#26『アーチャー伝説』から学ぶゲームデザインの引き出し(2)「ランダム獲得のスキル」
本記事は遊んだゲームから、一つのアイデアに注目してゲームデザインの実例を勉強していく連載記事です。
ゲーム開発のプランナーやプログラマー、これからゲーム制作を志す方へ向けて、アイデアのインプットのための引き出しとなれば幸いです。
前回:#25『アーチャー伝説』から学ぶゲームデザインの引き出し(1)「攻撃と回避の二律背反」
ゲームの紹介
『アーチャー伝説』は、「ハックアンドスラッシュ」系のスマホ用アクションゲームです。
弓を武器に戦う主人公を操作し、敵をどんどん倒しながらステージクリアを進んでいきます。
RPG的な成長要素もふんだんに盛り込まれており、稼いだお金で主人公や武器・防具を強化し、更に難しいステージに挑んでいくという王道の成長要素もなかなかやり込めます。
アーチャー伝説 / Habby
基本無料でスタミナ性。
ゲーム内広告(リワード動画広告)と、様々なタイプの有料課金がありますが、強制的に見せられる広告はなく、無料でも充分に楽しめるゲームです。
一時期、本ゲームの広告を大量出稿していたイメージがあるので、それで知っている方もいるかもしれません。「Google Play Best of Awards 2019」のインディー部門大賞も受賞しているようですね。
レベルアップでのスキル獲得
今回は「ランダム」がテーマですが、その前に前提として、このゲームの「スキル」システムについて説明をします。
『アーチャー伝説』では、一度ダンジョンに潜る度に数十のステージを踏破していきます。
その道中、レベルアップする度に何か1つ「スキル」を獲得することができるのですが、例えば……
・攻撃力がアップ
・攻撃速度がアップ
・ライフの最大値がアップ
・クリティカル率がアップ
のような基本的なスキルの他に……、
・前方に打ち出す矢が+1される
・矢が、前と斜めの3方向に打ち出される
・矢が、後ろ方向にも打ち出される
・矢が敵を貫通する
・矢が壁で跳ね返る
などのスキル、更には……、
・矢に火/氷/雷の属性効果が付く
・自分の周りに魔法の剣を発生させる
・自分の周りに防御用の盾を発生させる
といったように様々な効果のスキルが用意されています。
ちなみに、これらのスキルはダンジョンを抜けると失われてしまう性質のもので、次にダンジョンに挑む時はまた1からスキルを獲得していくことになります。(レベルも1に戻ります)
この辺りは『風来のシレン』シリーズなど、「ローグライク」ゲームの設計に似ています。
(※補足ですが、このスキルシステムとは別に、装備品のパワーアップやキャラクター自身のステータス向上など永続する成長要素もあります)
選ぶスキルで変わるスタイル
そして、獲得したスキルによって戦い方のスタイルが変わってきたり、相性の良いスキル組み合わせがあったりするのが、本作の面白い点です。
どういうことかというと……、
・とにかく攻撃力を上げ、敵を一体ずつ仕留めるスタイル
・矢の射出方向を増やし、「反射」を取り、広範囲攻撃で戦うスタイル
・自分の周りに魔法の剣を出すスキルを沢山取り「接近戦」で戦うスタイル
など、選ぶスキル次第で様々なプレイスタイルが生まれるようにゲームデザインされています。
「ランダム」で獲得するスキル
そして、本作のシステムの肝ですが、これらのスキルはレベルアップの度に「ランダムで選ばれた3種類から、1種類を選んで獲得する」といったシステムになっています。
そのため、毎回のゲームプレイで必ずしも自分の望み通りのスキルが揃えられるわけではありません。
スキルのランダム獲得(アーチャー伝説 / Habby)
プレイヤーとしては、最初にランダムに選ばれたスキル候補をみて、
「じゃあ今回のプレイは接近戦スタイルでいってみようかな」
「とにかく広範囲攻撃のスキルばかりを選んで取っていこう」
「欲しいスキルが出なかったから、たまには属性攻撃を試してみようか」
のように、いつもと違ったプレイスタイルも選ぶことがあるように誘導されています。
そのため同じステージに何度も繰り返し挑む中でも、異なったプレイスタイルや攻略法を模索することになります。
「選択肢をランダムにする」というデザインによって、ゲームが単調な繰り返し作業に陥るのを回避した、良いシステムデザインが実現されているのではないでしょうか。
考えてみよう
手札から行動を選ぶようなカードゲーム(例:大富豪や麻雀、マジック・ザ・ギャザリングなど)は、選択肢(=手札)をランダムにすることで、毎回のゲームプレイを違った体験にしている好例でしょう。
トレーティングカードゲームの『マジック・ザ・ギャザリング』は、毎回のプレイの手札もランダムですが、そもそもの最初のトレーディングカードパックを買った時点で、プレイヤー毎の所有カードがランダムとなるのも大事な点です。
その時たまたま「青」属性の強いレアカードを引いた人は「青」のカードを集めてデッキを組みたくなりますし、「赤」属性のレアを引いた人は「赤」を集めたくなり、自然とカードをトレーディングをするようになります。
本来はゲームの外の話である「カードのトレーディング」自体も、プレイヤー毎に違った体験となるように設計されているのは素晴らしいですね。
話が少し逸れましたが、あなたの開発しているゲーム、構想しているゲームで、ゲームの戦法やプレイスタイルが固定になってしまっているところは無いでしょうか。
例えばRPGの場合、「物理で殴る」だけが最適だったり、逆に「全体攻撃魔法を連発」だけが最適だったりしないでしょうか。
いくつかの武器(やスキル)があったときに、誰もがこれを選ぶよね、といったものが決まってしまわないでしょうか。
上記に書いたような問題を解決するには、もちろんステージや敵のバリエーションを増やしたり、ゲームバランスを絶妙に設計することも大事です。
ですが、今回は「選択肢をランダムにする」アイデアで、いつもと違うプレイスタイルを選ぶ機会を生み出せないかを考えてみましょう。
例えば……、
・キャラの初期スキルセットがランダムで決まる
・武器屋のラインナップが毎回入れ替わる
・バトル中の魔法の待機ターン(クールダウンタイム)が毎回ランダム
など、ランダム性を取り入れるアイデアを沢山考えてみましょう。
プログラマーの視点
「乱数」はゲームにランダム性、複雑性をもたらす重要な要素です。
一方で、プレイヤー毎に毎回のゲームプレイ内容が変わってしまうため、バランス調整や不具合の再現確認がしづらくなることも考えられます。
プログラマーとして出来る工夫は、選ばれた乱数をデバッグ用ログに残しておくとか、調査のために乱数のシード値を固定し、同じ乱数列を再現できるようにする、などが考えられますね。
また、プレイヤーがセーブ・ロードの繰り返しで「いい乱数を引くまで待つ」プレイが出来ないように、事前に乱数列や乱数のシード値をセーブデータに保存しておくといったテクニックもあります。
乱数の取り扱いは思わぬ落とし穴が多いポイントのため、十分に注意しましょう。
皆さんも一緒に色々とアイデアを考えて、より良いゲーム作りのための鍛錬を積んでいきましょう。
本記事がゲーム制作をする皆さんのインプットに役立てば幸いです。
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本連載の趣旨については下記記事をご覧ください。
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