刑事の差し出す書類を見る。う〜わマジじゃん。初めて知った。

「お前は、本来なら裕福な家系に生まれたはずが、存在を隠され、不遇な暮らしを強いられ……それを恨んで、バイトとして潜入したんだ。西園寺キミ子を殺すために」

 全ッッッッッッッ然知らない。
 今の父さん母さんに不満とか別にない。
 楽しく暮らしてたし、大学行かせてもらってるし、これは小遣い稼ぎのつもりだった。iPhoneの新型でるし。
 俺は何も知らずに生きてきたんだな〜。親の愛だね。

「さあ、いくぞ」

「あぁあ〜! せめてトイレに行かせてください〜! ほんとなんです〜! あー! あー! あぁあー!」

「暴れるな! 立て!」

「ゐーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「騒ぐな!」

 もうやばい! マジのやつ! 一回油断した分もうやばい!

 油断! あの時油断しなきゃよかった!

 俺はいっつもこう! 大事なところで油断をする!
 それでついには刑務所でクソを漏らすのか!
 二度と! 二度と油断など……?

 油断……油断?

 俺は……俺がやらかした、“最初の油断”って、なんだっけ?

「19時34分……逮捕だ」

 ※

「あ!」

 俺は、手錠をかけられる直前、不意にピースがハマり込み、声を上げた。

「た、探偵!」

 呼ばれ、振り向く探偵は訝しげにこちらを見ている。

「俺は……【俺はいつ、鶴の間に現れた】!」

「いつって……“私が入るよりも前、一番最初”です。解決編を行うため、皆さんを集めた時……私よりも先、一番最初に貴方はいました」

「ついでに聞くが……探偵。お前はどうして、鶴の間で解決編をやろうなんて言い出したんだ」

「それは……広くて人が入りやすいと、聞いたからですが?」

「いつ! どこで! 誰に!」

「それは……ッ!」

 そこでようやく、探偵も気づいたのだろう。
 俺たちは犯人の罠にかかっていたことに。

 解決編の前に時間は遡る。

 俺は腹の具合が悪くなり、離れのトイレに入ろうとノコノコ現れた。
 しかし、そこには凶器が隠されていたのだ。
 俺が見つけてしまうかもしれないと危惧した真犯人は、慌てて俺に声をかける。
 そして、そこから離れるように声をかけたのだ。
「解決編をやるから、鶴の間まで来い」
 ……と。

 そして、俺が鶴の間に入った“後”で、真犯人は探偵と接触。先ほど俺についた嘘の辻褄を合わせるため、「解決編なら鶴の間がおすすめだ」と囁いた。

「つまり、犯人は……」

「私、です」

 鈴のような綺麗な声は、まるで手で握り込んで振ったかのような、低く、くぐもって聞こえた。

「すべて、私がやりました。その人では、ありません……」

 西園寺ユキ。

 彼女こそが真犯人だったのだ。

「西園寺ユキさん……どうして、貴方が」

「私は、あの人に西園寺家の次期当主となるべく教育を受けていました。でも、私は……」

 これはまた、長くなるだろう。

「私には許嫁がいました。でも、本当は望んでいない!」

 だけど、不思議と俺は晴れやかだった。

「逃げ出したい……でも、どこにも味方はいない!」

 聞こう。解決編の時のようにではなく、今度は、ちゃんと。

「その時、あの人は言ったんです。『お前なんか、産まなきゃよかった』……それを聞いて、私は、私は……ッ!」

 もう、トイレなんて必要ない。

 どこまでもスッキリとした気分で、俺は……。

【終】

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