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【育児】ハローと呼ばれて、じゃじゃじゃじゃーん

朝8時。
最近、毎朝この時間までには、身支度を整えることにしている。なぜなら、ご近所の子どもたちに大声で呼ばれるからだ。

「ハロー!!!!」と、
今朝も外から元気なかわいい声が聞こえる。
よいしょ、と立ち上がり、呼ばれたリビングの窓際に到着するまでの間も、
ずっと「ハーーーローーーーー!!!」と大声で呼ばれ続けている。
今日の声の主は、お隣の双子ちゃんたちである。

我が家のまわりには新しい家が多く、若いご家族が多い。我が家のお向かいさんもお隣さんも、子どもたちはみんなまだ幼稚園児たち。しかもお隣さんは双子ちゃん。その双子ちゃんと、お向かいの姉弟が、幼稚園バスが来るまでの間、私を呼んでくれるのだ。

私は「おはよー!」と毎朝窓を開け、お母さんともご挨拶をする。双子ちゃんは、
「今日から手袋してるんだよ!ふわふわだよ!」
「今日はあたらしい水筒をもってくんだよ!」と、私に色々報告してくれる。

癒し。幸せ。
めちゃくちゃ可愛い。
39歳、近所のおばちゃん、朝の至福の時。

始まりがいつだったのかは覚えてないが、
かわいい子たちに家の前で会うたびに、私は「Hello!」とあいさつし続けていた。返事も教え込んだので、なんと子どもたちは、「Hello!」と言えば「Hello!」を、「How are you?」と聞けば「Good!」と答えるまでになった。

教育って、素晴らしい。

元々小さい子が好きなので、お向かいさんの姉弟にもお隣の双子ちゃんにも、顔を合わせるたびにもちろん話しかけまくり、「Hello!」とコミュニケーションを取りまくった。
その結果、幼稚園から帰ってくるたび、「ハーロー!!」と窓まで駆け寄ってきてくれるほどになった。かわいい。かわいすぎる。

そんなある日。思いもよらぬ形で、
ご近所さんと私、両者における、決定的な齟齬が判明する。

「はい、ハロー!ハローにもおかしあげるね!」

???
ハローにもお菓子あげるね??
え、もしかして君たち、私の名前が「ハロー」だと思ってないか?

もしやと思い、お母さんたちの顔を見たら、すみません…、の顔で苦笑いしている。

Hello!とあいさつし続けた結果、
それが私の名前だと思われたらしい。

なるほど。そういうことですか。
お宅では私はハローさんで通ってるわけですね。
いいじゃないですか。
隣の家のハローさん。
いいじゃないですか。
もう、それでいきましょう。
私は受け入れるのが早い。

「ハローにもお菓子くれるの?ありがとう!」と笑顔で答える。

そうして、私はハローさんになった。



冒頭に戻ろう。
毎朝「ハロー!!」と呼んでくれる子供たち。

ということは、あれか。きみたち。
あれは、私に英語であいさつをしてくれている訳ではないのだな。
隣の家のおばちゃんを、
大声で、呼び捨てで、毎朝呼びつけているのだな。
そうなると事情が変わってくるけども。

それでも。
勘違いをしたままだったとしても、かわいい。
めっちゃかわいいので、許す。

今年の夏、窓を開けたまま料理をしていた私が、間違ってグラスをバリーン!と割ってしまった時があった。
「ギャー!」と声を上げた私に、
「ハロー!!だいじょうぶー??」
と、お向かいの姉弟が叫んでくれた。
「ハロー、なに割れたのー?」
「グラスだよー!」
「ハローけがしたのー?」
「大丈夫だよー!」
お互い窓を開けたまま家の中から叫ぶスタイル。
(ご近所の皆さん、うるさくしてすみません。)

かわいい。癒し。幸せ。

そして、毎朝、我が家の窓の下で「ハロー!!」と叫びまくる我が子を、
「うるさくてすみません…」と申し訳なさそうに頭を下げるお母さんを見て私は気づいた。

それは10年前。
私たちが北海道に移住してまだ間もない頃。
私もああやって頭を下げていた頃があった。

その頃、私たち家族は実家の隣の空き家を借りて暮らしていた。

夏は窓を開けてるから、私のドスの聞いた怒鳴り声も、子供たちの虐待されてるのかのような泣き声も、全てがご近所に筒抜けだったと思う。

とある日、数軒お隣の優しいご婦人に
「秋になるとお子さんたちの声が聞こえなくなってさみしいわ。」と言われた。

完全に苦情だと思った。

あの、京都人の言う、
「お宅のお嬢さん、ピアノえらい上手にならはったなぁ」的な。この京都弁が合ってるかは知らんけど。

「うるさくて、すみません!!」
と平謝りしてた私だが、
もしかしてあれは、本当に、言葉のとおり、純粋に私たちの声が聞こえなくてさみしい、と思ってくれてたのかもしれない。と、最近ふと思った。

なぜなら、今の私がそうだから。

逆を言えば、あの10年前の日々。
夏の間、私たちの生活感丸出しの、子どもたちの喧嘩の声や泣き声、私の「うるさーい!」の声(←うるさいのはお前だ、当時の私よ)、そして三姉妹の楽しそうな笑い声。

そんな声が、もしかしたら、夏の空気に乗って、ご近所さんをほっこりさせてたのかも。

いや、これは実際かなりプラス思考だけれど。
本当にうるさいと思ってるご近所さんもたくさんいただろうけども。

少なくとも私は、近所の子どもたちの声が聞こえてくる今のこの環境を、迷惑だなんて1ミリも思ってない。

お隣の双子ちゃんが毎朝
「ハーーーローーー!!!!」と叫ぶ声も、お向かいさんの子が、私の姿が見えるたびに手を振ってくれることも、どこかから時たま聞こえる泣き声や、笑い声も全部、私の心を温かくしてくれるし、ほっこりと癒してくれる。

なんなら、朝8時が近づくと、そろそろお声がかかるのではと、ちょっとソワソワするくらいだ。

だから、お母さん。

お母さんが思っている以上に、うるさくなんてないんですよ。
迷惑かけてすみません、なんて頭を下げなくて大丈夫です。

・・・と、なんなら謝りまくっていた10年前の私にも、伝えてあげたい。

もちろん、本当に迷惑な事をする子どもも親御さんも世の中にはたくさんいるだろうけど、でも、子どもはそもそも大声で泣くものだし、駄々をこねるものだし、興味があるものにキラキラする生き物だもんね。

世の中のお母さんが思っているよりも、実はずっと、迷惑をかけてるわけじゃなくて、そんなあなたたち親子を「うちもそんな頃があったなー」って、純粋に「あぁ、かわいいなー」って、温かい目で見てる人もいるんだよ、って、伝えてあげたい。

そんなふうに、思った。

お隣の双子ちゃんも、お向かいの姉弟も、きっとすぐ大きくなる。
気づいたらすぐ小学生になり、中学生になり、うちの三姉妹みたく多感な時期を迎える。

毎朝「ハーロー!」って挨拶に来てくれてたこと、覚えててくれるかな。

今から思いを馳せて、もうすでに、
ちょっとさみしい。

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