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歯車の街

 歯車の塔が目の前に聳え立っている。
 カチッカチッカチ、と小刻みに気持ちのいい音を奏でて。
 俺はこの音が好きだ。
「やあ、0。こんなところで何してるんだ? 塔なんて見ても何も出ないぞ?」
「89……。そんなことは分かりきってるよ。でも、この音が好きなんだ」
「ほんとよく飽きないな。俺だったらすぐに眠っちまう」
 ここは俺が作った歯車の街。
 塔はその中でも心臓と呼べる。
 脈打つように塔は動いている。
 これで安心して今日も1日過ごせそうだ。

 ギー……、ガタンッ。ギー……、ガタンッ。
 俺が苦い茶色のオイルを飲んでいる時、街が揺れた。それと同時に塔の音も軋んでいる。少し遅れて叫び声が聞こえてきた。
 何も考えずに行きつけのお店から飛び出して、真っ先に歯車の塔へ向かう。

 歯車の塔は人を巻き込んで、噛み合わせが悪くなっていた。巻き込まれた人は歯車の残骸となり、バキバキと音を立てて砕けていく。
 しばらくすると、歯車の塔は何事もなかったかのように順調に動き出した。
 カチッカチッカチッ、カチッカチッカチッ……。

 ⚙️⚙️⚙️

 既に歯車の塔は錆びつき、動きも鈍くなっている。
 あの心地いい音もなく、耳障りな音を奏でる。
 俺の心臓もオイルを流し、体表から黄色い液を出している。
 ガガッ、ギギッ、ジーッ、ガガッ、ギギッ、ジーッ……。
 俺の音に合わせて悲しみの音を叫んでいる。
「おや、またこんな所に。0? オイルはもういいのかい?」
「FF……。ああ、もういい」
 
 とうとう歯車が止まった。
 あの音も何も響かない。
 ただの塔になった街は黒く、どんよりとしている。
 塔のそばに寄りかかっている青年も、力無く横たわっている。
 元々の街がそうだったように。

 __歯車は回る__
 __願いを込めるように、生にしがみつくように__


あとがき

文化の日だから、と何も考えずに書きました。
元々、こういった世界が好きで。歯車フェチなので絶対書きたかった。
これがバッドエンドと捉えるかハッピーエンドと捉えるか……。

今後、街シリーズとして「どこかの街」を書こうかな。と思ったり。書きたい世界観、まだあるんですよね。
ただ、皆さんの好みとは外れると思います。
こういう、オチがないものとか、ちょっと気持ち悪い話とか好きなので……。
もちろん、幸せな話も書くかもしれません!

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