55歳からのハローライフ 感想2
前回に引き続き、村上龍さん作「55歳からのハローライフ」の感想です。
今回は、女性が主人公の物語について、触れてみたいと思っています。
1 結婚相談所
主人公の女性(58歳)が、夫との離婚の後、結婚相談所に登録し、いろいろな男性と出会う中で、これまでの人生を振り返り、これからの人生について悩みながらも前に進んでいこうとする話です。
熟年離婚に至るまでの経緯、新しく始めたスーパーの仕事、結婚を望む理由、相手の男性との付き合いによって見えてきた、これからの人生の方向性…
どれも非常にリアルで、「もしかしたら私もこうなるかも」と思わされましたね。
また、巷でよく聞く「結婚≠幸せ」は本当だということ、主人公の夫のように、誰かや何かを失って始めて、その大切さに気づく人も少なくないのだということが身にしみてわかりました。
今後の自分の生き方を考える上で、非常に参考になるお話でした。
2 ペットロス
主人公の女性は、夫との関係が思わしくありませんでしたが、一人息子の結婚・独立の後に、柴犬を飼い始めることにより、少しずつ人生の風向きが変わり始める、と言う話です。
主人公と夫との関係の変化、飼い犬のボビーとの日々、ボビーを連れて歩くことによって生まれたある男性との関係…
これらのことが、非常に簡潔でわかりやすい文章にまとめられており、しかも登場人物たちの置かれた環境、これまでの経験から得た教訓や価値観などが手に取るようにわかります。
また、主人公と夫との関係性が変わり始める経緯やきっかけの描写も自然で、夫婦関係とは、本当に些細なきっかけでいい方向にも悪い方向にも向かうものなんだ、ということを感じました。
2つの物語の主人公は、同年代ということ以外は、育ってきた環境、性格、夫や周囲の人との関係、経済状況など、ありとあらゆるところが違っています。
フィクションだとわかっていながら、どちらの人生もあり得るのではないか、と思わせるような作者の力量にはひたすら感服するばかりです。
非常に対称的な2人の女性の半生を見事に書ききったこの作品のおかげで、今後の生き方を考えるきっかけを得ることができました。
読んで良かったです。