【ショート】イン・ザ・ボックス
その箱の中に何が入っているか、誰も知らなかった。
箱がいつからここにあるのか正確に記憶している者さえ一人もいなかった。
町の真ん中の広場、その中心に忘れ去られたようにポツンと置かれている。
きっと何度か雨に打たれているはずなのに真っ黒な箱の側面はまるで新品のように艶やかに輝いていた。
「中には何が入っているのだろうか?」
「勝手に開けて確かめるわけにもいかないと思うけど」
「でもずっと放置もしておけないよ」
みな、警戒して箱から2歩離れたところから会話する。
「開けてみたらどうだい?」
「そう言う君が開けてみたら?」
箱をそっとコワレモノを扱うように持ち上げると中で小さくカタコトッと何かが動いた音がした。
その音があまりに優しい音だったので、いまの今まで怯えていた彼らも興味を惹かれて中を見てみたくなった。
錠のようなものもない。
蓋を開けるだけで見放題だ。
蓋を開けて、中を覗き込むと底の方で七色の光沢を放つビー玉が揺れ動いていた。