見出し画像

#15『Gorogoa』から学ぶゲームデザインの引き出し(3)「テキストに頼らない表現」

本記事は遊んだゲームから、一つのアイデアに注目してゲームデザインの実例を勉強していく連載記事です。

ゲーム開発者や、これからゲーム制作を志す方へ向けて、アイデアのインプットのための引き出しとなれば幸いです。

ゲームの紹介

『Gorogoa』(ゴロゴア)は、まるで絵画のような精緻なイラストにより描かれた、幻想的な世界が舞台のパズル・アドベンチャーゲームです。

2017年にiOS, Switch, Windowsでリリースされたのを初めとして、様々なプラットフォームに移植されています。

画像1

Gorogoa / Annapurna Interactive

プレイヤーは2x2マスの中に置かれた四角いパズルピースの中をタップして、アドベンチャーゲームのように絵画の中を「探索」していきます。

まるで童話のようなストーリーがノン・テキストで紡がれる中、1つのパズルピースが2つの世界に分離したり、また、別々のピース同士が繋がり合ったり、相互作用を与えながら不思議な物語が進行していきます。

ゲーム自体のボリュームは数時間で終わるようなものですが、作者のジェイソン・ロバーツ(Jason Roberts)氏による幻想的なイラストと、不思議なパズルギミックが魅力的で、濃密な体験を感じさせてくれるゲームです。

テキストに頼らないストーリー

本作では、タイトル画面やスタッフロールなど一部を除いて、ゲーム本編では基本的にテキスト(文字)は出てきません。

人物は登場しますが、その登場人物たちも何かを語るわけではなく、しぐさやアイコン(図文字)などで何かを伝えてきます。

画面をスクロールする必要があるときも、「右に進んでみましょう」などと表示されるわけではなく、小さな右矢印アイコンが表示されるのみです。

このテキスト無しのゲームスタイルには、大きく以下の2つメリットがあります。

1)雰囲気を最大限に生かし、プレイヤーの想像力を働かせる効果
2)ワールドワイドでのアプリ展開がしやすい効果
3)直感的に分かりやすいアイコン情報表示


1)想像力を働かせる効果

多くのゲームではテキストでの場面説明を行います。その方が、プレイヤーにとっては状況が伝わりやすいから親切という考え方もあるでしょう。

しかし、さじ加減を間違えてしまうと、プレイヤーが想像を働かせる余地を奪ってしまうこともあります。

本作『Gorogoa』は、不思議さや曖昧さが魅力的な世界なので、
「この世界は一体何なんだろう?」
「この人物は今、どんな気持ちなんだろう?
「この不思議な図形は何を表しているんだろう?」
といった考えを巡らせる、そのこと自体もゲームの一部です。

これを、例えば……
(※ネタバレを避けるためゲーム本編には即していない例にしています)
「ここは不思議な童話の世界……」
「この少年はとても悲しんでいました」
「あの図形は天と地を表しています」
のような説明をいちいち付け加えていたら、想像の余地が全くなくなってしまいますし、一言でいえば「野暮」というやつになってしまいかねません。


テキストを使わないで説明するというのは、演出力が問われるので難しいことです。

しかしその分、雰囲気を際立たせる効果も狙えますし、いちいちテキストを読まされるのが面倒という問題や、情報量が増えすぎて画面がうるさいといった問題も解決することができます。

2)ワールドワイドでのアプリ展開

また、近年のゲーム市場はワールドワイドですから、出来るだけテキストに頼らない方が世界展開をするときに有利になります。

単純に、ゲームの中にテキストを入れると、その分だけ翻訳の作業量が大きくなります。(日本語、英語だけならともかく、10ヶ国語、20ヶ国語に対応するときのことを考えてみましょう)

言語によっては文字数が変わりますから、UIやグラフィックのサイズ・位置の調整が必要になります。

また、元のテキストが持っている微妙なニュアンスを、世界のそれぞれの言語で適切に表現できるかは分かりません。

3)直感的に分かりやすいアイコン情報表示

これは『Gorogoa』の話では無いのですが、テキストに頼りすぎない方が良い箇所として、UI画面などのゲーム内の情報表示をスッキリさせるという効果もあります。

例えば、武器屋の看板に「武器屋」とテキストで書くのではなく、剣と斧のアイコンマークを表示しておく。
魔法の属性説明で「炎魔法」「氷魔法」とテキストで書くのではなく、火や氷のアイコンマークを表示しておく、など。

テキストに頼らないUI

どちらのUIがより直感的でしょうか

テキストに頼るというのは、それだけプレイヤーに「文字を読ませる」という負荷を与えていることになるので、注意が必要です。

テキストを減らすことを考えてみよう

あなたの遊んでいるゲームや、開発しているゲーム、構想しているゲームで、今使われている「テキスト」部分を減らすとしたら、どのような箇所が考えられるでしょうか。

もちろんRPGやノベルゲームのように、会話やテキストなどが主体となるゲームでは難しいでしょうが、その中でもテキストを減らせる部分はあるかもしれません。

皆さんも一緒に色々とアイデアを考えて、より良いゲーム作りのための鍛錬を積んでいきましょう。

本記事がゲーム制作をする皆さんのインプットに役立てば幸いです。


本連載の趣旨については下記記事をご覧ください。

他の連載記事はハッシュタグ「#ゲームデザインの引き出し」からどうぞ。

(※本記事中のゲーム画像は、「引用」の範囲で必要最低限の範囲で利用させて頂いています)