見出し画像

#22『ジラフとアンニカ』から学ぶゲームデザインの引き出し(1)「Webコミック風のイベントシーン」

本記事「ゲームデザインの引き出し」は遊んだゲームから一つのアイデアに注目し、ゲームデザインの実例を勉強していく連載記事です。

ゲーム開発のプランナーやプログラマー、これからゲーム制作を志す方の、アイデアのインプットのための引き出しとなれば幸いです。

ゲームの紹介

『ジラフとアンニカ』は、メルヘンチックな絵本のような世界で、猫耳の少女アンニカがふしぎな島を探検する、3Dアクションアドベンチャーゲームです。

画像1

ジラフとアンニカ / atlier mimina

本作は、不思議な島に迷い込んだ主人公のアンニカが、島中を探検したり、島の住人たちと会話したりしながら、謎を解いていく冒険モノです。

3Dアクションゲームですが攻撃やバトルなどは無く、ダンジョンの奥にいるボスとの戦いもリズムゲームとなっており、見た目どおりの優しい世界感が特徴です。

クリア時間も10時間程度で、コンパクトながら丁寧に作られた作品という印象ですね。

3Dゲームにおけるイベントシーン

さて、ゲーム中の重要なイベントでは、キャラクター同士の会話によるイベントシーンが挟まるのですが、「3Dゲームのイベントシーン」というと皆さんはどういったものを想像するでしょうか?

まるで演劇の舞台のように

・3Dのキャラモデルが向かい合い、
・カメラワークを駆使しながら、
・メッセージ(およびボイス)で会話の掛け合い、
・キャラの身振り手振り、
・激しいアクションがある場合も。

といったイメージではないでしょうか。
(他にも、キャラクターが棒立ちしていて、RPGの会話ウインドウのように顔イラストとメッセージで進むタイプもよくあると思います)

Webコミック風のイベントシーン

本作ではイベントシーンが特徴的な作りとなっており、「Webコミック風」のカットで進行します。

画像2

Webコミック風のイベントシーン

「Webコミック風」といっても単に縦にスクロールするだけというものではなく、各コマに順次フォーカスが合うようにスクロールし、セリフや書き込みはアニメーションをします。会話の選択肢が出てくるところもあります。

このスタイルは、ゲームに組み込むにあたって「珍しい」という以外にもメリットがあると思います。

キャラの表情が豊か

3Dキャラクターの顔アニメーションは、どうしてもリアルの範囲内での表現に収まりがです。

一方、2Dのイラストで描かれたキャラクターの表情は、リアルを超えた「コミック的」な表現もお手の物ですし、とても生き生きと豊かなものになります。

(本作には出てきませんが、例えば「目が飛び出る」ような表情を3Dモデルでやろうとすると相当おかしなことになりますよね)

モーションの動きも豊か

上の例で引用したイベントシーンでは、アンニカが石に躓いて転んでいます。

こういうシーンを3Dキャラクターでやろうとすると、石に躓いてから地面に倒れるまでの繋きも全部表現することになり、どこかわざとらしい演技になりがちです。

2Dイラストの場合は、躓くカットと倒れたカットを描くことで、後はプレイヤーの想像力で、自然にその間をイメージして貰えます。

これは「漫画」表現の強みと言えるでしょう。

工数が抑えられる(かも)

3Dキャラの顔アニメやモーションアニメを専用で付けるのは、専門のアニメーターの技術が必要ですし、かなりの時間と工数が掛かります。

コミックであれば(雰囲気にあったタッチで漫画を描けるイラストレーターが必要という前提はあるものの)、おそらく3Dモデルのアニメーション付けをするよりは工数を抑えられると思います。

ただ、複数人で絵柄のタッチを統一しながら分業することは難しいでしょうから、イラストレーター1人に負荷が集中しそうです。
分業と量産を前提にした大規模ゲームでは実現が難しいかもしれません。

イベントシーンを考えてみよう

あなたの遊んでいるゲームや、開発しているゲーム、構想しているゲームで、イベントシーンや会話シーンなどはあるでしょうか?

その場合、よくあるRPG風の会話シーン、3Dのカットシーン以外に、どのような新しい演出スタイルがあるでしょうか?
世の中にあるメディア表現を拝借してみることを考えてみましょう。


(以下に挙げる例は私が具体例を知らないだけで、既に世の中のゲームにあるかもしれませんが)
例えば、LINEのトーク画面風やTwitterのようなSNS風に会話が進むものとかはノベルゲームやテキストアドベンチャー等でありそうですね。

Youtubeチャンネルを模したようなスタイルや、VTuberのアバター風の会話シーンはどうでしょうか。

逆に昔に戻って、絵巻物のような表現も、歴史ものや和風ファンタジーとかで使われていたりしますね。

イベントシーンとはちょっと違いますが、『シュタインズ・ゲート』では、(当時はガラケー時代だったので)携帯電話の着信に出る/出ないでシナリオが分岐するシステムがありました。


プログラマーの視点

イベントシーンは、ストーリー重視のゲームになればなるほど、ゲーム全体に占める比重が大きくなってきます。

それなりの規模のゲームではイベントシーンを1つ1つプログラムで書くということは殆どなく、汎用的なイベントシステムを用意するでしょう。
そうすれば後はスクリプトやツールで、イベント担当のプランナーやデザイナーがシーンを作っていけますし、量産も効くからです。

一方、イベントシステムに用意されている以上の表現は出来ないため、表現の幅が狭くなったり、ワンパターンになってしまう可能性もあります。

最低限のイベントシステムを作ってその中でなんとかして貰うのか、演出の幅を高めるためにどんどん追加機能を入れていくのか、プログラマー側からのアドバイスや関与も必要になるでしょう。

皆さんも一緒に色々とアイデアを考えて、より良いゲーム作りのための鍛錬を積んでいきましょう。

本記事がゲーム制作をする皆さんのインプットに役立てば幸いです。


本連載の趣旨については下記記事をご覧ください。

他の連載記事はハッシュタグ「#ゲームデザインの引き出し」からどうぞ。

(※本記事中のゲーム画像は、「引用」の範囲で必要最低限の範囲で利用させて頂いています)