#23『ジラフとアンニカ』から学ぶゲームデザインの引き出し(2)「視線誘導のオブジェクト」
本記事は遊んだゲームから、一つのアイデアに注目してゲームデザインの実例を勉強していく連載記事です。
ゲーム開発のプランナーやプログラマー、これからゲーム制作を志す方へ向けて、アイデアのインプットのための引き出しとなれば幸いです。
前回:#22『ジラフとアンニカ』から学ぶゲームデザインの引き出し(1)「Webコミック風のイベントシーン」
ゲームの紹介
『ジラフとアンニカ』は、メルヘンチックな絵本のような世界で、猫耳の少女アンニカがふしぎな島を探検する、3Dアクションアドベンチャーゲームです。
ジラフとアンニカ / atlier mimina
本作は、不思議な島に迷い込んだ主人公のアンニカが、島中を探検したり、島の住人たちと会話したりしながら、謎を解いていく冒険モノです。
3Dアクションゲームですが攻撃やバトルなどは無く、ダンジョンの奥にいるボスとの戦いもリズムゲームとなっており、見た目どおりの優しい世界感が特徴です。
プレイヤーは迷子になる
本作のような広いマップを探索するゲームを作るとき、2Dであっても3Dであっても突き当たる問題があります。
それは、プレイヤーがマップの中で「迷子」になってしまうということ。
ゲーム制作者は、建物やイベントなどマップ中のどこに何があるのか、次の目的地はどこなのかということが全て頭の中に入っています。
しかし、プレイヤーにとっては初めて見るマップ。
分かれ道で「右か左か」という迷い方ならまだマシですが、そこに分岐の道があることにすら気づいて貰えない場合、大きな問題になります。
プレイヤーはそこに「道がない」と思い込んでいるので、次に行くべき箇所が見つからず、無駄にマップ中を長時間さまよい歩いてしまうことになります。
開発者が分かるように道を作ったつもりでも、自然地形に囲まれた3Dマップの場合、他の風景に気を取られて、見落としたまま通り過ぎてしまうプレイヤーもいるかもしれません。
また、だだっ広い草原のようにフィールドがひらけ過ぎていて、一見どっちの方角に進んだらよいか分からない、というタイプの迷い方もあるでしょう。
そのような場合にはどうしたら良いでしょうか?
さりげない視線誘導のオブジェクト
そのような場合、プレイヤーの視線を目的の方向に誘導することが重要です。
とはいっても迷子に配慮しすぎて、駅の案内表示のように「次の目的地はこちら」と看板を置きまくったりしたら、ゲームの雰囲気が台無しになってしまいます。
それではプレイヤーも「歩かされている」感を感じてしまいますので、視線誘導にはセンスやさじ加減が問われるところです。
本作「ジラフとアンニカ」ではどういう工夫がされているかというと、プレイヤーが向かうべき重要な道の方向に「かがり火」のオブジェクトがさりげなく配置されていることがあります。
これによってプレイヤーは、
「ん、向こうの方にかがり火が見えるぞ?」
↓
「そっちに何かあるのかな?」
↓
「あっ、ここに渡れる橋があった!」
というように、次に進むルートに自然に気づけるように工夫されています。
↑ 画面中央右にかがり火が見える
↑ 橋があった!
「かがり火」というオブジェクトは、夜でも明るくて見落とさないですし(※本作は昼夜の時間経過がある)、ゆらめく動きがあるため視線も誘導しやすく、舞台となる島の自然の中に配置しても違和感がないということで、なかなか良い選択と言えるのではないでしょうか。
他のゲームの事例
こういった視線誘導のテクニックは数多くのゲームに使われています。
多くのRPGでは、草原の中に道を置くことで、それに沿って歩くよう促し、目的地に誘導しています。
『スーパーマリオブラザーズ』ではコース上に配置されている「コイン」がプレイヤーの視線や行動を自然に誘導しています。
ゲームUIでも「視線誘導」という意味では似たような話があり、その画面で一番押して欲しいボタンに動きや明滅を付けたりすることで、自然にゲームを進行できるようにする、といった工夫がされているものもあります。
(ソーシャルゲームなどで、新規ガチャやイベントが追加される度に「押して欲しいボタン」が増え続け、ホーム画面がゴチャゴチャになってしまっている、といった反面教師の事例もたまに見かけますね……)
視線誘導を考えてみよう
あなたの開発しているゲーム、構想しているゲームで、プレイヤーの視線が迷ってしまうような場所、要素はないでしょうか?
マップ上で次の目的地が分からないところ、メニュー画面の中でどこに注目していいか分からないところなどを考えてみましょう。
それをさり気なく解消するには、どのような方法があるでしょうか。
「目を引くオブジェクトを置く」「マップを修正して自然に目線が向かうようにする」「逆に特に意味のない部分を目立たなくする」「UI要素に動きを付けて目立たせる」など、色々なアプローチを考えてみましょう。
プログラマーの視点
マップ中のオブジェクト配置や、ゲームUIの演出付けなどは、制作ツールやエディタが充実していれば、プランナーやデザイナーの作業のみで工夫し完結できる場合もあるでしょう。
しかし、使っている開発環境やゲーム仕様次第では、プログラマーがコードを書いて手付けする必要があったり、例えば「かがり火」の炎のようなエフェクト表示に未対応なので要望に応えるには改修が必要、のようなケースもあるかもしれません。
「無くてもゲーム自体は成立する」要素なのでこういった問題は後回しにされがちですが、こういう点をプログラマーがしっかり協力することで、遊びやすく丁寧な作りのゲームになっていくことでしょう。
皆さんも一緒に色々とアイデアを考えて、より良いゲーム作りのための鍛錬を積んでいきましょう。
本記事がゲーム制作をする皆さんのインプットに役立てば幸いです。
本連載の趣旨については下記記事をご覧ください。
他の連載記事はハッシュタグ「#ゲームデザインの引き出し」からどうぞ。
(※本記事中のゲーム画像は、「引用」の範囲で必要最低限の範囲で利用させて頂いています)