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本当の「満天の星」を君に見せたい

「満天の星」を見たことがありますか。

「満天の星」というのは、文字通り「天」を星が満たしたような空、つまり夜空いっぱいに星が広がる光景を表現した言葉です。

私はよく、彼女と星を見にドライブに行きます。都市部から離れた場所では、星がとてもよく見えるものです。

彼女はいつも、「うわぁ、すっごい!満天の星だね!」とはしゃいで言うのですが、私は往々にしてそうは思わないのです。

なぜなら、私は本当の「満天の星」を知っているからです。

そして、人は本当の「満天の星」を前にすると、「すごい」なんて言葉は出ずに、ただただ恐怖を感じる、ということも知っているからです。 






11歳、小学5年生、もう今から10年以上前の話です。

私は叔父に連れられ、自衛隊の「総合火力演習」というものを見に、富士山へ向かっていました。

総合火力演習とは、定期的に富士山で行われる、自衛隊の戦車をはじめとした戦闘能力を一般公開し、国民に広く自衛隊の活動を理解してもらおうとするイベントです。

当然実弾を発射したりするので、演習が行われるのは富士山の無人地帯、たしか5合目あたりだったと記憶しています。

朝早くから行われるため、私と叔父は深夜に車で出発して、夜中の3時ごろに富士山5合目に到着しました。

流石に早すぎたみたいで、私たち以外の人の姿はなく、駐車場には街灯のような灯りは一切ありませんでした。

しかし、車を止め、エンジンを切って室内灯を消しても、なぜかぼんやり外が明るいのです。

不思議に思って外に出て、その理由を理解しました。

空一面を、無数の星々がひしめくように埋めており、各々が自身の存在を激しく主張するように、まばゆい光たちが明滅していたのです。

夜なのに、まぶしい。

完全に異世界でした。

白く光る星もあれば、赤く、そして青く、緑に光る星があることをその時初めて知りました。

すごい、きれい、そんな軽い言葉では表現できない、荘厳であまりにも圧倒的すぎる自然の生々しい姿。

私は恐怖を感じました。身体が震えていました。

逃げたい、隠れたい、そう思いました。

それでも私の目を、星々が掴んで離さない。

140億年以上の歴史を刻んだあまりにも大きすぎる自然の存在は、生まれて11年というあまりにも小さすぎる私の存在を弄んでいるようでした。

その、自分の小ささに、なす術のなさに、何をどうしたって並ぶことができない圧倒的な存在に、私はただただ恐怖を感じることしかできなかったのです。





あれから10年以上が経ち、今夜も、車を降りた彼女が隣ではしゃいでいます。

「こんなきれいな満天の星見たことないよ!すごい!」

そうだね、すごいね、と呟いて、私はもう一度夜空を見上げ、あの日の100分の1にも満たない数の星々たちを見つめました。

君に見せたい。本当の「満天の星」を。


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